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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
そこは魔女の森
「この森の葉っぱ、すごく色が濃いですね」
スカジの指示通り交戦を避けたバーボチカは、無数の樹々がそびえ立つ森フォレノワールに入った。葉は黒に近い色合いである。この色こそが黒い森の名の由来であり、人々が近寄らない理由なのだ。
「この森の土壌は魔力を多く含んでいる。それが樹々を無秩序に成長させるのじゃよ」
ところどころに花も生えているのだが、それも奇怪な色合いだ。主張の激しい極彩色のものもあれば、枯れているようにしか見えない黒や茶色のものもある。
「……まるで焦げちゃったみたいですね」
さすがの彼女も、この森の彼岸花には手を出さない。こんな色合いを求めていないのだろう。
「そろそろアフロディーテの里につくぞ」
幸いにも魔物と出会うことはなかった。今まで思い通りに行かないことばかりのこの旅も、ここに来てようやく順調に進むのだろうか。
「アフロディーテ様はどのような妖精なのですか?」
「アフロディーテは土を司る妖精王じゃ。無益な争いとそれのために自らの力を利用されることを嫌っていてな。こんな不便な森に住んでいるのは人間からの干渉を避けるためなのじゃよ」
事実、ここに住めば森に住む魔物が侵入者を拒んでくれる。制御できないとしても優れた防御策だ。己の自由を犠牲にする覚悟があるなら悪くない選択肢だろう。
「長としても配下を慈しみ思いやる愛に溢れた女じゃ。妖精達が文句を言わずについていくのもその人柄のおかげじゃろう」
――しかし、緊張感が薄れた時に限ってピンチは訪れるのであった。
「誰か助けてー!!」
声と共に飛び出したのは妖精達。里の方から三十匹以上の者が現れた。
「……そなたら、どうした!?」
無論、逃げてきたのであろう。同時に拠点を捨てねばならないほどの大事が起きたことも簡単に見抜けた。
「魔物が里に攻めてきたんです!」
「しかもジャイアントワイバーンを従えています! それも二匹も!!」
ジャイアントワイバーン、飛竜と呼ばれるものの中でも特に巨大なものだ。辺境にある軍の駐屯地を強襲し、たった一匹で焼き尽くしたという報告すら上がっている危険な魔物。文字通り空の支配者だ。
その力は圧倒的。空を飛ぶ上に丈夫な甲殻を持ち、生半可な攻撃では傷一つ付けることはできない。その上獲物を狩る武器として、火球と毒爪の双方を備える。
――そんな怪物が今、里を襲ったために彼らは逃げ出した。
「アフロディーテはどうしたのじゃ!?」
「私達を逃がすために一人で戦っています!」
「でもこのままだとアフロディーテ様でも助かりません! 死んでしまいます!!」
アフロディーテの実力は、スカジも信じていた。だが相手が悪い。どんなに優れた戦士であっても、飛べる敵を相手にする上にそれを従える地上魔物とも渡り合うのは厳しいのだ。
それに、彼女は妖精達を守らなければならない。戦力にならない者を守りながら戦うのは困難を極める。だから彼女達は、足手まといにならないよう逃げてスカジを探したのだ。
「ならわらわが加勢する! 他は!?」
「ゴブリンとオーガです!」
「ならお前達はバーボチカと迎え撃て!」
武器を構え、急行しようとするスカジ。そこをバーボチカが引き留めた。
「ちょっと待ってください! ゴブリンが妖精を襲うのですか!?」
島から出たことのない彼女は、外界のゴブリンがどういう生活をしているのかを知らない。それも彼女は妖精を信仰するシャーマンの娘。そんな悪行をする同胞がいるなど信じられないのだ。
「……バーボチカ、わらわらの島で一番弱い存在はゴブリンじゃ。しかし大陸ではゴブリンよりも弱い者は少なからずいる。奴らはそういう者共から略奪を行って生活しているのじゃよ」
――その主張はその通りだ。リョート島に生息するゴブリン以外の魔物はどれも強大なものばかり。自分より強い相手に略奪をするのは明らかにリスクとリターンが釣り合わない。
彼らが略奪という手段を取らない生活様式を作ったのは、リスクを避ける手段が狩猟生活くらいしかないからだ。
「……あの悪いお兄さんみたいなことをしているゴブリンが、そんなにもたくさんいるのですか?」
「むしろわらわらの方が少数派と思った方がいい。同胞だからと言って情けをかける必要はないぞ」
残酷な事実。しかし、それは正しい判断だ。
リョート島の外に生息するゴブリンは、彼女が言う通り残酷な略奪者である。だがバーボチカはその現実に動じることはなかった。
「確かに、人間にもあの商会の人達みたいな最低な人もいれば、ジェフ君みたいに優しい人もいます。それと同じですね」
これまでの旅で出会った温かい人々との思い出が、この事実を乗り越えさせたのだ。その中には善人も悪人もいた。人間ですらそうなのだから、自分の仲間であるゴブリンがそうだと言われても何の問題もない。
「だから私は彼らを仲間とは思いません。全力で戦います」
