設定を選択してください。

バーボチカの冒険 激震のフロンティア

潜入開始
 夜になって再び出発する一行。宿の料金を支払って荷物をまとめ馬車に乗った。

「わー、街の中でこんなに妖精を見れるとはね」

 馬車に乗せられたドミニクは妖精達を物珍しく見ている。街中でもたまにいたずらに来た者が見つかることはあるのだが、そういう時彼らは大体単独行動をしている。ここまでの数が集団行動をしている現場を見ることはなかなかできない。

 一方の妖精達は彼の妖しい気配を恐れて近寄らない。王二人に張り付いて身を守っていた。

「あまりはしゃがないでくださいね。この子達が怖がっています」

 裏山にドミニクが来た時、商会の敷地内で調査をしていた彼ら。ドミニクと出会ったのはこの馬車での移動が初めて。素性も一切聞かされていないのだが、彼らは本能だけでドミニクを危険な魔物と理解しているのだ。

「それにしてもお前さん、今思ったのじゃがなぜ日光が平気なのじゃ?」

 妖精達から注意をそらすため、自ら話し相手になるスカジ。

「……ああ、それ?」

 ヴァンパイアは日光が弱点とされている。だが彼はそれが平気なようであった。大陸に戻ってからは日差しの強い時間をさけて行動しているようだから、全く支障がないわけではなさそうだが。

「……実は僕、本当はヴァンパイアじゃないんだよねえ」
「なに?」

 奇妙な一言。彼の食性は明らかにヴァンパイアのもの。彼もそれを指摘され素直に認めたのだが、本当は違うのだという。

「僕のお父さんがヴァンパイアだったんだよ。お母さんは人間だから日光が大丈夫なんだ」

――彼の正体、それはダンピール。ヴァンパイアと人間の間に生まれた子供である。

「……ダンピールのお前さんがなぜ人食いを?」
「……気が付いたら人間の血を吸わないと生きられない体質になっていたんだよ」

 そのような話を過去にスカジは聞いたことがなかった。明らかに前例のない特異体質だろう。

「でも、人間の街で育ったんだから、何も悪くない人達には迷惑をかけたくない。犯罪者狩りを請け負っているのは少しでも悲しむ人を減らすためさ」

――それでも船の上での狩りは悲しむ者が確かにいた。犯罪者でもない善良な少女の心に強い傷を残した、その十字架は決して消えないだろう。



「さあ、着きましたよ」

 造船所の近くで馬車が止まった。見張りに見つからないところまでしか近づけないから、倉庫まで距離がある。

「私はここで待機します。各自作戦を開始してください」
「うむ、任せておくれ」

 ビンを片手に一斉に飛び立つ妖精達。引火用の油と粉を目一杯入れてある。バーボチカとスカジが爆薬を設置した後、これらを天井から撒いて全ての船を確実に焼く。

「バーボチカ、それじゃあ頼んだぞ」
「はい」

 別々の道を進む二人。攻撃する倉庫は二つ。まとめて見つからないために一人で行う話になっている。

「……さーて、僕も行こうかな」

 立ち止まり、何かの準備をするドミニク。次の瞬間には背中から血管だけで作られた翼が展開され、宙を舞った。







 裏口から入り込んだバーボチカ。誰にも見つからずここまで来れた。問題はここからどう近寄るか。

 通路の見通しが良い造船所の中は、複数の見張りがいれば見つからないようにするのは極めて難しい。だから慌てず飛び出さないで、覗き込むように倉庫を確認した。

 その先に見えるのは六隻の木造船。その内の一隻はアレクシア達の船よりもはるかに巨大で、船体には大型の窓が複数つけられている。これらは竜騎士団輸送用の最新鋭空母と護衛戦艦であった。

「……す、すごい」

 強国であるアルミュールの中でも最強クラスの精鋭部隊である竜騎士団、それの活動拠点となる船。彼女程の英雄でも絶対に太刀打ちできない。スカジが察知してくれなければ、自分も惨い死を遂げていた。彼女への感謝の念が破壊する決意となった。

 幸いにも整備の仕事は終わっているらしい。見張りの兵士もいないみたいであり、がらんとしている。いるのは三人の男女だけ。彼らは空母の前で話し込んでいるようだ。

「……何を話しているのかな?」

 気になるが本来の目的を忘れるわけにはいかない。爆薬の設置の方が大事だ。盗聴は爆薬を置いてから余裕があればやればいい。

 視線がこちらに向かないタイミングを選んで、一気に走るバーボチカ。船の裏側に隠れてしまえば、比較的自由に動ける。

次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(ツイッター)で共有する