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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
激震のフロンティア
「おやおや、思ったより番が早く回ってきましたねえ」
その時、背後から聞こえる声。これもまた、あの倉庫で出会った声だ。
「……次の三獣将!?」
無論、振り向いた先にいたのはあの肥満の男だった。その名は暴猿のバケット。
「おやおや、久しぶりでちゅねー。お元気でちたかー?」
耳障りな赤ちゃん言葉で語り掛ける男。
「…………」
一気に三獣将二人を最前線へ。奴らの狙いは恐らく電撃戦。いきなり最高戦力を全て投入して、戦局が悪化する前に彼女を亡き者にしてから後方の部隊を前に出し征圧する。恐らくそれが奴らの狙いだ。
「おっと、武器を構えるのは早いでちゅよー? 戦いの前に君にだけ、おじさんが面白いお話をしてあげようと思ったのにー」
「…………?」
面白い話――その言い草の時点で、これからする話が気分の悪くなるものだと彼女は察した。
「今怯えているあの子達は、落ちこぼれの兵士達なのでちゅよー。でも、私の親友であるジョージさんは彼らを最強の戦士にする力を持っているのです。何だと思いまちゅかー?」
「まさか、魔法で彼らを……?」
「そのとーりぃー!!」
まさか、信じられない。バーボチカの青ざめた顔が、まるでそう物語っていた。
「ジョージさんの魔法を使えばどんな落ちこぼれでも従順な兵士となる! それで恐怖を含めた感情を失った彼らは、どんな死地をも恐れない無敵の戦士になるのです!!」
――上機嫌な大演説と、静かだが誰よりも強い怒りが、相対する。
クラークの人を魔物に作り替える薬も許せなかったが、感情すら自分達の都合にいいように作り変えてまで他人を勝利の道具にするというやり方は、どう考えても信じられなかった。
「……悪魔め」
「ん?」
「あなた達は悪魔です! いや、本物の悪魔ですらこんな惨いことはしない! あなた達は悪魔を超える邪悪です! 絶対に許さないッ!!」
ジョージの遺体から回収したファフナーの牙を、再び構える。怒りと共に、英雄が立ち上がった。
「そうですか。まあそうかもしれませんね」
「…………」
「ところで、あなたがジョージさんを殺したのですよね?」
返事をする必要など、彼女にはなかった。
「あなたも私にとっては、戦友の命を二人も奪った憎むべき悪魔なのですよ。その罪、償う覚悟はありますか?」
「…………」
――敵同士でこんなことを言い合っても仕方がない。しいて言うなら敗者が償う側になる可能性があるかどうかだろう。
「ところで、彼の魔法がなくなった彼らはもう戦うことはできません。もう生きる価値のない生ゴミと言っていいでしょう。ですので――」
体を強く起こして獣化する男。筋肉の肥大化によって服は破け、黒い体毛でビッシリ覆われた肉体を現す。その様はまさしく大猿だった。
「テメーらもろともッ! 皆殺しにしてやるぜぇぇー!!」
凄まじい咆哮に、周囲の者全員が耳を押さえる。
「……まずいッ!」
本能的に距離を取り、いつものポールポジション、樹上へ向かうバーボチカ。
「オオォォーッ!!」
だがそれを見た大猿は即座に飛び移った樹へと突進。
「――!?」
急いで次の樹へと飛び移り、逃げるが、一撃の下に樹が倒された。
「キャアァー!? 誰か助けてぇー!!」
その倒れる先には数匹のゴブリンに襲われている女性兵士がいた。
「ウェッ」
ゴブリンもろとも下敷きにされる兵士。間違いなく即死だった。この大猿は宣言通り、仲間すら巻き添えにして攻撃を行ったのである。
兵を道具としか思っていないのは他の将も同じだったが、自ら直接死に追いやったのはさすがにこの男だけだ。
