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バーボチカの冒険 激震のフロンティア
絆の壊れた朝●
それから船旅は続く。大陸に着くはずの三日目の朝。今日船は無事港にたどり着くはずであった。
「……おい、何だこれは!!」
甲板に横たわっていたのは、血だらけになって倒れた仲間の亡骸。
黙って見つめるバーボチカ。横たわっていたのは昨日まで仲良く釣りをした友達、ジェフであった。
「ジェフ君……どうして……」
涙を流し亡骸に寄りそうバーボチカ。他の船員達も動揺を隠しきれない。
「……誰だい、こんなことをしやがったのはッ!!」
真っ先に叫びを上げたのは、他ならぬ船長であった。
「ジェフはいい奴だ。気の弱いところはあるけど、気配りができる大事なアタシらの仲間。お前らもそう思うよな?」
「はい!」
副船長の呼びかけに呼応する船員達。彼らは全員が互いを信じあっている。仲間を殺す動機がないことも含めて知り尽くした関係だ。つまり、この場にいる誰かが犯人ということ。
だが、誰もが互いを信じる中、船長は二人に疑惑を向ける。
「……ということは、犯人は新入りの誰かだね」
固い絆で結ばれた彼らが、船に乗ったばかりの新人を疑うのは必然的であった。
「ちょっと待ってください! なんで私達が彼を殺さないといけないのですか!!」
向けられた疑念の目にバーボチカが怒った。この船の上でできた一番の友達であったジェフを失ったばかりなのだ。自分自身が犯人と疑われて納得できるはずなどない。
「あんたらは水竜を殺すほどの狩人だ。その腕だけでも充分疑う理由になる」
カトラスの刃先を二人に向け、冷酷に言い放つ船長。彼女は本気で言っている。それがわかった時、バーボチカは怒りで目の前が見えなくなっていた。
――私はただ、ジェフ君の手伝いをしていただけなのに。それを、何もしていない人間から疑いの目で見られるなんてあんまりだ。
「何言っているんだ、船長!」
だが彼女の怒りを代弁するかのように、一人の船員が代わりに言い返す。
「あんたも見ていただろ! バーボチカはあんなにジェフになついてたんだ! こんないい子がジェフを殺すはずがねえだろ!」
「そうだそうだ! さすがに決めつけがすぎるぜ!!」
船員達が口を揃えて庇う。彼らが実際に見た二人の信頼は本物であった。それを疑うような言葉は船長が相手としても見過ごせるはずがない。
――だけど、このままだとまずい。
ジェフを殺したのが彼女ではないという証拠はない。むしろ状況的には彼女が怪しまれるのは自然。
――どうすればバーボチカが犯人じゃないと信じられる? 船員達の視線がバーボチカに集まる。だが、誰も彼もが彼女を信じて口々に説得した
「……確かにそうだな。この嬢ちゃんがジェフを殺すはずがない。アタシだって本当は疑いたくないさ」
しかしその熱意を信じたのか、船長は納得してくれたようだ。
「……でも、この嬢ちゃんが違うっていうなら他に疑えるのは誰だい?」
口を動かしながら、カトラスの向きを変える。
「そう、消去法であんたになるんだよ」
指したのはなんと、スカジの方であった。
「……確かこの姉ちゃんはよく夜中に船をうろついていたな」
バーボチカは知らないことだが、彼女は不審行動とみられるものをとっていた。夜に出歩くなんて何か企んでいる、そう思われても不思議ではないだろう。
ましてやこの殺人は、夜に起きたのだから。
「あ、ああ。俺もよく足音を聞いたぜ。部屋を出て確認したらこの姉ちゃんがいたよ」
バーボチカの時と違い、船員達は誰一人かばわなかった。証拠は不十分だが疑う根拠が明確にあるからだ。
「ふーん、それは怪しいねえ」
船長がゆっくりと歩み寄る。カトラスの白刃が、かすかに手ブレで揺れながら迫ってきた。
「そんな! 妖精王様がジェフ君を殺すなんて――」
「あんたは黙ってな!」
抗議を無視して詰め寄る船長。歩く度に揺れる白刃を前にしても、スカジは堂々としている。
「……正直に答えな。あんたがジェフを殺したのか?」
その問いに対して彼女は無言で首を横に振った。
「……まあそうだろうな。じゃあ潔白である証拠を示してもらおうか」
「その必要はない」
「ハァッ!?」
突飛すぎる一言に戸惑う船長。
「わらわは犯人を知っている。殺人の現場を見たのだから。なあ、ドミニクさんや」
意に介さずにらんだのは用心棒の男であった。
「……なんだい、お姉さん。僕を疑うのかい?」
突然の指名にも動揺しない。それどころか、余裕のある笑みを浮かべている。
