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黄金の魔女フィーア (旧版)
黒幕との対峙
ガーゴイルに追い詰められた私達は、後退しながらなんとか逃げ延びた。
「おい、ここに階段があるぞ」
アレックスが見つけた階段、罠の可能性もあったがガーゴイルから逃げるためにはやむを得なかった。そこに隠れた。
地下道が続いている。どうやら何者かが、この村長の屋敷の地下倉庫をさらに掘り下げて拠点にしているみたいだ。
「……まずいな。きっとここは魔物の拠点だ。誘い込まれたみたいだ」
ティファレトさんも、同じことを考えていたのね。
「……おい、この部屋見ろよ!」
アレックスが指差す先にあるのは血まみれのエミリーだった。
慌てて確認するが、触っても体温を感じない。
「ダメだ……もう死んでいる」
新しい傷があった。喉を横に切り裂かれている。間違いなく刃物でつけられた傷だ。
「フフフ、こんな初歩的な幻術で釣れるとはな……よほどかつての仲間が恋しかったのか」
「――誰!?」
とっさに声の方へ振り向く。
灯りを向けた先にいたのは大男。ティファレトさんよりも三割以上背が高く、肌は浅黒い。見るからに異形だ。しかもゾンビではない。知性を持ち私達が理解できる言葉を話している。
「何者だ!?」
「俺はオーガのブラスファ。よろしくな」
……何がよろしく、よ。あなたがエミリーを殺したのでしょう?
「てめえ、よくもエミリーを!!」
――私が怒りを放つより先にアレックスが、逆上して切りかかった。
「よせ! 早まるな!」
ティファレトさんの制止の声、それを聞いたとたんに彼は動きを止めた。
「――!?」
「ウフフフ」
気味の悪い笑い声を、オーガが発したかと初めは思った。だがそこにいたのはオーガではなかった。
「え、エミリー……?」
そう、そこにいたのは間違いなくエミリーであった。
だが彼女は仲間である私達に対して腕を向ける――それは魔法詠唱の予備動作。
「まずい、逃げろ!!」
途端、彼女の手から炎が放たれた。
「ぐあああああ!!」
動揺するアレックスは、逃げ遅れてしまい焼き尽くされる――そこに残ったのは、黒焦げになった彼と刀身がとろけながら分離した義手だけだった。
「……あなた、一体なにを!?」
私が問いた途端に、エミリーは元の姿に戻った。その姿は正真正銘、オーガであった。
「簡単なことだ。あの女にも、お前らにも、死んだ仲間の幻覚を見せてやった」
幻術使い……やはりこの男も魔術士か。ただのオーガにしては技量が高すぎる。まさか……上位個体か。
「それだけで無抵抗で死んでくれたのは、スバラシイ見物だったぞ」
……ダメよ、私。こんな挑発で怒ってはいけない。
「まるで彼女が私達のことを信頼していなかった、みたいな言い草だな」
ふと振り向いたら、ティファレトさんの顔が……かつて見せたことのない、静かな怒りがそこにあった。
「ハハハ、お前がそう思うならそうなんだろうなあ」
――彼女が私達を信頼していないこと自体は、今更言われなくてもわかっていた。嫌われていることも、死んだ仲間への未練を引きずっていることも。全部最初から気づいていた。
でも、たとえそうだとしても、私はアレックスの思いを尊重したかった。ミレーヌやテオドールは納得しないと思うけど、それが同じ班になるということだから――その思いはあなたの安い言葉では壊せない。
「喜べ、お前達も今すぐこの女のようにしてやろう」
――まあ、あなたにとっては興味のない話でしょうね。今互いに必要なのは目の前の相手を殺すこと、それだけの話。
「あなたがこの事件の黒幕なの?」
「お前がそう思うならそういうことにしておけばいいさ」
答える気はないか。だったら戦うだけよ。あなたの魔法を見せてみなさい。
「ギギッ! 死体ダ!!」
視界の外から甲高い声が響く。聞こえたのはエミリーの死体の方。
「コレナラ、上質ナアンデッド作レル!!」
見下ろすとそこには緑の肌をしたゴブリンがいた。気が付いた時には協力してエミリーを持ち上げ、連れ去っていく。
「どうした? 既に死んでいるとはいえ仲間を奪われたのだぞ。助けに行かないのか?」
分断するつもり……?