そう宣言すると、バーボチカは森の奥へ駆けていった。
「うむ、それでいい。行くぞ!」
スカジの指示通り交戦を避けたバーボチカは、無数の樹々がそびえ立つ森フォレノワールに入った。葉は黒に近い色合いである。この色こそが黒い森の名の由来であり、人々が近寄らない理由なのだ。
「この森の土壌は魔力を多く含んでいる。それが樹々を無秩序に成長させるのじゃよ」
ところどころに花も生えているのだが、それも奇怪な色合いだ。主張の激しい極彩色のものもあれば、枯れているようにしか見えない黒や茶色のものもある。
「……まるで焦げちゃったみたいですね」
さすがの彼女も、この森の彼岸花には手を出さない。こんな色合いを求めていないのだろう。
「そろそろアフロディーテの里につくぞ」
幸いにも魔物と出会うことはなかった。今まで思い通りに行かないことばかりのこの旅も、ここに来てようやく順調に進むのだろうか。
「アフロディーテ様はどのような妖精なのですか?」
「アフロディーテは土を司る妖精王じゃ。無益な争いとそれのために自らの力を利用されることを嫌っていてな。こんな不便な森に住んでいるのは人間からの干渉を避けるためなのじゃよ」
事実、ここに住めば森に住む魔物が侵入者を拒んでくれる。制御できないとしても優れた防御策だ。己の自由を犠牲にする覚悟があるなら悪くない選択肢だろう。
「長としても配下を慈しみ思いやる愛に溢れた女じゃ。妖精達が文句を言わずについていくのもその人柄のおかげじゃろう」
――しかし、緊張感が薄れた時に限ってピンチは訪れるのであった。
「誰か助けてー!!」
声と共に飛び出したのは妖精達。里の方から三十匹以上の者が現れた。
「……そなたら、どうした!?」
無論、逃げてきたのであろう。同時に拠点を捨てねばならないほどの大事が起きたことも簡単に見抜けた。
「魔物が里に攻めてきたんです!」
「しかもジャイアントワイバーンを従えています! それも二匹も!!」
ジャイアントワイバーン、飛竜と呼ばれるものの中でも特に巨大なものだ。辺境にある軍の駐屯地を強襲し、たった一匹で焼き尽くしたという報告すら上がっている危険な魔物。文字通り空の支配者だ。
その力は圧倒的。空を飛ぶ上に丈夫な甲殻を持ち、生半可な攻撃では傷一つ付けることはできない。その上獲物を狩る武器として、火球と毒爪の双方を備える。
――そんな怪物が今、里を襲ったために彼らは逃げ出した。
「アフロディーテはどうしたのじゃ!?」
「私達を逃がすために一人で戦っています!」
「でもこのままだとアフロディーテ様でも助かりません! 死んでしまいます!!」
アフロディーテの実力は、スカジも信じていた。だが相手が悪い。どんなに優れた戦士であっても、飛べる敵を相手にする上にそれを従える地上魔物とも渡り合うのは厳しいのだ。
それに、彼女は妖精達を守らなければならない。戦力にならない者を守りながら戦うのは困難を極める。だから彼女達は、足手まといにならないよう逃げてスカジを探したのだ。
「ならわらわが加勢する! 他は!?」
「ゴブリンとオーガです!」
「ならお前達はバーボチカと迎え撃て!」
武器を構え、急行しようとするスカジ。そこをバーボチカが引き留めた。
「ちょっと待ってください! ゴブリンが妖精を襲うのですか!?」
島から出たことのない彼女は、外界のゴブリンがどういう生活をしているのかを知らない。それも彼女は妖精を信仰するシャーマンの娘。そんな悪行をする同胞がいるなど信じられないのだ。
「……バーボチカ、わらわらの島で一番弱い存在はゴブリンじゃ。しかし大陸ではゴブリンよりも弱い者は少なからずいる。奴らはそういう者共から略奪を行って生活しているのじゃよ」
――その主張はその通りだ。リョート島に生息するゴブリン以外の魔物はどれも強大なものばかり。自分より強い相手に略奪をするのは明らかにリスクとリターンが釣り合わない。
彼らが略奪という手段を取らない生活様式を作ったのは、リスクを避ける手段が狩猟生活くらいしかないからだ。
「……あの悪いお兄さんみたいなことをしているゴブリンが、そんなにもたくさんいるのですか?」
「むしろわらわらの方が少数派と思った方がいい。同胞だからと言って情けをかける必要はないぞ」
残酷な事実。しかし、それは正しい判断だ。
リョート島の外に生息するゴブリンは、彼女が言う通り残酷な略奪者である。だがバーボチカはその現実に動じることはなかった。
「確かに、人間にもあの商会の人達みたいな最低な人もいれば、ジェフ君みたいに優しい人もいます。それと同じですね」
これまでの旅で出会った温かい人々との思い出が、この事実を乗り越えさせたのだ。その中には善人も悪人もいた。人間ですらそうなのだから、自分の仲間であるゴブリンがそうだと言われても何の問題もない。
「だから私は彼らを仲間とは思いません。全力で戦います」
そう宣言すると、バーボチカは森の奥へ駆けていった。
「うむ、それでいい。行くぞ!」
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