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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

三獣将「妖雉クラーク」●
 杖を構える女。魔法使いらしい。もし炎の魔法なら今まいている最中の粉塵に引火しかねない。そうなってしまえば共倒れだ。

「それにしても運の悪い子。どんなイタズラをしていたのかは知らないけど、見つかったのがよりによって私達三獣将とは……」
「三獣将……?」

 その名乗りは彼女が幹部クラスの実力者であることの証明だった。普通の警備兵よりも手強い戦闘員、それが倉庫の中にいたとは。

「私はクラーク・エジネット。またの名を、三獣将妖雉ようち……」

 三獣将、その称号は古代ヤーポン神話が由来だった。ピーチロード商会の名の由来となった桃から生まれた英雄が従えた三匹の鳥獣。犬、猿、雉の三匹である。
 その内の雉に当たるのが彼女、クラーク・エジネットであった。

「…………」

 逃がしてくれるはずなどない。覚悟を決めるバーボチカ。相手が魔法使いなら、自分がしくじれば妖精達にも危険が及ぶ。迅速に打倒せねば、他の仲間に迷惑がかかる。

「……ふーん、子供のくせにいい武器を持っているわね」

 構えられたファフナーの牙、それに感心する女。相手がただの子供ではないと理解したのか、怪しく笑い少しずつ闘志を燃やしていく。

「――でも残念」

 魔法を放った女。風切る白い刃猛スピードで標的へと迫る

「危ないっ」

 前傾姿勢で飛び込み、逃げるバーボチカ。着地と共に、周囲の荷物が水平に切り裂かれた。

「……へえ、これをかわすなんてね」

 かわしたことに感心する女。おそらくこの魔法で彼女はバーボチカより大きい魔物を多く切り裂き、殺めてきたのだろう。磨き上げられたその技巧は、ただものではない。

「でも次は外さないわよ」
「……そうですか」

 意に返さず、全力で走るバーボチカ。向かうのはクラークの方ではない。船の方であった。

「逃げても無駄!」

 再び魔法を放とうと構える女。だがその時、後ろから衝撃が走った。

「――!?」

 妖精の一人が、彼女に石を投げつけたのだ。

「今だ、散らばって!」

 彼女の周囲を猛烈な勢いでスラロームする妖精達。決して狙いを定めさせないかく乱だ。

「な、なぜこんなところに妖精が!?」

 自然とは無縁の商会の敷地内だ。これだけの数が入り込んでいるだけでも、彼女の衝撃を誘うには充分だが、一番の衝撃は彼らが侵入者の味方をしていることだった。

「どきなさいよッ!」

 追い払わんと魔法を放つクラーク。それを不規則な軌道で必死にかわす妖精達。少しでもバーボチカが逃げる時間を稼ぐために。

「今だ!」

 その間に船にたどり着いたバーボチカ。いかりを踏みつけ跳躍し、手すりに飛び乗った。

「みんな、もう大丈夫だよ!」

 大声で妖精達に号令をかけるバーボチカ。それに合わせて四方へと散った。

「……何のつもり?」

 慌てて周囲を見回し、侵入者を探す女。

「……あっ」

 気づいた時にはすでに矢が飛び出した後だった。腹を射抜かれ、思わず地面に手を突いてしまう。
 それでも全力を振り絞り、甲板の上のバーボチカをにらむクラーク。

「……あのガキッ!?」

 撃ち込んだ後すぐに船室に逃げ込む。この船自体が身を守るための鎧だった。あまりにも強力なクラークの魔法だが、自分達の船を巻き込んでまで攻撃することはできないようだ。

「うぐっ」

――毒が回って倒れるクラーク。あらかじめ追いかける足すら奪っていたようだ。

「……お、おぼえて……おきな、さい」

 怒りの形相で懐を探るクラーク。だが何かを取り出す暇もなくその動きは止まった。



「――!?」

 裏口から外に出て見えたのは炎が生み出す光。建物の一つが激しく炎上していた。陰から覗き込み確認すると、建物の前に無数の死体が転がっている。その近くではバーボチカが出会った他の三獣将二人が、翼を生やしたドミニクと戦っていた

「バーボチカ、大丈夫か!?」

 反対側の物陰から駆け出すスカジ。いつも冷静な彼女が珍しく動揺していた。

「妖精王様、これは一体!?」
「あの小坊主め、すごく乱暴なやり方で警備兵の注意を引きおった。火薬庫を魔法で攻撃したらしい!」

 さっきの爆音は、彼の魔法で火薬がまとめて焼かれた際に起きたものだったのだ。

「じゃが奴らの注意をそれていることには変わりない。今すぐ逃げれば見つからずに済みそうじゃ」

 無理矢理手を引き、馬車へ走るスカジ。

「…………」

 あまりに混沌としたこの状況に、バーボチカは文字通り言葉が出なかった。

「アフロディーテ、チビ達は全員戻ったか!?」
「はい!」
「なら今すぐ出発してくれ! 直ちに脱出する!!」

 半ば放り投げるようにバーボチカを乗せ、自身も飛び乗るスカジ。共に馬車が動いた。
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