「オオォォーッ!!」
再びバーボチカを追撃する大猿。今度は飛びかかりだ。
「…………!!」
速すぎて弓で反撃する暇すらない。逃げるのは間に合うが、空ぶった先にいた別の兵士がのしかかられ、やはり一撃で絶命した。
「ほーう、樹を足場にするのが得意なのかッ! なら足場を根こそぎ奪うまで!! ガァァァッー!!」
どんどん高まる興奮の赴くままに暴れる大猿。今度は周りの樹々に手当たり次第ラリアットを放ち始めた。
「うわあー!?」
「グハッ」
「いやあぁぁー!?」
「オノレッ」
次々響き渡る悲鳴。もはや敵味方の関係はない。衝動だけで破壊の限りを尽くすこいつの前では、巻き添えにならないよう逃げるだけで精一杯である。
「お前達、あのゴリラをヤレ! 怯える兵は放っておいても勝手に死ヌ! あいつを潰すのが急務ダ!!」
それでも怯まない戦士長。その号令を受け生き残った魔物達は一斉に向かう。
「オオォォーッ!!」
しかし剛腕による打撃が彼らを一人残さず跳ねのける。手出しできないまま、多くの命が散っていく。
「……みんなの命、無駄にしない!!」
だがバーボチカは、やっと反撃のチャンスが見つけることができた――破壊されていない最も近い樹に急ぎ移動。即座にファフナーの牙を突き出した急降下攻撃を放った。
「むう? グハッ!!」
それが無防備な背中を捉えた。刃を突き立てながらバランスを取り、背に乗る。そこから繰り出される斬撃の追撃。
「ハナレロォー!!」
振り落とさんと言わんばかりの必死の抵抗。だが肉に刺した刃を力の支点にしてバーボチカは必死でつかまる。決して手を離さない。
「――ふん!!」
そこめがけて自慢の槍を投げつけるスカジ。
{{《!orange》「ギエアアッ!」
激痛にのたうち回る大猿。少しずつだが確実に死が迫っていた。
「何をしている、お前達!!」
それに続けて、一歩退いている者達へ檄を飛ばす。
「あんなにも小さな少女がお前達を守るために命をかけているのじゃぞ! お前達も援護せぬか!!」
その言葉によって、彼らの失われた闘志が戻ってきた。
「そ、そうだ!」
「チビ、待ってろよ! 俺達も加勢するから!!」
戦場に転がる無数の武器、彼らはそれを拾い集め始めた。
「ゴガアアッー!!」
――強まる抵抗の前に、次第につかまる力が弱ってきた。もう限界の一歩手前、早く仕留めねば死ぬのはバーボチカだ。
「くらえええー!!」
――だがその時、村人達の援護がやっと来た。
「――今だッ!」
彼らの狙いを瞬時に把握したバーボチカは、最後の力を振り絞る。自ら離脱したのだ。
その直後に、大猿目掛けて無数の飛翔物が襲い掛かった。
「グギッ」
石にナイフ、こんぼう。そして折れた剣と槍の穂先。さらにそこへ、スカジの放った氷のつぶてが加わる。
「……トドメですッ!!」
そこへバーボチカも、とっておきを投げつけた。
「イギギギィッ!!」
バーボチカが投げつけたのは薬ビン。割れた衝撃で飛散した中身が傷口にしみこみ、鋭い叫びを上げさせる。
――そう、投げつけたのはあの出血性の毒だ。クラークは抗体を作りやり過ごしたが、今回浴びせたのは武器に塗り付けるものの千倍以上の量がある原液。
そんな量を浴びせられて抗体を作る暇など、ある訳がない。全身の傷からとめどなく溢れる血液。万が一助かったとしても、二度と戦うことはできないはずだ。
巨体の倒れる音、それが止んだ後も敵の体からは血液が溢れ続けた。
――それからも散発的にだが上陸部隊との戦いは続いたが、先程の先遣隊を超えるほどの戦力の部隊は来なかった。
やはり戦局の要である将二人を同時に失った後では、継戦能力に不足するような練度の兵員しかいないのだろう。
