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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
アビスの支配者、メドゥーサ
そのまま歩かされた二人は洞窟に連れてこられた。地面が浅く水に浸かっている洞窟だった。
「……あの、メドゥーサって誰なのですか?」
「わらわと同じ里で育った妖精じゃよ。自分本位で傲慢な奴で、皆とそりが合わないから喧嘩別れに近い形で一番早く独り立ちしたのじゃ」
――妖精は里で育った後に独り立ちする。スカジやアフロディーテのように王となり、子供達を育てる立場になるものもいれば、一人で放浪して気ままに生涯を終えるものもいる。
無論、放浪の末に気に入った地を見つけてから王になる者も少なくない。
「…………」
私語に対して何一つ注意しないギルマン。歩くのを休まない限りは好きにさせて構わないと思っているのだろうか。
「……その人も妖精王なのですか?」
「さあな。こやつらの王であるのは間違いなさそうだが、子供嫌いなあいつがチビを育てているとは思えん……」
話し込んでいる間に洞窟の奥までたどり着いた。先にあるのは巨大な地底湖。その上に玉座が不自然に浮かんでおり、そこにはスカジと同様の大人の体格をした女性がいた。
「メドゥーサ様、二人をお連れしましタ」
「うむ、よくやった。もう下がってよいぞ」
女性の命と共に地底湖に飛び込むギルマン達。奥に住処があるのだろうか。
「来たな、スカジ。何世紀ぶりか……」
「…………」
仲の悪い知り合いと再会したことで黙りこくるスカジ。そこの投石が飛んだ。
「――ッ!?」
辛うじてよけるスカジににらめつけるメドゥーサ。
「無礼者め。挨拶くらいしたらどうだ? まあ私はそんな礼儀を持ち合わせている奴をこんなところに呼びつける必要などないと思うがな」
想像していた以上に仲が悪い二人が出す威圧感にバーボチカは戸惑う。これまで出会った妖精達にメドゥーサのような者はいなかった。
古風で尊大なスカジにすら優しさが備わっているというのに、彼女からはそれを何一つ感じさせられない。そこにいるのはただ冷酷なだけの支配者だ。
「礼儀知らずはお前じゃろ。子供に武器を向けてまで、連行するなど! だからお前は皆から嫌われるのじゃ!!」
「ここの下等な魚共は私を理想の主君と思い込んでいるようだが?」
ギルマンは強権的な支配者を好む種族。多少横暴な振る舞いがあったとしても、それを成し遂げる力さえあればそれすら魅力の一つになる。
「……それより、なぜわらわらをここまで連れてきたのじゃ?」
聞かねばならないこと、どんな狼藉を浴びせられても彼女は忘れなかった。
「お前達、ピーチロード商会の造船所を襲っただろう」
メドゥーサはこれまでの二人の行動を言い当てた。彼女も未来予知の力を持っているらしい。
「ああ、そうじゃが。それがどうか――」
言い切らない間に再び飛ぶ投石。それもさっきより大きい。
慌ててかわすが、メドゥーサはもう次を投げる準備をしていた。
「――お前ッ!?」
いつでも冷静なスカジですら怒りを隠せない、あまりにもひどい狼藉。そこへさらに逆上の言葉が投げられた。
「余計なことをしてくれたな。お前のせいで私の島が滅亡の危機にさらされているのだぞ」
「…………」
事情を知らない二人はもうついていけなかった。自分達のせいでこの島に危機が迫っている。一体どういうことなのだろうか。
「お前達、火薬庫を破壊したな? 商会が発見された侵入者を追跡するため沿岸部に私兵部隊を派遣しているぞ」
火薬庫を破壊したのはドミニクの独断である。それのせいでバーボチカは発見されてしまった。ドミニクは自ら囮となり商会の兵と激戦を繰り広げた。
当然そんな事実は彼女の知りえないことである。だがそれを説明しても納得してくれる相手ではないのは、子供の目から見ても明らかな事実だった。
「その中の幹部の一人、クラーク・エジネットという女がお前達の居場所を突き止めた。現代になって開発されたビーコンという魔法を使用し、そこの小娘を追跡している」
「クラーク……!?」
その名を聞き、バーボチカは驚愕した。
「……知っているのか?」
「は、はい。爆破の時、倉庫でその人に見つかりました」
動揺の消えないバーボチカ。クラークに撃った毒矢は熊ほど巨大な獣すら殺す劇毒である。
「……あの毒を打たれて、生きているなんて」
「小娘、お前の言い訳などどうでもいい。仕留めきれなかった真相を追求する必要もない。今大事なのは奴らをどう迎え撃つかだ」
――どうやら戦いはまだ終わらないようだ。今帰ったら島にも部隊が来てしまう。
「あの小坊主め、本当に余計なことをしてくれたな……せめて事前に話さえ通っていれば……」
ドミニクの打ち合わせにない行動が、状況を大きく狂わせた。撤退が完了する前に爆破を行ったことで敵の警戒が強まった。その上探知魔法を使わせるチャンスすら与えてしまった。
バーボチカが見つかったのは完全に運の問題だが、その原因を作ったのは他ならぬドミニクだ。事前に話しておけば簡単に防げたミスで、ここまで状況が悪化するとは。
「私は奴らの船が来たらお前達を引き渡すつもりでいる。あと三十分もしない内に上陸してくるだろう」
