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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

三獣将、それは死を運ぶ獣
 洞窟を出て海岸を目指す二人。その途上、森の中で商会の兵とそれを率いるクラークと出会った。

「ついに見つけたわ」

 確かに仕留めたはずの相手、それがまだ生きている。即効性が高く血清も間に合わない程の劇毒を打ち込んだのに、どのようにして生きのびたのか

「よくも船を壊してくれたわね。あなた達のせいで商会は大赤字。海軍からの信用もガタ落ちよ」
「そのために爆破したのじゃがのう。わかったならこれ以上大地を汚すのはやめることじゃ」

 敵を前にしても落ち着いているスカジ。どれだけの兵が来てもメドゥーサには及ばない。さっきまでの激しい怒りとの落差がそう語っているように感じさせた。

「あなたには抹殺命令が出ている。ビーコンを使える私と出会ったのが運の尽きだったわね」

 バーボチカに向けられた杖。真っ先に彼女のところに兵を送ったということは、今のところアフロディーテやドミニクに累が及んではいないようだ。

「クラークさん、死んだはずのあなたがなぜ生きているのです?」
「あら、敵のあなたにそれを教えると思う?」
「…………」
「知りたいなら、見抜いてみなさい!」

 杖を掲げ、力を溜めると次の瞬間、その肉体が変化した。

「…………!?」

 腕が青い羽毛で覆われていき、巨大な翼となる。その様はまさしく鳥人間。人間の輪郭を保っているバーボチカよりもはるかに魔物らしい姿だった。

「……これは、予知で見た半獣!?」
「知っているのですか!?」

 旅に出る前にみた未来予知の景色、その中にあった疑問の答えが見つかったらしい。

「……まさかお前達、人を魔物に作り変えてまで侵略の火を広げようとしていたのか!?」
「その通り。私が人を魔物に変える薬を作り出したのよ」

 人を作り変えてでも自らの事業を、そして帝国の支配を進める彼ら。離島から出てこない、自分から近寄らなければ害の出ない魔物すら殺す。魔物よりもよっぽど醜い悪魔の心を持った敵だ。

「まああなた達の仲間のせいでプロトタイプは全焼。今から作り直すのには最低でも一か月はかかる。リョート島侵攻作戦には間に合わなくなった。それだけ私達はあなたを恨む理由があるのよ」

――あなた達の仲間、間違いなくドミニクのことであった。直接破壊した火薬庫の中に保存されたのか、彼の攻撃によって保管されていた別の建物が延焼したのか。
 いずれにせよ彼の勝手な行動のおかげでおぞましい半獣の兵団が生まれる最悪の未来は避けられたらしい。
 あの爆破が長期的な利を出したことを敵の口から聞くことになるとは、二人は思っていなかっただろう。

「さあ、殺してあげるわ。忌々しい魔物の小娘!」

 魔物化の薬には抗体を作る作用があるのだろう。もう奴には毒が効かない。それで空を飛ぶ強敵だ。

「わらわはお前さんの方がよっぽど醜い魔物に見えるがのう」
「お黙り!」

 有効打になりえるのはファフナーの牙。だが飛ぶ相手を剣で切り裂くのは容易ではない。
――その時、バーボチカが飛び上がる。

「…………?」

 樹の枝に乗っかり、クラークの方を見ていた。

「おいで、クラークさん。あなたが殺したいのは私なのでしょう? その立派な翼を使って私を捕まえてみてください」

 そのまま一人、樹の枝を飛び移りながら森の奥へ飛んでいく。相手が動くまでの猶予、それを全て活かし可能な限り遠くへ。

「……フフ、望み通りにしてあげるわ!!」

 一気に力を込め、地面を蹴るクラーク。翼となった腕を使い追いかけた。

「団長を援護しろ!」

 後ろの兵士が各々の武器を掲げ、追う。しかし先頭の一人に投げられた氷の槍が彼らの足を止めた。

「……グアッ」
「お前さんらの相手はわらわじゃ。こわっぱ共」

 敵将の孤立した今こそ、雑兵を掃討する最大のチャンス。指揮を受けられない雑兵など彼女の前では戦力にならない。ただの狩りの獲物である。

(バーボチカ、必ず生きて戻っておくれよ……)

 彼女は目の前の敵よりもバーボチカの心配をしていた。この数を相手している間は助けに行くことはできない。できることは無事を祈りながら戦うことだけ。

「……さあ、来い!」
「くそ、迎え撃て!!」
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