三獣将、特にバケットとの戦いで兵員達は著しく損耗しているが、この時のために魔力を温存しながら迎撃に臨んでいたスカジの孤軍奮闘により、村に入った部隊は殲滅されていった。
その時、背後から聞こえる声。これもまた、あの倉庫で出会った声だ。
「……次の三獣将!?」
無論、振り向いた先にいたのはあの肥満の男だった。その名は暴猿のバケット。
「おやおや、久しぶりでちゅねー。お元気でちたかー?」
耳障りな赤ちゃん言葉で語り掛ける男。
「…………」
一気に三獣将二人を最前線へ。奴らの狙いは恐らく電撃戦。いきなり最高戦力を全て投入して、戦局が悪化する前に彼女を亡き者にしてから後方の部隊を前に出し征圧する。恐らくそれが奴らの狙いだ。
「おっと、武器を構えるのは早いでちゅよー? 戦いの前に君にだけ、おじさんが面白いお話をしてあげようと思ったのにー」
「…………?」
面白い話――その言い草の時点で、これからする話が気分の悪くなるものだと彼女は察した。
「今怯えているあの子達は、落ちこぼれの兵士達なのでちゅよー。でも、私の親友であるジョージさんは彼らを最強の戦士にする力を持っているのです。何だと思いまちゅかー?」
「まさか、魔法で彼らを……?」
「そのとーりぃー!!」
まさか、信じられない。バーボチカの青ざめた顔が、まるでそう物語っていた。
「ジョージさんの魔法を使えばどんな落ちこぼれでも従順な兵士となる! それで恐怖を含めた感情を失った彼らは、どんな死地をも恐れない無敵の戦士になるのです!!」
――上機嫌な大演説と、静かだが誰よりも強い怒りが、相対する。
クラークの人を魔物に作り替える薬も許せなかったが、感情すら自分達の都合にいいように作り変えてまで他人を勝利の道具にするというやり方は、どう考えても信じられなかった。
「……悪魔め」
「ん?」
「あなた達は悪魔です! いや、本物の悪魔ですらこんな惨いことはしない! あなた達は悪魔を超える邪悪です! 絶対に許さないッ!!」
ジョージの遺体から回収したファフナーの牙を、再び構える。怒りと共に、英雄が立ち上がった。
「そうですか。まあそうかもしれませんね」
「…………」
「ところで、あなたがジョージさんを殺したのですよね?」
返事をする必要など、彼女にはなかった。
「あなたも私にとっては、戦友の命を二人も奪った憎むべき悪魔なのですよ。その罪、償う覚悟はありますか?」
「…………」
――敵同士でこんなことを言い合っても仕方がない。しいて言うなら敗者が償う側になる可能性があるかどうかだろう。
「ところで、彼の魔法がなくなった彼らはもう戦うことはできません。もう生きる価値のない生ゴミと言っていいでしょう。ですので――」
体を強く起こして獣化する男。筋肉の肥大化によって服は破け、黒い体毛でビッシリ覆われた肉体を現す。その様はまさしく大猿だった。
「テメーらもろともッ! 皆殺しにしてやるぜぇぇー!!」
凄まじい咆哮に、周囲の者全員が耳を押さえる。
「……まずいッ!」
本能的に距離を取り、いつものポールポジション、樹上へ向かうバーボチカ。
「オオォォーッ!!」
だがそれを見た大猿は即座に飛び移った樹へと突進。
「――!?」
急いで次の樹へと飛び移り、逃げるが、一撃の下に樹が倒された。
「キャアァー!? 誰か助けてぇー!!」
その倒れる先には数匹のゴブリンに襲われている女性兵士がいた。
「ウェッ」
ゴブリンもろとも下敷きにされる兵士。間違いなく即死だった。この大猿は宣言通り、仲間すら巻き添えにして攻撃を行ったのである。
兵を道具としか思っていないのは他の将も同じだったが、自ら直接死に追いやったのはさすがにこの男だけだ。
「オオォォーッ!!」
再びバーボチカを追撃する大猿。今度は飛びかかりだ。
「…………!!」
速すぎて弓で反撃する暇すらない。逃げるのは間に合うが、空ぶった先にいた別の兵士がのしかかられ、やはり一撃で絶命した。