だが、この状況ではどんな笑顔も不気味に見えるものだ。
――こいつが犯人なのか……。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。船長は覚悟を決めて切り込んだ。
「あんた、どういう理由でドミニクが怪しいと疑ったんだ?」
「わらわは疑ってなどいない。知っているのじゃよ。そう、お前さんがジェフを殺したという真実を」
「なんだって!?」
あまりに単刀直入な一言で、周りの船員達が騒ぎだす。
「アッハッハッハ」
一方、名指しされた本人は相変わらず涼しい顔をして笑っていた。
「そんなこと言う探偵さんなんて初めて見たよ。推理小説の真似? そんなセリフ書く作家なんて0点でしょ」
大事な仲間が死んだというのに、この男は何一つ緊張感のない口調でまくし立てた。
「……あっ」
しかし彼は周囲の空気に気が付いてそれをピタッと止めた。船員達が全員で己をにらんでいることに、気が付いたからだ。
「どうじゃ皆の者、ついにこやつの化けの皮がはがれたぞよ」
仲間を失い悲しむ者達の前で大笑い。ジェフの死を弔う気持ちなど何一つない。たとえ彼が犯人でなかったとしても、人として決して許されることのない愚行であった。
「……みんな、どうしたの? そんな怖い顔しないでよ~」
それでもなお、いつものように軽い調子で語りかけるドミニク。だが、誰も耳を傾けようとはしなかった。
「……あんた、ジェフはいつこいつに殺されたんだ?」
船長がスカジに詰め寄り問いただす。
「おい、なんでお前も僕を疑うんだよ」
「!?」
その決めつけてかかる船長の言葉を受け、ドミニクは露骨に気分を悪くしているようだ。
「さっきまでこのお姉さんが一番怪しいって言ってたじゃん」
船長をお前と呼びつけにする、雇われものの立場からは考えられない横柄な言葉遣い。ここまで来るともはや疑ってくれと言っているようなものであった。
「疑うなら、お前も殺すぞ」
剣を抜き構える。だが、船長は臆することなく逆に睨み返した。
「どうやら、あんたで間違いないようだね!!」
もはや自白と何も変わらない逆上に対して怒りに満ちた船長の叫びが、船上に響き渡った。
「まあ待つのじゃ」
「!?」
「裁判は証拠を握った上でするもの。感情論で語る前にわらわの証言を聞いておくれ」
スカジは船長を押しとどめると、ドミニクに向き合った。
「……おい、何だこれは!!」
甲板に横たわっていたのは、血だらけになって倒れた仲間の亡骸。
黙って見つめるバーボチカ。横たわっていたのは昨日まで仲良く釣りをした友達、ジェフであった。
「ジェフ君……どうして……」
涙を流し亡骸に寄りそうバーボチカ。他の船員達も動揺を隠しきれない。
「……誰だい、こんなことをしやがったのはッ!!」
真っ先に叫びを上げたのは、他ならぬ船長であった。
「ジェフはいい奴だ。気の弱いところはあるけど、気配りができる大事なアタシらの仲間。お前らもそう思うよな?」
「はい!」
副船長の呼びかけに呼応する船員達。彼らは全員が互いを信じあっている。仲間を殺す動機がないことも含めて知り尽くした関係だ。つまり、この場にいる誰かが犯人ということ。
だが、誰もが互いを信じる中、船長は二人に疑惑を向ける。
「……ということは、犯人は新入りの誰かだね」
固い絆で結ばれた彼らが、船に乗ったばかりの新人を疑うのは必然的であった。
「ちょっと待ってください! なんで私達が彼を殺さないといけないのですか!!」
向けられた疑念の目にバーボチカが怒った。この船の上でできた一番の友達であったジェフを失ったばかりなのだ。自分自身が犯人と疑われて納得できるはずなどない。
「あんたらは水竜を殺すほどの狩人だ。その腕だけでも充分疑う理由になる」
カトラスの刃先を二人に向け、冷酷に言い放つ船長。彼女は本気で言っている。それがわかった時、バーボチカは怒りで目の前が見えなくなっていた。
――私はただ、ジェフ君の手伝いをしていただけなのに。それを、何もしていない人間から疑いの目で見られるなんてあんまりだ。
「何言っているんだ、船長!」
だが彼女の怒りを代弁するかのように、一人の船員が代わりに言い返す。
「あんたも見ていただろ! バーボチカはあんなにジェフになついてたんだ! こんないい子がジェフを殺すはずがねえだろ!」
「そうだそうだ! さすがに決めつけがすぎるぜ!!」
船員達が口を揃えて庇う。彼らが実際に見た二人の信頼は本物であった。それを疑うような言葉は船長が相手としても見過ごせるはずがない。
――だけど、このままだとまずい。
