※本エピソードにはR15相当の性描写があります


　どうも皆みなさん、こんばんは……ここは地獄じごくの一角いっかくにある、遊郭ゆうかくです。私わたし一人ひとりのために多おおくの小鬼こおに達たちのゆりかごと化かしたここで、三百年ねん以上いじょう子供こどもの体からだをしたまま私わたしは母ははをしています。
というのも、ここに来くる前まえの私わたしは男おとこでした。その頃ころに犯おかした罪つみによって、この姿すがたで償つぐないをすることになったのです。

――鬼おにになる前まえは、ありふれた社会人しゃかいじんとして日々ひびを過すごしていました。裕福ゆうふくとは言いえないものの、充実じゅうじつした独身どくしん生活せいかつを過すごしていた記憶きおくがあります。そんな日々ひびが変化へんかしたのは、社員しゃいん旅行りょこうの自由じゆう時間じかんに妻つまとなる女性じょせいと出会であったことでした。
　妻つまはすごくきれいな女性じょせいだったことは覚おぼえています。ですが同時どうじに、変かわった人ひとでもありました。夜よるの営いとなみを毎日まいにちのように求もとめてくるのです。元気げんきにあふれていた頃ころは喜よろこんで相手あいてをしていましたが、この生活せいかつが一か月げつも経たたない内うちに仕事しごとに差さし障さわるほどの疲つかれを溜ためこむ原因げんいんと化ばかしていました。それでも妻つまは、回数かいすうを減へらしながらも頻繁ひんぱんに求もとめてきましたね。
――ですが優やさしいところもある妻つまとも思おもっていました。過労かろうが原因げんいんで休職きゅうしょくした時とき、家事かじを全部ぜんぶ代かわりにしてくれました。料理りょうりも上手じょうずで、練ねり物ものばかりを好このんで出だすのは不思議ふしぎでしたが、脂身あぶらみの少すくなく高こうたんぱくな食事しょくじを用意よういしてくれていたのでしょう。その時とき私わたしは、彼女かのじょをとても良よい妻つまと思おもっていました――ここに来くる日ひまでは。



　ここに来きた時とき、私わたしは女おんなの子この鬼おにとなっていて、目覚めざめた直後ちょくごに閻魔様えんまさまのところへ連つれていかれました。死しんだことすら自覚じかくしていなかったあの時ときに初はじめて見みた、この地獄じごくの景色けしき……三百年ねん以上いじょう経たった今いまではとうに慣なれてしまいましたが、その時ときは恐怖きょうふとしか言いいようがありませんでした。
　閻魔様えんまさまは私わたしの罪つみとそれを償つぐなう方法ほうほうを、即座そくざに話はなしました。私わたしの犯おかした罪つみは子殺こころし。長ながきにわたって自分じぶんの子供こどもを殺ころし続つづけたと言いわれました。ですがそもそも、私わたしと彼女かのじょの間あいだに子供こどもなんて一人ひとりもいません。私わたしは怒いかって反論はんろんしましたが、閻魔様えんまさまは言いいました。

『お前まえの妻つまは、サメの娘むすめだ』
『お前まえはサメの娘むすめと交まじわり、その娘むすめが産うんだ子こザメを毎日まいにち食たべてきた』

　信しんじられない言葉ことばでしたが、その瞬間しゅんかん頭痛ずつうと共ともに記憶きおくがよみがえりました。地獄じごくに来くる直前ちょくぜんの、自分じぶんが死しぬ瞬間しゅんかんが。荒あらされた自宅じたくで待まつ妻つまの無事ぶじを願ねがいながら、寝室しんしつにいると探さがし当あてた時とき。

――そこにいたのは妻つまではなく、サメだったということを。そのサメが自分じぶんの首くびを食くいちぎって、もうろうとする意識いしきの中なか。そのサメが人間にんげんの女おんなに変身へんしんしたこと。顔かおは思おもい出だせなかったのですが、きっと妻つまだったのでしょう。



　その事実じじつを知しった私わたしは、妻つまこそが地獄じごくに堕おちるべきだと最後さいごまで訴うったえました。ですが閻魔様えんまさまは
『自分じぶんは人間にんげん以外いがいの動物どうぶつを管轄かんかつしていない』
と言いって、聞きき入いれてもらえませんでした。そしてこの遊郭ゆうかくで、償つぐないの日々ひびが始はじまったのです。

――その償つぐないとは、食たべてしまった子こザメ達たちの分ぶんだけここで小鬼こおにを産うむこと。それも丈夫じょうぶではない子供こどもの体からだで。しかも母体ぼたいにどんな危険きけんが及およんでも、死しぬことができない苦くるしみを受うけながら。
　ここに来きてからは色々いろいろな鬼おにに抱いだかれました。単純たんじゅんに女おんなをおもちゃとしか思おもっていない乱暴者らんぼうもの、妻子さいしがいるのに閻魔様えんまさまの命令めいれいのおかげで堂々どうどうと不倫ふりんができると嬉々ききする者もの、逆ぎゃくに閻魔様えんまさまの命令めいれいで望のぞまぬ不倫ふりんを強しいられその怒いかりを私わたしにぶつけるもの……良心的りょうしんてきな父ちちになってくれる鬼おになんて、一人ひとりもいませんでした。

　もうここで三百年ねん以上いじょう過すごしていますが、私わたしが出産しゅっさんした小鬼こおにの数かずは食たべてしまった子こザメの半分はんぶんにも到達とうたつしていないようです。
　子供こどもの体からだで償つぐないをさせられている以上いじょう、死産しざんになることもかなり多おおいのですが、死産しざんを合あわせた数かずで計算けいさんしてもまるで足たりないようです。きっともう、ここから出でることができる日ひは来こないのだろうと思おもいます
　大昔おおむかしの遊郭ゆうかくは女性じょせいにとってこの世よの地獄じごくだと言いわれていましたが、きっと本物ほんものの地獄じごくにある遊郭ゆうかくと比くらべたら格段かくだんに優やさしかったと信しんじたいです。