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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

エピローグ~英雄少女の凱旋
「スカジ様、メドゥーサ様から伝令が来ましタ」
「なんじゃ?」
「海軍が商会を見捨てて撤退を始めましタ」

 どうやら作戦成功の見込みがないとみなしたのか、手を引いてくれたみたいだ。

「やっとか。長い戦いじゃったな」
「あとアフロディーテという妖精王からの伝言が届いたそうです?」
「何? アフロディーテから?」
「どうやらあなたの危機を聞いて援軍を派遣したそうです。二匹の竜を連れた竜騎士で、名前はドミニクとセリアというそうです」

 アフロディーテとドミニク、地上で再会した二人が知らない間に助けに来ていたようだ。

「実際に迎撃部隊からも、第三勢力の彼らの加勢を確認したそうです。『紺碧の魔弾』のせいで手を出せなかった海軍に大損害を与え、撤退させたと伺いました」
「そうか……」

 火薬庫の攻撃がこの事態を招いたから、加勢してくれたのだろうか。どちらにせよ、ドミニクは責任を果たすために助けに来てくれたようである

「それでは、我々は敗残兵の掃討に移ります。スカジ様は村の守備をお願いします」
「ああ、頼んだぞ」



 こうして、チトリ諸島侵攻作戦は、彼女達の勝利で終わった。

「よく働いてくれた、諸君。おかげでチトリ諸島は守られた」

 海軍の撤退が確認されてから七十時間以上経った頃。生き残った戦士が体を休める村へ、メドゥーサは自ら赴いていた。

「それも全て、お前のような戦士がいてくれたおかげだ」

 半ば強引に、即席の表彰台に立たされたバーボチカ。

「そなたにこの勲章を授けよう。受け取っておくれ」

 差し出された勲章はメドゥーサの寵愛の証。それはギルマン達に仲間から認められたということでもあった。
 これを近海のギルマンに見せれば、持ち主は自らの王から寵愛を向けられている存在と知る。それにより彼らは持ち主へ忠義を誓うという。
 つまり、故郷の村と島のギルマン達が手を結び合うことができるということなのだ。

「……ありがとうございます」

 正直な話、バーボチカは今も彼女を軽蔑している。だが配下のギルマン達は共闘によって短い間だが絆を紡いだ仲である。
 それに彼女自身は無益な争いが嫌いであった。それを防ぐための贈り物なのだ。丁寧に、両手で受け取った。

「……なーなー、メドゥーサ。まだこのかったるい式は終わらんのか?」

 そこに悪い姿勢で座ったスカジが文句をつける。それへのメドゥーサの答えは――やっぱりいつも通りの投石であった。

「うわっ」

 今日は油断していたから、クリーンヒットしたようである。受け止めた後、彼女はなぜか怒らずに泣き出した。

「バーボチカぁ、メドゥーサがわらわにだけ冷たいんじゃあぁ。なんとかしておくれぇ~……」
「妖精王様、今のはどう考えてもあなたが悪いです。謝った方がいいと思います」

 だけどそこで、バーボチカはメドゥーサを初めてかばった。
 スカジは一緒に冒険をして、何度も助けてもらった大事な恩人。でも大人げないと思う場面も多くあったのか、今回ばかりは彼女を責める側に回るそうだ。

「そ、そんなぁ~……」

 威厳のない王を笑う人々。どうやらようやく本物の平和が帰ってきたようだ。

 それから村に帰ったバーボチカは早速、ギルマンを仲間に引き入れた。彼らの力を借りて少しずつでも復興を進めていくのである。



 なおピーチロード商会は私兵部隊の六割を失い、破壊された新鋭艦の損失を取り戻すどころではなくなってしまった。
 さらにその後、商会の代表マクシミリアンを含めた幹部が暗殺されるという事件が起きる。これにより商会は組織としての機能を完全に失い崩壊した。
 無論そのダメージは彼らから軍需品を調達していた海軍に波及したことは説明するまでもない。これによりアルミュールの海上戦力は十年以上もの間技術的発展が停滞することとなる。
 そして彼らと張り合う陸軍がそれをダシにして予算をさらに多く獲得することも、火を見るよりも明らかなことであった。

 だが、彼らにもたらされた結果はバーボチカにとって、全然大事なことではない。彼女は自分の島を守り、これまで通りの生活に戻ることができただけで満足なのである。あの時メドゥーサの誘いを蹴った際に発した言葉通りに……
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