設定を選択してください。

バーボチカの冒険 激震のフロンティア

望まぬ再会●
 フレイヤの試練が終わってから一週間。爆薬がようやく必要数揃い、攻撃の実行が可能となった。無論、バーボチカとスカジの休息も充分なほどに行った。

「皆さん、出発しますよ。馬車に集まってください」
 
 号令と共に集まった妖精達は協力して荷物を積み始めた。総勢三十名、力は強くないが上空から建物に近づくことができる。破壊工作にはうってつけだろう。

「バーボチカ」

 積み込みをしている間に、アフロディーテはバーボチカの下へ。

「どうしましたか?」

 手元には剣を持っていた。まるでナイフを大型化させたような形の分厚い短剣。

「これからの戦いはより厳しくなります。より強い武器が必要でしょう。そのためフレイヤから武器を預かっていました。これを授けます」

 手渡された剣は見た目よりも軽かった。普段使っているナイフと大して変わらないくらいに。

「大きいのに、すごく軽い……」
「これは私が持つアーティファクト『ファフナーの牙』です。あなたが一番使いこなせるでしょう」

 そう、この短剣はあの試練でバーボチカが登ったファフナーの牙から作ったものであった。

「一体どうしてこんなにも軽いのですか?」
「魔力により重量を緩和しています」

 効果はそれだけではない。切断力の強化にも魔力が用いられている。これを使えば毒に頼らなくても格上の敵に対抗できるだろう。

「魔力の補充は一時間地面に刺せば大丈夫です。切らしたらなまくらになるので気をつけてください」
「……はい、ありがとうございます。みんなを守るために使います」




 馬車が動き出す。速力は強くあっという間に森を抜けて平原へ。港町まですぐ戻ることができた。

「止まってください」

 町中で馬車を止めたアフロディーテ。宿屋の前であった。看板に書かれた名前はアリアの糸。

「一旦休みましょう。ここに泊まって最後の準備をします」
「そうじゃな」

 降りる二人の王。人間との交渉用に宝石もたくさん持ってきている。普段は貨幣と縁のない生活をしている妖精達だが、彼女らはその価値を理解しているのだ。

「あなた達は馬車の中で待ってください」
「はーい!」

 下級妖精達は馬車の中で待つ。人里で遊ぶ時でも単独行動が主体の彼らは、安易に自分の姿を人前にさらさないのだ。

「あら、いらっしゃい」

 三人を出迎えるカウンターの主人。どうやらこの宿屋は酒場でもあるようだ。時間の都合上今は空いているみたいで、客は誰もいない。食事用のテーブルはキレイに整えてある。

「食事ですか、宿泊ですか?」

 女性の主人がさっそく人数分の水を用意し始めた。

「明日の夜まで宿泊じゃ」
「大人二人子供一人ですね。料金はこちらになります」

 掲示された領収書に対し、おもむろに宝石を出すスカジ。相場で料金の倍以上の金額にもなる量を。しかし主人はいい顔をしていない。

「お客様、支払いは現金でお願いします」
「別にいいじゃろ。相場は詳しく知らんがこれだけあれば足りるじゃろう」
「しかしこれではお釣りが出せません」
「そんなものはお前さんの小遣いにしてしまえば良いのじゃ」
「しかし――」

 あの時の馬車の男と違って主人が生真面目だから、支払いに手間取っている。もっともそれも長くは続かなかった。三分も経たない内に主人の方が折れた。

「……わかりました。全部受け取らせてもらいます」
「そうそう。それでよいのじゃ」
「でもお客様、旅をしているならチップは大事にされた方がいいですよ。相場に詳しくないなら尚のこと」

 長話をしていると店の奥から人が出てきた。

「ふーう……おはよー……」

 出てきた男は見覚えがあった。女性的な顔立ちをした銀髪の少年。

「あらドミニク、もう起きたの? 仕事の時間にはまだ早いんじゃない?」

 そう、あの時海賊船で出会ったヴァンパイア、ドミニクだ。

「お腹すいたからご飯」
「……そう」
「…………!!」

 船の上でできた友達、それを奪った男が突然目の前に現れた。怒りを思い出さないはずがない。
 スカジも遅れて彼に気が付いた。一方でアフロディーテは彼を知らないので二人の顔色の意味を理解できない。
 だが、すぐにことの重大さを思い知らされた。

「なーに、お客さん。そんなに僕をにらんで……あ、君ってもしかして――」

 思い出した時にはもう遅い。バーボチカがナイフを構えて彼に飛びかかったのだ。
 しかしその時主人が立ちはだかる。

「どいてください!」

 動じることなく霧吹きを取り出した彼女はそれをバーボチカに吹き付けた。

「うわっ……」

 一気に脱力してナイフを落とした。何か薬をもられたようだ。

「こーら、子供が刃物なんか振り回しちゃダメ」

 そのまま没収されるナイフ。彼女が押さえつけられたのを見て、ドミニクは安心しているようである。

「……ええっと、うちのドミニクと何かあったのですか?」
「…………」

 どうやら来るべきでない宿に来てしまったようだ。店の中で刃物を振り回してしまったから、正直に事情を話すしかない。

「話をうかがわせてください。お願いします」
「やむを得ん。アフロディーテ、今の内にバーボチカの手綱を握ってくれ」
「はい」

 自分の右手とバーボチカの左手に鎖を付けるアフロディーテ。
 こうすれば彼女は離れることはできない。不意に手を出すという事態を防げる。
次の話を表示


トップページに戻る この作品ページに戻る


このお話にはまだ感想がありません。

感想を書くためにはログインが必要です。


感想を読む

Share on Twitter X(ツイッター)で共有する