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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

共同戦線開始
「……わかりました。少なくとも今の戦局が落ち着くまではあなたを信じます」
『ほう、あのクラークから一時的に逃げ切るとは。見事だな』

――だが二人きりで話していた中に、唐突に新しい声が混ざってきた。その声は間違いなくあの時に聞いた彼らの主、メドゥーサのもの。

「……えっ」

 話していたのは、足元のヘビであった。

『やはりお前にコインを賭けて正解だったようだな』
「おおっメドゥーサ様ッ!」

 その声を聞きつけ、ギルマンの戦士長が嬉々として即座にひざまずく。

「……ヘビが、喋った?」
『勘違いするな。お前の目の前にいるヘビはただのヘビ。私が水源の魔力を通じて、己の意思を代わりに伝えさせているのにすぎない』

 メドゥーサは妖精王ではないがそれでもスカジと同格以上の妖精。島中に張り巡らされた強大な魔力の経路は、野生動物を経由したテレパシーすら可能としているのだ。

『だが小娘よ。奴はビーコンを使ってお前を追っている。悠長に構えていたらすぐに気取られるぞ。お前が勝利するためにはこの希少な時間に反撃のチャンスを作らねばならん』

 わかりきっていたことではあったが、彼女の言葉のおかげでバーボチカはやっと再認識できた。彼女がどのようにして自分を追ってきたのか。
 半永久的に効果が継続するほど高性能な探知魔法の前では二分三分は時間を稼げたとしても、長期的目線での戦略においては追いつけない距離まで逃げるのは不可能
 どんなに手の込んだ作戦で一時的に逃げおおせても相手に追跡の意思がある限り軽い目くらまし程度の妨害にしかならないのだ。

「……今から罠を用意する時間はありません。空を飛ぶ相手に使える武器は弓だけです」

 あの時はスカジとメドゥーサの争いを止めるために、半ば出まかせでクラークを倒すと言った。だが人でありながら人でない存在と化した今のクラークを見た後では、彼女を倒すための作戦は全く思い浮かばなかった。

 とにかく有効打を得るために使える武器が、少なすぎる。せめて地上戦に持ち込めれば良いのだが、半獣を造るための薬を開発した張本人である冷酷非道な科学者であるクラークが、こちらの都合に合わせて降りてくれるなんてことは絶対にありえない。

『まあそうだろうな。だが私はお前のような小娘がここまで逃げ延びるなど初めは思っていなかった。お前は優れた戦士だ。お前に免じてスカジの無礼を許してやる』

 沈む気持ちに対して発せられたのは、上から目線の賛辞であった。だがそれでもメドゥーサは心の底から称讃しているつもりなのだろう。

『よし、気が変わった。私も手伝ってやろう』

――現に、彼女はその証拠として、助力を提案してきた。

『実を言うとな、お前がしくじった時に備えて私の方も部隊を動かしていたのだ』
「――本当ですか!?」
『ああ。お前の目の前にいる戦士長がその証拠だ』

 メドゥーサの発言に対して、ギルマンに伝わる独特の敬礼を無言でする戦士長。

『戦士長、作戦を変更する。その小娘を連れてエキドナポイントへ向かえ。これよりその小娘を中核戦力とした共同作戦を開始する』
「ハハッメドゥーサ様ノ、仰せの通りニッ」
『小娘、エキドナポイントでは私が派遣した部隊が罠の準備をしている。彼らと共同してクラークを討ち取れ。期待しているぞ』

――その言葉を最後に、メドゥーサの意思を代弁していたヘビは逃げるようにその場を去って行った。

「作戦ノ方ハ、ワカッタカ?」
「……はい。案内してください」
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