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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

更なる電撃作戦
「……確かに、お前の言う通りだな。よかろう」

 この暴君が素直に進言を聞いたのを見て、二人はびっくりした。この暴君には部下の筋が通った進言を聞くことができるくらいの器はかろうじてあったのだ。信頼関係のあることが前提だとしても。

「情報を吐かせろ」

 この場で殺されるのを免れた五人が、わずかに安堵した。

「スカジ、情報を聞きだすのはお前がやれ。私は朝食を食う」
「ハハッメドゥーサ様。貢物デス」

 暴君は玉座に座ったまま、貢物の魚を食らい始めた。それも生のまま、捌くことすらしない。

「やれやれ、相変わらず人任せな奴じゃのう」
「何か言ったか?」

 食事の手を止めた、一にらみ。

「ああ、わかったわかった。わらわがやっておくから、お前さんはゆっくり楽しんでおくれ」
「……それでいい。わかったならば食事中に二度と無粋な言葉を吐くな」

 軽口にも神経質に気を悪くする、相変わらずの地獄耳な旧友を背に、五人の下へスカジは向かう。

「お前さんら、死にたくないなら素直に吐くのじゃな。メドゥーサの奴が何をするかは、さすがにわらわでも想像できないからの」

 作り出された静寂と緊張感。従わなければ待つのは死だけ。さっきは気まぐれで進言を聞く余裕を見せたから生き長らえたが、まだ助かったわけでは決してない。

「…………」

 一人の女性兵士が、右手を挙げる。生き残りの中ではたった一人の女性だった。

「どうしたのじゃ?」
「……私が、一人で尋問を受けます。部下には手を出さないでください」

 残りの四人が奥歯を食いしばりながら見守る。
 女性兵士ではたった一人の生き残りなのだ。相手次第では死よりも惨い、女性としての尊厳を奪うような拷問が課せられるかもしれない。その念が四人の顔から出ていた。

「残っている者で一番階級が高いのは私です。この中では一番多く、この作戦のことを知っています。どうか彼らには累が及ぶことはないようにしてもらえますか」

 幸いにもメドゥーサはともかく、尋問を受け持つことになったスカジはそのようなことをするような者ではないのだが。無論敵にそれを推し量ることなどできないだろう。

「ほう……?」

 その覚悟を見て、面白そうに喜ぶスカジ。外面だけなら文句を言いながらも敵を辱めるのを楽しむように見えるが、その実は大妖精になる遥か昔からの人格形成であるいたずら妖精としての悪癖が出ただけである。

「いいじゃろう。部下には手を出さないようにしてやる」
「……感謝します」
「ただし、勝手に逃げ出した場合はさすがに命の保障はせんがな。バーボチカ、逃げ出さないよう見張っておいてくれ」

 楽しげに彼女を洞窟の外へ連れ出す妖精王。王となってもまだ、その背中にはいたずら妖精の血が残っていた。

「……行ってらっしゃーい」

 ところどころ子供っぽい一面が見える妖精王に、メドゥーサとは異なる呆れの感情を抱いていた。

「……結局、どうなっているんだ?」

 そして今になっても状況の説明を何一つされていない地上魔物の代表アーチラートは、今のやりとりを一瞬の出来事と感じるほどに常に困惑し続けているのであった。



――それからスカジが戻ってくるまで三十分程かかった。

「おーいメドゥーサ。終わったぞ」
「ほう、思ったより早かったな。で、有益な情報はどれだけ得られた?」
「情報が有益なのは間違いないのじゃが、状況的には残念な知らせばかりじゃ。心して聞いてくれ」
「…………」

 そこからスカジは聞きだしたことを説明し始めた。



――クラークの探知魔法はビーコンという近代になって開発された黒魔法のようじゃ。術者と術者が作り出した魔石を持つものが、対象になったものの場所を辿ることができる魔法らしい。
 魔石は術者が死んでも効力が切れない。対象が生きている限り永遠に効果が続くそうじゃ。既に海軍の沿岸基地に配備されたそうで、もう二度と近寄ることはできないじゃろう。

――だがそれよりもまずい知らせがある。クラークが撤退命令に使用した魔法、デスパレートブラストじゃ。
 あの魔法は己の命と引き換えにして高出力の魔力を放出する魔法。その真意はただの最後のあがきではない。強い余波を意図的に出すことによって、己が自決したことを仲間に伝えるのがもう一つの重大な目的だそうじゃ。





「これを確認した際奴らは次の作戦に移る。その作戦は仲間が自決した地点に対する無差別攻撃。海軍の軍船とも協力してこのマバ島へ大艦隊を派遣する」
「――つまり、それはどういうことだ?」

 覚悟して聞いたメドゥーサだが、この報告にはさすがに肝が冷えたようだ。

「この迎撃は完全に仇となった。このままでは遠くない内に奴らの艦隊が来る。更なる破壊と報復をもたらすために」

――残念ながら、戦いはまだ終わらない。さっきまでは戦いの終わりだと皆が思っていたクラークの大魔法こそが、本当は開戦の瞬間だということだ。

「…………」

 しかし話が終わった後の暴君は、珍しく落ち着いている。理不尽な八つ当たりをすることもない。

「……まあよい。なるべくしてなった結果だ。向こうがその気なら全面戦争に応じるしかあるまい」
「……意外じゃな。これに関しては間違いなくお前が一番文句を言う権利があるというのに」
「なに、その小娘の器が本物であっただけでも私は満足だ。気にするな」

 玉座を降りたメドゥーサは水面を歩きバーボチカの下へ。

「こんな英雄を奴らに無抵抗で差し出すのは、愚か者のする判断であった。反省しよう。すまなかった」

 やけに偉そうな謝罪だが、彼女は自分なりに満足しているらしい。

「ところで小娘、一つ提案なのだが」
「……なんですか?」
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