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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

怪鳥を迎え撃つ獣
 ひたすら枝を飛び移り、森の奥へ進んでいく。とにかく少しでも本隊から遠ざける。一対一で確実にクラークを倒すために。

「逃げても無駄よ!」

 後ろから飛んでくる無数の風の刃、それが飛び去った後の樹々を切り倒していく。偏差射撃は行ってこない。姿勢を制御しながら魔法を撃つだけでも大変だからだ。

(逃げるだけじゃダメだ……)

 それでも空を飛び矢継ぎ早に魔法を繰り出す相手に反撃するのは容易ではない。弓で狙いを定めている間に切り裂かれてしまう。

 反撃のチャンスが訪れる兆し、それを待つことだけにすがる訳にはいかない。この人であることを捨てた魔物を倒すためには、彼女が自力でそれを作り出さなければならないのだ。

(イチかバチか……)

 目線の先には光が増しつつある。その理由は樹々のつなぎ目を作る川が進行方向にあるからだった。方向を変えなければ飛び移るための枝はなくなる。だが彼女はそれを承知で先に進んでいた。

「……たあっ!!」

 見えた水面、それに飛び込むためにわざとジャンプの高度を落とした。

「なんのつもりっ?」

 標的の予想外の行動に、追いかけるクラークも動揺した。目線の先からいなくなった彼女を探すことに手間取っている。
――ついにクラークも、川の上へその身を出した。だが不思議なことに、その時には既に標的の姿は消滅していた。

「……逃げられた、か」

 目視では全く確認できない。彼女の見下ろす先には美しいせせらぎだけが確かに広がっていた。





「――ンンッ」

 子供の頃から水に近寄るなと教えられた彼女は、この土壇場で初めて泳ぐことに挑戦した。目視で見つからないように、頭を丸ごと水につけ、必死に下流の方向へ。

 素人の初挑戦では絶対無茶と呼べるその技だが、息の続く時間が彼女にとって命の時間であった。息が続く間にクラークが見つけられない距離まで逃げなければ、息継ぎの瞬間に見つかり切り裂かれる。

「――ン!?」

 だがその時、前方から謎の影が近づいてきた。巨大な魚の頭のように見える謎の存在、それがグングン近づいてくる。

(しまった……!?)

 彼女は気が付いた。この島の水地もギルマンが支配するテリトリーであることを。クラークから距離を離すことばかりに気を取られたがために、他にも気を付けなければならない脅威が存在することを完全に忘れてしまっていたのだ。

――だがその脅威は、思いもよらぬ行動を取った。彼女の手を掴むなり一気に方向転換、そのまま全力で泳ぎ始めた。

「!?」

 攻撃してくるわけでもない。ただひたすら彼女と共に泳いでいる――いや、彼女を引っ張って泳いでいるというのが正解だった。

 平凡なゴブリンと比べたら圧倒的に鍛えられているバーボチカも、泳ぎにおいては初めて挑戦した素人。だがこのギルマンは彼女をより遠くへ逃がすため、すさまじい力で強く引っ張り泳いでいた。

――そして息が切れる限界寸前の時、ようやく地上の光が見える。

「――ぷはぁッ!」

 飛び出てすぐに彼女は無数の落ち葉の中へ隠された。自由に動けるようになるまで呼吸を整えるまでの間、何が起こったのかすらわからなかった。

「……オマエ、あの高さから飛び降りるとハ、中々勇気ある者ダナ」

 その様子を見届けたギルマンが、静かな声で語りかけてきた。バーボチカが慎重に見上げた時に見えたのは、あの時自分をメドゥーサのところへ連れて行った部隊のリーダー格であるギルマンだった。

「我らの生活ハ、常に水と共にアル。ユエニ、オマエのような高度からの飛び込みの技術を持つ者ハ、イナイ。ジツニ、面白い。ヒサビサに、良い戦士と出会えタ」

 重苦しく低い声が発した言葉は、称讃の言葉であった。ギルマンは水中戦を得意とする魔物。陸上戦にも適応した身体能力を持つのは確かだが、基本地上はテリトリーの外陸上戦を前提とした訓練に参加できるのはかなりの熟練戦士だけだ。

 バーボチカが直感で見せた飛び込み、それは彼らにとっては水中戦に特化しすぎているからこそたどり着けない技術なのである。

「…………」

 だがバーボチカは決して心を許さず、目の前の恩人を警戒する。そもそも侵入者は皆殺しにするのが当たり前という極めて排他的な価値観を持つ種族であるギルマンがなぜ味方をしたのか、その時点で不可解な現象であった。

 メドゥーサの命令だとしても、そのメドゥーサ自体が彼女にとっては信頼に値しない存在なのだ。

「……ソンナ顔ヲ、スルナ。あの敵将クラークハ、我々にとってモ、極めテ脅威となル存在。今はこの島を守るタメニ、共ニ戦オウデハ、ナイカ」

――己の意思で持ちかけられた共闘。幼き頃からずっと邪悪な存在と教えられてきたギルマンに、このような言葉をかけられてくるとは。

「……わかりました。少なくとも今の戦局が落ち着くまではあなたを信じます」
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