「ほーう、樹を足場にするのが得意なのかッ! なら足場を根こそぎ奪うまで!! ガァァァッー!!」
どんどん高まる興奮の赴くままに暴れる大猿。今度は周りの樹々に手当たり次第ラリアットを放ち始めた。
「うわあー!?」
「グハッ」
「いやあぁぁー!?」
「オノレッ」
次々響き渡る悲鳴。もはや敵味方の関係はない。衝動だけで破壊の限りを尽くすこいつの前では、巻き添えにならないよう逃げるだけで精一杯である。
「お前達、あのゴリラをヤレ! 怯える兵は放っておいても勝手に死ヌ! あいつを潰すのが急務ダ!!」
それでも怯まない戦士長。その号令を受け生き残った魔物達は一斉に向かう。
「オオォォーッ!!」
しかし剛腕による打撃が彼らを一人残さず跳ねのける。手出しできないまま、多くの命が散っていく。
「……みんなの命、無駄にしない!!」
だがバーボチカは、やっと反撃のチャンスが見つけることができた――破壊されていない最も近い樹に急ぎ移動。即座にファフナーの牙を突き出した急降下攻撃を放った。
「むう? グハッ!!」
それが無防備な背中を捉えた。刃を突き立てながらバランスを取り、背に乗る。そこから繰り出される斬撃の追撃。
「ハナレロォー!!」
振り落とさんと言わんばかりの必死の抵抗。だが肉に刺した刃を力の支点にしてバーボチカは必死でつかまる。決して手を離さない。
「――ふん!!」
そこめがけて自慢の槍を投げつけるスカジ。
{{《!orange》「ギエアアッ!」
激痛にのたうち回る大猿。少しずつだが確実に死が迫っていた。
「何をしている、お前達!!」
それに続けて、一歩退いている者達へ檄を飛ばす。
「あんなにも小さな少女がお前達を守るために命をかけているのじゃぞ! お前達も援護せぬか!!」
その言葉によって、彼らの失われた闘志が戻ってきた。
「そ、そうだ!」
「チビ、待ってろよ! 俺達も加勢するから!!」
戦場に転がる無数の武器、彼らはそれを拾い集め始めた。
「ゴガアアッー!!」
――強まる抵抗の前に、次第につかまる力が弱ってきた。もう限界の一歩手前、早く仕留めねば死ぬのはバーボチカだ。
「くらえええー!!」
――だがその時、村人達の援護がやっと来た。
「――今だッ!」
彼らの狙いを瞬時に把握したバーボチカは、最後の力を振り絞る。自ら離脱したのだ。
その直後に、大猿目掛けて無数の飛翔物が襲い掛かった。
「グギッ」
石にナイフ、こんぼう。そして折れた剣と槍の穂先。さらにそこへ、スカジの放った氷のつぶてが加わる。
「……トドメですッ!!」
そこへバーボチカも、とっておきを投げつけた。
「イギギギィッ!!」
バーボチカが投げつけたのは薬ビン。割れた衝撃で飛散した中身が傷口にしみこみ、鋭い叫びを上げさせる。
――そう、投げつけたのはあの出血性の毒だ。クラークは抗体を作りやり過ごしたが、今回浴びせたのは武器に塗り付けるものの千倍以上の量がある原液。
そんな量を浴びせられて抗体を作る暇など、ある訳がない。全身の傷からとめどなく溢れる血液。万が一助かったとしても、二度と戦うことはできないはずだ。
巨体の倒れる音、それが止んだ後も敵の体からは血液が溢れ続けた。
――それからも散発的にだが上陸部隊との戦いは続いたが、先程の先遣隊を超えるほどの戦力の部隊は来なかった。
やはり戦局の要である将二人を同時に失った後では、継戦能力に不足するような練度の兵員しかいないのだろう。
三獣将、特にバケットとの戦いで兵員達は著しく損耗しているが、この時のために魔力を温存しながら迎撃に臨んでいたスカジの孤軍奮闘により、村に入った部隊は殲滅されていった。
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