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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
戦いは終わらない
「…………」
全速力で走る馬車の中で、起爆装置を一人無言で砕いたスカジ。決して近くない距離まで逃げたというのに爆発の音がここまで聞こえてくる。
「……ふう、これで終わりじゃな」
糸が切れたように安堵するスカジ。作戦開始からずっと緊張していた彼女も、全てが終わればいつもの余裕を取り戻す。
「海岸の村に向かいます。そこから先は自力で島に帰って下さい」
一方でアフロディーテは、今も気を緩めない。まだ安心はしないが、あれだけの火災を目にしても落ち着きは失っていないようだ。
「降ろすのはバレーヌ村にしておくれ。あそこはまだ開拓が進んでいない。軍の基地からも遠いし、冒険者もほとんど滞在していないから追手はこないじゃろう」
「…………」
王達二人と違い、バーボチカはまだ胸騒ぎを感じているようである。
「どうしたバーボチカ。もう休んでもよいのじゃぞ?」
「……妖精王様、実は私、倉庫の中で人に見つかったんです」
「なんじゃと?」
それも幹部クラスの実力者であった。
「ピーチロード商会には三獣将という、すごく強い人達がいるそうです。彼らに見られてしまいました」
「三獣将……噂には聞いておったが、本当におったのか」
正確な情報を得られなかったことと、戦闘を避ける前提で作戦を組み立てていたから情報共有はしていなかったらしい。
「……その内の一人、クラークという人と倉庫の中で戦いました。毒矢を撃ち込んだので、その人は死んだと思うのですが他二人には顔を覚えられたと思います」
「……小坊主と渡り合っていた、あの二人か。もしかしたら奴らとは将来的に戦うことになるかもしれないな」
「大丈夫ですよ、二人共。この襲撃で彼らは海軍に納入する船を全て失いました。当分は船の再建造で身動きが取れないでしょう」
――そう言われても心配の種は尽きない。悪いことの前兆、それが着実に積み重なっている、二人はそのように感じていた。
翌朝、馬車はバレーヌ村へたどり着いた。まだ充分に開拓されていない漁村の潮風の香り、それがバーボチカを目覚めさせる。
「おお、起きたか」
「…………」
「今から船を出して大陸から脱出する。準備してくれ」
馬車を降りた先に広がるのは砂浜。海の方には若い男達が船を出し、漁に出向いている。
「ありがとう、友よ。おかげで民を守ることができた」
「次は楽しい用事で再会できるといいですね。それでは、さようなら」
二人を降ろし挨拶を終えたアフロディーテ。馬車が陸の方へ戻って行く。自分達の森へ帰るのだ。
「それでは、わらわらもリョート島へ帰るぞ」
舟を用意するスカジ。魔法を唱え、氷のボートを作り出した。
「…………」
途端に曇る、バーボチカの顔。
「どうした?」
「……またボートですか、妖精王様?」
島を出る際に失敗したボートが再び現れたのだ。至極当然の反応であった。
「大丈夫じゃよ。もう同じ失敗はせん」
言われてからボートをさらに改造し始めるスカジ。側面に六つのオールを取り付けた。
「これはアフロディーテに作ってもらったオールじゃよ。目的地を伝えれば勝手にその方向へ動いてくれるのじゃ」
どうやらあらかじめ手を打っておいたらしい。攻撃を始める前から友の力を借りて、動力問題を解決していたようだ。
「さあ、乗って」
「…………」
それでもまだ信じられないバーボチカ。
「リョート島へ向かっておくれ」
スカジが行先を指定すると、本当にオールが動き出した。
「…………!!」
ようやく信じたバーボチカ。オールの動きは自動だから人力よりも安定していて、しかも休むことがないから早い。
「どうじゃ? 人力でこの速度は出せんじゃろ? この速度なら明日には島に帰れるぞ」
「すごいです……!!」
「じゃが夜に海に出るのは危ないからの。眠っている間に海獣やら海竜やらに襲われたらひとたまりもない。夕方になったら近くの島で休もう」
ようやく旅が終わる。長いようで短い旅であった。十日以上も里で休んだことが、余計その実感を強めていた。
