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特二!

-午睡の恋人-
ぷつんと、何かの電波がはいった音がして、美雪は振り返った。
 『警視庁特殊能力対策二課』の昼休みである。
「まーた電波かなぁ?」
 美雪の能力は、跳躍能力であるので、これは第六感のようなものなのだが、時々こうやって電波を“拾う”。美雪の父は、それがもっと顕著な人で、美術館のネズミ捕りの音波さえ拾った人だ。ただ、彼は“特殊能力”というほどに強力な力ではなかったが。
 おかげで、美雪の能力が発現した時は、『わしに似たか? ワハハハハハ』で終わった。美雪はおおらかな両親に育てられた事を結構感謝している。
 と、美雪の回想は、嵐山の豪快なイビキでかき消された。まあ、昼休みだからいいのだが。
「って、あれ? 課長まで・・・・・・」
 気づくと、特二で起きているのは美雪だけだ。
「えーっと・・・・・・」
 ネコでさえ眠っている。
「香取さーん。おーい」
 美雪はメンバーを順に揺すって回ったが、誰も起きる気配はない。美雪は、テロの可能性を想定し、まずは自分のジャケットを着た。いつも落ちる危険性を考えずに、跳ねまわっている美雪に、課長が特別にくれた、落下傘付きのものだ。
 銃をかまえ、そっと特二を出る。お隣の特一からも、誰かのイビキが聞こえる。廊下はしんとして、静かだ。
 美雪は、汗が浮き出るのを感じた。警視庁全体が、眠りの底にあるようだ。美雪の耳に、弦楽器の弾く音が届いた。竪琴? ハープ? それ系の音がする・・・ような気がする。美雪は音源にそろそろと近づいていった。
「会議室・・・・・・」
 ついこの間まで、英語のレッスンを受けていた会議室から、ハープの音がする。美雪は慎重に扉を開けた。
 ぎっぎっぎー・・・・・・。大きな音を立てたつもりはなかったが、意外と扉がきしんで、美雪は飛び上がった。すると、部屋の中でも飛び上がった人物がいる。
「特殊能力対策二課です! 手をあげてください!」
 美雪が銃を構えると、部屋の中央で、髪の長い美女が、右手を挙げた。
「りょ、両手を挙げて!!」
「ごめんなさい。左手は挙がらないの」
「え?」
 よく見ると、女性の左手の手首から下は、糸のようなものが煌めいていて、それは胴体に繋がっていた。
「あなた、どうして起きてるの??」
「へ?」
「私は、田中“トワイライト・クィーン”春子。インターポールの特殊能力対策課のものです」
「あ、ピッコロ先生と同じ・・・」
 そう、ルドルフ・“ピッコロ”シュバルツェンベルク氏は、インターポール。国際警察機構の人だ。
「私のハープを聴いたら、みんな眠ってしまうのよ。あなたはどうして起きているの??」
「いやぁ・・・どうしてって言われても・・・テロかと思いましたよ」
「やだ、ごめんなさい」
 テーブルの上には、ピッコロ先生がぐっすり眠っていた。

「ルドルフが、時差ボケがひどいって言うから、少しでも眠ってほしくて・・・本当にごめんなさい」
「(呼び捨てだ・・・・)いえ、ピッコロ先生、不眠だったんですね」
 知らなかったと言い、美雪はコーヒーを携えて、“トワイライト・クィーン”に一杯差し出した。
「ボリュームは下げたつもりだったんだけど。それにしても、あなたどうして起きているのかしら??」
「あー・・・・・・ラジオかも」
「ラジ、オ?」
「うちの家、ラジオつけっぱなしなんです。テレビあんまり見なくって。で、情報源の代わりにラジオ。悪い癖なんですけど。ながら作業が身に染みちゃってて」
 美雪はバツが悪そうに言った。“トワイライト・クィーン”は、一瞬面食らった顔をして、やがて大きく笑った。
「そう。ラジオ。ラジオね」
「えーっと・・・なんかすみません」
「いいのよ、元は私が悪いのだもの。でも、演奏を聴いてもらうのは、初めてだわ。
 まだお昼休みはあるわよね? よければもう少し、聴いてもらえるかしら?」
「喜んで!」
 美雪はコーヒーを置くと、拍手した。
 テーブルの上では、ピッコロ先生が、幸せそうに午睡を楽しんでいた。
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