ジェフを殺したのが彼女ではないという証拠はない。むしろ状況的には彼女が怪しまれるのは自然。
――どうすればバーボチカが犯人じゃないと信じられる? 船員達の視線がバーボチカに集まる。だが、誰も彼もが彼女を信じて口々に説得した
「……確かにそうだな。この嬢ちゃんがジェフを殺すはずがない。アタシだって本当は疑いたくないさ」
しかしその熱意を信じたのか、船長は納得してくれたようだ。
「……でも、この嬢ちゃんが違うっていうなら他に疑えるのは誰だい?」
口を動かしながら、カトラスの向きを変える。
「そう、消去法であんたになるんだよ」
指したのはなんと、スカジの方であった。
「……確かこの姉ちゃんはよく夜中に船をうろついていたな」
バーボチカは知らないことだが、彼女は不審行動とみられるものをとっていた。夜に出歩くなんて何か企んでいる、そう思われても不思議ではないだろう。
ましてやこの殺人は、夜に起きたのだから。
「あ、ああ。俺もよく足音を聞いたぜ。部屋を出て確認したらこの姉ちゃんがいたよ」
バーボチカの時と違い、船員達は誰一人かばわなかった。証拠は不十分だが疑う根拠が明確にあるからだ。
「ふーん、それは怪しいねえ」
船長がゆっくりと歩み寄る。カトラスの白刃が、かすかに手ブレで揺れながら迫ってきた。
「そんな! 妖精王様がジェフ君を殺すなんて――」
「あんたは黙ってな!」
抗議を無視して詰め寄る船長。歩く度に揺れる白刃を前にしても、スカジは堂々としている。
「……正直に答えな。あんたがジェフを殺したのか?」
その問いに対して彼女は無言で首を横に振った。
「……まあそうだろうな。じゃあ潔白である証拠を示してもらおうか」
「その必要はない」
「ハァッ!?」
突飛すぎる一言に戸惑う船長。
「わらわは犯人を知っている。殺人の現場を見たのだから。なあ、ドミニクさんや」
意に介さずにらんだのは用心棒の男であった。
「……なんだい、お姉さん。僕を疑うのかい?」
突然の指名にも動揺しない。それどころか、余裕のある笑みを浮かべている。
だが、この状況ではどんな笑顔も不気味に見えるものだ。
――こいつが犯人なのか……。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。船長は覚悟を決めて切り込んだ。
「あんた、どういう理由でドミニクが怪しいと疑ったんだ?」
「わらわは疑ってなどいない。知っているのじゃよ。そう、お前さんがジェフを殺したという真実を」
「なんだって!?」
あまりに単刀直入な一言で、周りの船員達が騒ぎだす。
「アッハッハッハ」
一方、名指しされた本人は相変わらず涼しい顔をして笑っていた。
「そんなこと言う探偵さんなんて初めて見たよ。推理小説の真似? そんなセリフ書く作家なんて0点でしょ」
大事な仲間が死んだというのに、この男は何一つ緊張感のない口調でまくし立てた。
「……あっ」
しかし彼は周囲の空気に気が付いてそれをピタッと止めた。船員達が全員で己をにらんでいることに、気が付いたからだ。
「どうじゃ皆の者、ついにこやつの化けの皮がはがれたぞよ」
仲間を失い悲しむ者達の前で大笑い。ジェフの死を弔う気持ちなど何一つない。たとえ彼が犯人でなかったとしても、人として決して許されることのない愚行であった。
「……みんな、どうしたの? そんな怖い顔しないでよ~」
それでもなお、いつものように軽い調子で語りかけるドミニク。だが、誰も耳を傾けようとはしなかった。
「……あんた、ジェフはいつこいつに殺されたんだ?」
船長がスカジに詰め寄り問いただす。
「おい、なんでお前も僕を疑うんだよ」
「!?」
その決めつけてかかる船長の言葉を受け、ドミニクは露骨に気分を悪くしているようだ。
「さっきまでこのお姉さんが一番怪しいって言ってたじゃん」
船長をお前と呼びつけにする、雇われものの立場からは考えられない横柄な言葉遣い。ここまで来るともはや疑ってくれと言っているようなものであった。
「疑うなら、お前も殺すぞ」
剣を抜き構える。だが、船長は臆することなく逆に睨み返した。
「どうやら、あんたで間違いないようだね!!」
もはや自白と何も変わらない逆上に対して怒りに満ちた船長の叫びが、船上に響き渡った。
「まあ待つのじゃ」
「!?」
「裁判は証拠を握った上でするもの。感情論で語る前にわらわの証言を聞いておくれ」
スカジは船長を押しとどめると、ドミニクに向き合った。
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