「……フィーアさん、分かっているとは思うが乗るんじゃないぞ。一瞬でも背を向けたらそれが命取りになる」
そうでしょうね。本当は行きたいけど背を向けるのはまずい。相手が魔法を使えるなら余計に。
「まあ行かないならそれでもいい。これがあの女との今生の別れになるだけだ」
留まると決めたところで、相手は武器を構えた。片側にだけ刃が付いた分厚く平らな剣。それを一本ずつ両手に持っている。
「気を付けろ、あれはファルシオンだ。重量によって強力な一撃を繰り出してくるぞ」
そうでしょうね。しかも二刀流ですもの。人間では真似できない凄まじい剣技を繰り出してくるに違いないわ。
「ブラスファの闘技を思い知れ」
「おい、ここに階段があるぞ」
アレックスが見つけた階段、罠の可能性もあったがガーゴイルから逃げるためにはやむを得なかった。そこに隠れた。
地下道が続いている。どうやら何者かが、この村長の屋敷の地下倉庫をさらに掘り下げて拠点にしているみたいだ。
「……まずいな。きっとここは魔物の拠点だ。誘い込まれたみたいだ」
ティファレトさんも、同じことを考えていたのね。
「……おい、この部屋見ろよ!」
アレックスが指差す先にあるのは血まみれのエミリーだった。
慌てて確認するが、触っても体温を感じない。
「ダメだ……もう死んでいる」
新しい傷があった。喉を横に切り裂かれている。間違いなく刃物でつけられた傷だ。
「フフフ、こんな初歩的な幻術で釣れるとはな……よほどかつての仲間が恋しかったのか」
「――誰!?」
とっさに声の方へ振り向く。
灯りを向けた先にいたのは大男。ティファレトさんよりも三割以上背が高く、肌は浅黒い。見るからに異形だ。しかもゾンビではない。知性を持ち私達が理解できる言葉を話している。
「何者だ!?」
「俺はオーガのブラスファ。よろしくな」
……何がよろしく、よ。あなたがエミリーを殺したのでしょう?
「てめえ、よくもエミリーを!!」
――私が怒りを放つより先にアレックスが、逆上して切りかかった。
「よせ! 早まるな!」
ティファレトさんの制止の声、それを聞いたとたんに彼は動きを止めた。
「――!?」
「ウフフフ」
気味の悪い笑い声を、オーガが発したかと初めは思った。だがそこにいたのはオーガではなかった。
「え、エミリー……?」
そう、そこにいたのは間違いなくエミリーであった。
だが彼女は仲間である私達に対して腕を向ける――それは魔法詠唱の予備動作。
「まずい、逃げろ!!」
途端、彼女の手から炎が放たれた。
「ぐあああああ!!」
動揺するアレックスは、逃げ遅れてしまい焼き尽くされる――そこに残ったのは、黒焦げになった彼と刀身がとろけながら分離した義手だけだった。
「……あなた、一体なにを!?」
私が問いた途端に、エミリーは元の姿に戻った。その姿は正真正銘、オーガであった。
「簡単なことだ。あの女にも、お前らにも、死んだ仲間の幻覚を見せてやった」
幻術使い……やはりこの男も魔術士か。ただのオーガにしては技量が高すぎる。まさか……上位個体か。
「それだけで無抵抗で死んでくれたのは、スバラシイ見物だったぞ」
……ダメよ、私。こんな挑発で怒ってはいけない。
「まるで彼女が私達のことを信頼していなかった、みたいな言い草だな」
ふと振り向いたら、ティファレトさんの顔が……かつて見せたことのない、静かな怒りがそこにあった。
「ハハハ、お前がそう思うならそうなんだろうなあ」
――彼女が私達を信頼していないこと自体は、今更言われなくてもわかっていた。嫌われていることも、死んだ仲間への未練を引きずっていることも。全部最初から気づいていた。
でも、たとえそうだとしても、私はアレックスの思いを尊重したかった。ミレーヌやテオドールは納得しないと思うけど、それが同じ班になるということだから――その思いはあなたの安い言葉では壊せない。
「喜べ、お前達も今すぐこの女のようにしてやろう」
――まあ、あなたにとっては興味のない話でしょうね。今互いに必要なのは目の前の相手を殺すこと、それだけの話。
「あなたがこの事件の黒幕なの?」
「お前がそう思うならそういうことにしておけばいいさ」
答える気はないか。だったら戦うだけよ。あなたの魔法を見せてみなさい。
「ギギッ! 死体ダ!!」
視界の外から甲高い声が響く。聞こえたのはエミリーの死体の方。
「コレナラ、上質ナアンデッド作レル!!」
見下ろすとそこには緑の肌をしたゴブリンがいた。気が付いた時には協力してエミリーを持ち上げ、連れ去っていく。
「どうした? 既に死んでいるとはいえ仲間を奪われたのだぞ。助けに行かないのか?」
分断するつもり……?
「……フィーアさん、分かっているとは思うが乗るんじゃないぞ。一瞬でも背を向けたらそれが命取りになる」
そうでしょうね。本当は行きたいけど背を向けるのはまずい。相手が魔法を使えるなら余計に。
「まあ行かないならそれでもいい。これがあの女との今生の別れになるだけだ」
留まると決めたところで、相手は武器を構えた。片側にだけ刃が付いた分厚く平らな剣。それを一本ずつ両手に持っている。
「気を付けろ、あれはファルシオンだ。重量によって強力な一撃を繰り出してくるぞ」
そうでしょうね。しかも二刀流ですもの。人間では真似できない凄まじい剣技を繰り出してくるに違いないわ。
「ブラスファの闘技を思い知れ」
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