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特二!

-オブラートの愛-
「ぅえーっくしょょょいっっっ!!!」
 ど迫力のくしゃみに、ルドルフ・“ピッコロ”・シュバルツェンベルクは、机の上で一回転した。机の上! そう、彼は言葉を操る“異能”の持ち主で、その身の丈はちょっとしたファッション人形ほどしかない(15cm程度といったところか)。
 そんな彼に、警視庁『特殊能力対策二課』所属、深迫“ラビット”美雪は、今英語を習っている。
「<風邪かね>」
 “ピッコロ”氏の声は、その名の通り、キーキーと高い。その上、早い英語で聞かれるので、美雪はさっきから『パードン?<もう一度お願いします>』という単語とお友達だ。気難しい事で有名なピッコロ氏だが、近年増え続けている外国人犯罪者との意思疎通のため、今回招聘されている。ピッコロ氏の能力は、そのものズバリ“言語”。まあ、人間翻訳機といったところだ。
「<少し、休もう>」
 一旦休憩を挟んでくれるらしい。美雪はほっとして、そそくさと会議室を出た。その足で、“特一”に行く。同期の霧島“チャームド”佳子の所に行くためだ。
「よーしーこー」
 ずびっと鼻をすすりながら、美雪は一課に顔をだした。
「美雪ちゃん。どうしたの? 顔が赤いよ?・・・・・・・風邪ねぇ」
「読んだ?」
「見れば、ああ、目でって意味だけど。わかるわよ」
 美雪は粉薬を手渡すと、一緒にペットボトルの水も用意した。
「何?」
「粉薬、直接胃にテレポートさせて。飲むの苦手なの」
 佳子はわりと有能なサイキックだ。ヘリコプターくらいの大きさの物をテレポートさせるくらいは、お手の物なのである。小さいモノくらい・・・。
「無理よ。量が多すぎるわ」
「へ?」
「一粒ずつ、テレポートさせる気? 何時間かかると思ってるのよ」
「えー」
「えーじゃない。飲みなさい」
「佳子のケチー」
 一課の前でわいわいやっていると、トコトコとピッコロ氏がやってきた。美雪を探しに来たとみえる。
「何をやっとるのかね」
「あ、ピッコロ先生」
 真っ赤な顔の美雪を心配して、ピッコロ氏はやってきたのだが、同僚とじゃれ合っているのを見て、内心ほっとした。(しかし、彼は表情にはださない。威厳がなくなると考えているのである)
「<先生からも言ってやってください、彼女は、粉薬を飲むのを嫌がって、私に薬をテレポートさせようとしているんです>」
「あっ、なんか告げ口してるっぽい!」
 美雪は粉薬とペットボトルを後ろに隠すと、愛想笑いを浮かべた。ピッコロ氏は、溜め息をつくと、『二人共、来なさい』と促した。
 会議室に戻ると、ピッコロ氏は小さな鞄から、これまた小さな小箱を取り出した。
「貸しなさい」
 流暢な日本語である。美雪はズルいと言いかけ、(授業中は、なにがあっても英語しか話してくれなかった)粉薬を手渡した。ピッコロ氏は、その袋を丁寧にピリリと引き裂くと、小箱から取り出した、薄い薄いオブラートに、慎重に粉薬を巻いていった
「君達のムッターは、こういう事はしてくれなかったのかね?」
「私は、飲める子どもだったので・・・」
「うちは、無理やり鼻摘まんで飲ませる家でした」
 勿論、前者が佳子、後者が美雪である。ピッコロ氏は初めて、美雪の前で笑うと、小さな、小さな薬を幾つも作ってくれた。
「私はこの通り、小さいからね。錠剤が飲めんのだよ。ムッターは泣きながら、こんな姿に産んだ自分が悪いんだと、こうやってオブラートを幾つも切って、錠剤を粉薬にして、私用に巻いてくれたものだよ」
「ムッターさんは?」
「ムッターは、ドイツ語で母親。もう、その母も天に召されたよ。私を幾つだと思ってる」
 美雪は、悪い事を聞いてしまったなという表情を押し隠しもせず、言葉を探した。
「君の悪い癖だ。犯罪者の前で、そんな顔をするんじゃないぞ。つけこまれるのがオチだ。
さあ、飲みなさい。飲んだら、授業再開だ」
「いえっさー」
 美雪は薬をかき集めると、ペットボトルの水で飲み下した。
 美雪は、ピッコロ氏が苦手でなくなった。
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