明日には島のみんなとまた会える。。その希望を抱いて彼女は航海へと乗り出した。
全速力で走る馬車の中で、起爆装置を一人無言で砕いたスカジ。決して近くない距離まで逃げたというのに爆発の音がここまで聞こえてくる。
「……ふう、これで終わりじゃな」
糸が切れたように安堵するスカジ。作戦開始からずっと緊張していた彼女も、全てが終わればいつもの余裕を取り戻す。
「海岸の村に向かいます。そこから先は自力で島に帰って下さい」
一方でアフロディーテは、今も気を緩めない。まだ安心はしないが、あれだけの火災を目にしても落ち着きは失っていないようだ。
「降ろすのはバレーヌ村にしておくれ。あそこはまだ開拓が進んでいない。軍の基地からも遠いし、冒険者もほとんど滞在していないから追手はこないじゃろう」
「…………」
王達二人と違い、バーボチカはまだ胸騒ぎを感じているようである。
「どうしたバーボチカ。もう休んでもよいのじゃぞ?」
「……妖精王様、実は私、倉庫の中で人に見つかったんです」
「なんじゃと?」
それも幹部クラスの実力者であった。
「ピーチロード商会には三獣将という、すごく強い人達がいるそうです。彼らに見られてしまいました」
「三獣将……噂には聞いておったが、本当におったのか」
正確な情報を得られなかったことと、戦闘を避ける前提で作戦を組み立てていたから情報共有はしていなかったらしい。
「……その内の一人、クラークという人と倉庫の中で戦いました。毒矢を撃ち込んだので、その人は死んだと思うのですが他二人には顔を覚えられたと思います」
「……小坊主と渡り合っていた、あの二人か。もしかしたら奴らとは将来的に戦うことになるかもしれないな」
「大丈夫ですよ、二人共。この襲撃で彼らは海軍に納入する船を全て失いました。当分は船の再建造で身動きが取れないでしょう」
――そう言われても心配の種は尽きない。悪いことの前兆、それが着実に積み重なっている、二人はそのように感じていた。
翌朝、馬車はバレーヌ村へたどり着いた。まだ充分に開拓されていない漁村の潮風の香り、それがバーボチカを目覚めさせる。
「おお、起きたか」
「…………」
「今から船を出して大陸から脱出する。準備してくれ」
馬車を降りた先に広がるのは砂浜。海の方には若い男達が船を出し、漁に出向いている。
「ありがとう、友よ。おかげで民を守ることができた」
「次は楽しい用事で再会できるといいですね。それでは、さようなら」
二人を降ろし挨拶を終えたアフロディーテ。馬車が陸の方へ戻って行く。自分達の森へ帰るのだ。
「それでは、わらわらもリョート島へ帰るぞ」
舟を用意するスカジ。魔法を唱え、氷のボートを作り出した。
「…………」
途端に曇る、バーボチカの顔。
「どうした?」
「……またボートですか、妖精王様?」
島を出る際に失敗したボートが再び現れたのだ。至極当然の反応であった。
「大丈夫じゃよ。もう同じ失敗はせん」
言われてからボートをさらに改造し始めるスカジ。側面に六つのオールを取り付けた。
「これはアフロディーテに作ってもらったオールじゃよ。目的地を伝えれば勝手にその方向へ動いてくれるのじゃ」
どうやらあらかじめ手を打っておいたらしい。攻撃を始める前から友の力を借りて、動力問題を解決していたようだ。
「さあ、乗って」
「…………」
それでもまだ信じられないバーボチカ。
「リョート島へ向かっておくれ」
スカジが行先を指定すると、本当にオールが動き出した。
「…………!!」
ようやく信じたバーボチカ。オールの動きは自動だから人力よりも安定していて、しかも休むことがないから早い。
「どうじゃ? 人力でこの速度は出せんじゃろ? この速度なら明日には島に帰れるぞ」
「すごいです……!!」
「じゃが夜に海に出るのは危ないからの。眠っている間に海獣やら海竜やらに襲われたらひとたまりもない。夕方になったら近くの島で休もう」
ようやく旅が終わる。長いようで短い旅であった。十日以上も里で休んだことが、余計その実感を強めていた。
明日には島のみんなとまた会える。。その希望を抱いて彼女は航海へと乗り出した。
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