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黄金の魔女フィーア (旧版)

負傷者治療
「……ふむ、出血がひどいな。これは治せたとしても、戦うのは難しいかもしれん」
「ちょっと!? 助かるの、これ!?」
「治療具はどれだけある?」
「俺達が持ってきているのは止血剤と薬草、包帯くらいだが……」
「ここで薬草を消耗しすぎたら後々に響きそうだな……どうするべきか」

 これは難しいようね。見殺しにしないと言うのはいいけど、助ける手立てが立たなさそうだわ。
 ……だったらあれしかないか。

「待って」
「どうしたんだ、フィーアさん」
「私ならこの傷を治せるかもしれない」
「なに!?」

 そう言うと全員が驚きの表情で私を見る。当然だ。さっきまで不仲だった魔術師に偏見を持つ人間をいきなり治療すると言ったのだから。

「本当なのか!? あんた、この傷を!?」
「デタラメで言ってるんじゃないわよね!?」

 恥も忘れて私を頼るか。普段なら蹴るだろう。だけど今は命に係わる状況だ。そこまで身勝手は言わない。

「確かにこの重傷を治すのは難しい。普通にやったら助かったとしても戦いを続けるのは無理があるでしょう。だけど、私の使える魔法には一つだけこの傷を治せる魔法がある」
「本当なの!?」
「だけどその魔法には副作用があるの。このくらいの傷を埋めるだけなら軽い方で済むと思うけど、それでも安定するまでは拒絶反応が出るわ」

――だから、治す相手の同意なしで使える魔法ではない。私自身も生物に対しては実験でしか使ったことがない。

「それでもいいかしら?」

 改めて確認する。二人は絶望するような顔、ティファレトさんも祈るように目をつぶっていた。

「……そんなの……決まってんだろぉ」

 それに答えたのはアレックス本人

「その魔法……使ってくれぇ……もう二度と、悪口なんて言わねえから……」

 涙を浮かべた懇願嘘のない懺悔自分の事より他人を思いやる言葉
 それを聞いて私は覚悟を決めた。

「わかったわ」

 今すべきことは目の前にいる負傷者を助けること。魔術師に偏見を持つ人間は嫌いだが、悔い改めると誓うなら私はそれに応える。

「これから使う魔法は土から生物の血肉を生成する魔法。使うには患部に土を塗り付ける必要があるわ」

 傷口に土を塗る。本当はキチンと滅菌したものを使いたいが、持ってきている分が足りないからやむを得ない。

「大地よ、彼の者の新たな血肉となりたまえ……ソイル・リジェネート!!」

 宣言と共に、塗り付けた土が傷を埋めていく。次第にそれは肉と皮膚になり、完全に傷口を塞いでしまった。

「……助かったのか、俺は」

 そう、あなたは助かったのよ。

「やったー! 良かったアレックス、無事なのね!!」

 彼に抱き着き喜びを示すエミリー。

「すまない、おかげで助かった」

 ブライアンが礼を言っていたが、私は別に感謝されるようなことはしていない。それにまだ安心はできない。ここからは本人の治癒力に任せるしかないのだ。再生してばかりの頃は拒絶反応が出ないだけで、後々それが彼を蝕んでいくでしょう。

 そもそもこのソイル・リジェネートは、本来動物を治療することを前提に開発された魔法ではない。土を源に建材を修復するために造られた魔法なのだ。ゴーレムの損傷個所を治す分においては何も問題ないのだが。

 どちらにせよ、私の魔法で助けられる命があったという事実は間違いない。これで彼らも二度と魔術師の悪口を言えなくなるでしょうね。私は目の前にある偏見の芽を刈り取れたことの方が嬉しかった。

「…………」

 改心したとしても心は許さない。また裏切りを働く可能性がある。もう一度見限ることがないよう、せいぜい役に立つことね。それがあなた達が私に支払うべき対価よ。

「フィーア……あなたが人を助けるために魔法を使うなんて……」

 別に感動しなくてもいいのよ。ただ、私はやり直す機会を与えただけだから。

「さて、屋敷に向かうぞ」
「ティファレトさん、屋敷にはどれくらいで着くのかしら?」
「もうすぐポワブール川がある。そこにかかった石橋を超えれば目と鼻の先だ」

 ……石橋は中流にかかっている。山の中だからゾンビ以外にも野生動物に気を付けないといけない。熊や猪とかに警戒しておけばいいかしら。

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