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バーボチカの冒険 激震のフロンティア

用心棒の正体●
「おい、なんでお前も僕を疑うんだよ。さっきまでこのお姉さんが一番怪しいって言ってたじゃん」

 船長をお前と呼びつけにする、雇われものの立場からは考えられない横柄な言葉遣い。ここまで来るともはや疑ってくれと言っているようなものであった。

「疑うなら、お前も殺すぞ

 剣を抜き構える。だが、船長は臆することなく逆に睨み返した。

「どうやら、あんたで間違いないようだね!!」

 もはや自白と何も変わらない逆上に対して怒りに満ちた船長の叫びが、船上に響き渡った。

「まあ待つのじゃ」
「!?」
「裁判は証拠を握った上でするもの。感情論で語る前にわらわの証言を聞いておくれ」

 スカジは船長を押しとどめると、ドミニクに向き合った。

――これでこの男が犯人だと確定する。両陣営がそう思った時、お互いが武器を下ろしスカジの証言に耳を傾け始めた。

「わらわは前からこやつを疑っていたのじゃ。最初に怪しいと思ったのは水竜に襲われて逃げてきた時じゃな」
「……そんなに前から目星を付けていたのかい」

 ドミニクを疑っていることを聞いていたのは副船長だけ。その彼女すら疑っていた理由は知らされていないらしい。

「副船長さんに聞いたぞ。お前さんはギルマンの群れを相手にしてもお仲間さんを死なせず守り抜いたそうじゃな。そんな腕の立つ戦士が水竜を相手に尻尾を巻いて逃げてきた……」
「……確かに、あんなに強いなら一人でも充分勝てそうなのに」

 それに対しスカジが手のひらを突き出し制止した。

「いや、副船長さん。これだけで疑うのはかわいそうじゃ」

 思わせぶりな言葉。もったいぶって疑った理由を話そうとしない。

「逃げることは恥ではない。むしろ勝てない相手に戦いを挑み死ぬ方が本当の恥じゃ」

 それが焦らされているようで、船員達はじれったそうにしている。

「勝てない相手には戦わずに逃げることも時に戦士に必要な能力じゃろう」

 無関係な話が、ようやくひと段落したところで、容疑者が怒りの声を上げる。

「だったらなんで僕を疑うの?」
「そうだぞ! いいから早く言えよ!」

 怒るのは、傍聴人達もだった。

「俺達はなんでこいつがジェフを殺したのかを知りたいんだ!」

 船員達が口々にドミニクを罵り、急かす声が上がる中、スカジは悠然とした態度でその問いに答えた。

「それはお前さんが水竜を付かず離れずの距離感で連れてきたからじゃよ」



「――お前さん、もしあのまま船が壊されたらどうするつもりだったのじゃ」

 全く以てその通りであった。船を潰されれば仲間もろとも島から出られなくなる。自給自足ができなければ待つのは死だ。

――つまりそれは、ドミニクの逃げる様がスカジには船を壊すために水竜を誘導してきたように見えたということ。

「それは邪推だよ。僕がそんなことをする奴だって証拠はあるの?」
「お前さんがクロである証拠、それはもう握っておる。そのために部屋に忍び込んだ」

 この航海の間、誰にも入らせなかった自室に入られた。それを知って少しずつ彼の顔から汗が出始める。

「へえ、鍵をかけていたのにどうやって入ったの?」

 口先ではヘラヘラして平静を装っているが、動揺の感情がにじんできているのだろう。まるで自分自身にそんなはずはない、と必死に言い聞かせているかのようだ。

「簡単じゃよ。鍵開けの魔法を使ったのじゃ。わらわはいたずらの達人じゃからな」

 息を飲んで聞く船員達。会話の中に混ざった妙な言葉に気を取られない程に。それだけ目の前の真実が気になっているのだ。

「そこで見つけたのがこれじゃ」

 そして、スカジはその証拠を見せつけるように何かを取り出した。掲げられたのはガラス瓶。それには、赤い液体が確かに入っている。
 それを見て船長が驚きの声を上げる。

「おいあんた、これって……」
「そうじゃ、皆の者。これが何かわかったようじゃな」

――そう、これは。

「――これは人間の血じゃ。奴の部屋にはこれと同じ瓶たんまりとあったのじゃよ」
「……ッチ」

 見られてしまった。盗まれた瓶を見た彼の顔には克明にそう書いてあった。

「はたしてこれは何に使うものなのかのお。わらわは最初、禁術にでも手を出すつもりかと思っていたわ」

 最初はそう思っていた、ということはこれから出される答えは違うということだ。
 一同の注目が集まる中、彼女はとうとう答えを口にした。

「――部屋に戻る際に、お前さんジェフを殺して食べるところを見るまではな」
「殺して……食べる!?」

 衝撃の一言に、誰もが言葉を無くし唖然としてスカジを見つめた。
 だが、当の本人は相変わらず涼しい顔をしている。

「……あーあ、バレちゃった」

 それがかえって不気味さを際立たせていた。
 スカジの発言に全員が驚愕の表情を浮かべている。だが、ただ一人、ドミニクだけは笑っていた。
 まるでバレても構わないと言わんばかりに。

「どういうことだ!? 教えてくれ!!」

 船員全員が半ば恐慌状態となり口々にスカジに問う。それだけ信じられない言葉だったのだ。

「おい船長、みんな! 見てくれ!」

 すると、副船長がジェフの近くに落ちていた手紙を見つけた。
 恐る恐る中を広げ、全員に見せた。そこには信じられない内容が血文字で書かれていた。

 VANPI……その次に恐らくRと思わしきアルファベットの書きかけがあった。恐らくヴァンパイアと書こうとした途中で、彼はこと切れたのだ。

「それだけではない。ジェフの喉を見てくれ」

 さらにスカジが決定的な証拠として、遺体の喉を指さした。

「楕円形に肉がえぐり取られているじゃろう。これは人食いの食事の後、それも血のみを好んで食らうヴァンパイアのものじゃ」

 ドミニクを見たまま固まる船員達。この用心棒が犯人であることは充分に伝わった。そしてジェフは用心棒の正体を知って殺されたということも。だが今度彼らを支配しているのは恐怖

「……おめでとう、探偵さん。すべては君の言う通り。僕が彼を殺した犯人だ
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