杖を取り出すメドゥーサ。いつでも魔法を使えるように。
「よって、その小娘には今ここで死んでもらう」
「……あの、メドゥーサって誰なのですか?」
「わらわと同じ里で育った妖精じゃよ。自分本位で傲慢な奴で、皆とそりが合わないから喧嘩別れに近い形で一番早く独り立ちしたのじゃ」
――妖精は里で育った後に独り立ちする。スカジやアフロディーテのように王となり、子供達を育てる立場になるものもいれば、一人で放浪して気ままに生涯を終えるものもいる。
無論、放浪の末に気に入った地を見つけてから王になる者も少なくない。
「…………」
私語に対して何一つ注意しないギルマン。歩くのを休まない限りは好きにさせて構わないと思っているのだろうか。
「……その人も妖精王なのですか?」
「さあな。こやつらの王であるのは間違いなさそうだが、子供嫌いなあいつがチビを育てているとは思えん……」
話し込んでいる間に洞窟の奥までたどり着いた。先にあるのは巨大な地底湖。その上に玉座が不自然に浮かんでおり、そこにはスカジと同様の大人の体格をした女性がいた。
「メドゥーサ様、二人をお連れしましタ」
「うむ、よくやった。もう下がってよいぞ」
女性の命と共に地底湖に飛び込むギルマン達。奥に住処があるのだろうか。
「来たな、スカジ。何世紀ぶりか……」
「…………」
仲の悪い知り合いと再会したことで黙りこくるスカジ。そこの投石が飛んだ。
「――ッ!?」
辛うじてよけるスカジににらめつけるメドゥーサ。
「無礼者め。挨拶くらいしたらどうだ? まあ私はそんな礼儀を持ち合わせている奴をこんなところに呼びつける必要などないと思うがな」
想像していた以上に仲が悪い二人が出す威圧感にバーボチカは戸惑う。これまで出会った妖精達にメドゥーサのような者はいなかった。
古風で尊大なスカジにすら優しさが備わっているというのに、彼女からはそれを何一つ感じさせられない。そこにいるのはただ冷酷なだけの支配者だ。
「礼儀知らずはお前じゃろ。子供に武器を向けてまで、連行するなど! だからお前は皆から嫌われるのじゃ!!」
「ここの下等な魚共は私を理想の主君と思い込んでいるようだが?」
ギルマンは強権的な支配者を好む種族。多少横暴な振る舞いがあったとしても、それを成し遂げる力さえあればそれすら魅力の一つになる。
「……それより、なぜわらわらをここまで連れてきたのじゃ?」
聞かねばならないこと、どんな狼藉を浴びせられても彼女は忘れなかった。
「お前達、ピーチロード商会の造船所を襲っただろう」
メドゥーサはこれまでの二人の行動を言い当てた。彼女も未来予知の力を持っているらしい。
「ああ、そうじゃが。それがどうか――」
言い切らない間に再び飛ぶ投石。それもさっきより大きい。
慌ててかわすが、メドゥーサはもう次を投げる準備をしていた。
「――お前ッ!?」
いつでも冷静なスカジですら怒りを隠せない、あまりにもひどい狼藉。そこへさらに逆上の言葉が投げられた。
「余計なことをしてくれたな。お前のせいで私の島が滅亡の危機にさらされているのだぞ」
「…………」
事情を知らない二人はもうついていけなかった。自分達のせいでこの島に危機が迫っている。一体どういうことなのだろうか。
「お前達、火薬庫を破壊したな? 商会が発見された侵入者を追跡するため沿岸部に私兵部隊を派遣しているぞ」
火薬庫を破壊したのはドミニクの独断である。それのせいでバーボチカは発見されてしまった。ドミニクは自ら囮となり商会の兵と激戦を繰り広げた。
当然そんな事実は彼女の知りえないことである。だがそれを説明しても納得してくれる相手ではないのは、子供の目から見ても明らかな事実だった。
「その中の幹部の一人、クラーク・エジネットという女がお前達の居場所を突き止めた。現代になって開発されたビーコンという魔法を使用し、そこの小娘を追跡している」
「クラーク……!?」
その名を聞き、バーボチカは驚愕した。
「……知っているのか?」
「は、はい。爆破の時、倉庫でその人に見つかりました」
動揺の消えないバーボチカ。クラークに撃った毒矢は熊ほど巨大な獣すら殺す劇毒である。
「……あの毒を打たれて、生きているなんて」
「小娘、お前の言い訳などどうでもいい。仕留めきれなかった真相を追求する必要もない。今大事なのは奴らをどう迎え撃つかだ」
――どうやら戦いはまだ終わらないようだ。今帰ったら島にも部隊が来てしまう。
「あの小坊主め、本当に余計なことをしてくれたな……せめて事前に話さえ通っていれば……」
ドミニクの打ち合わせにない行動が、状況を大きく狂わせた。撤退が完了する前に爆破を行ったことで敵の警戒が強まった。その上探知魔法を使わせるチャンスすら与えてしまった。
バーボチカが見つかったのは完全に運の問題だが、その原因を作ったのは他ならぬドミニクだ。事前に話しておけば簡単に防げたミスで、ここまで状況が悪化するとは。
「私は奴らの船が来たらお前達を引き渡すつもりでいる。あと三十分もしない内に上陸してくるだろう」
杖を取り出すメドゥーサ。いつでも魔法を使えるように。
「よって、その小娘には今ここで死んでもらう」
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