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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第9話 裏ギルド
 王都の外れ。通称獣人街と呼ばれるこの地域は、治安の悪さから騎士団もろくに入ってこない、いわば治外法権の地である。複雑に入り組んだ路地裏の一画にその店はあった。

“カランカラン……”

「よう、兄弟」
「久しぶりっす」

 そんな声を聞き流しつつモルトはカウンターへ。

 夏の残暑が残る街。さすがに外よりは涼しいとはいえ、店内にもまったりとした暑さがこもっていた。
 無言のバーテンダーにも、モルトは慣れた様子である。

「モヒート」

 自分と同じ狐人が考案したという、ハーブの効いた冷たいカクテルを注文する。
 すぐに出されたモヒートに口を付けてから、モルトが口を開いた。

「ところで、マスターの姿が見当たらないっすが……」
「奥で『お仕事』中さ」

 相変わらず無言のバーテンダーに代わって、背後から声をかけられた。
 振り向くと、そこにはひとりの狐人の姿。ニッと笑顔を浮かべ、赤みかかったもふもふ尻尾をゆったりと揺らしている。

「バドっすか! 元気そうで何よりっす」

「ああ、王都は何かと物騒だからな。おかげで俺たちは忙しいのさ。マスターの様子を見てきてやるよ」

 バドの姿が奥に引っ込むと、入り口付近にいた痩せた犬族の男が、入れ替わるようにカウンターへゆらりと近づいてきた。

「あんたがモルトかい。こっちは散々な目に遭っているんだ。おまけに俺たちの後ろ盾だったトーゴ家が王都から追放。それもこれも、執事のあんたのせいじゃないのかい」

 男は、ぎょろりと睨む。どうやらモルトに自分が抱える個人的な不満をぶつけたいようだ。

「……確かに、自分の力不足っす」
「何?」

 尻尾をしゅんと垂らし、素直に自分の非を認めたモルトに、男は驚いている様子。

「じゃあ、仕事を無くして、こんな所に来ている俺に、どう詫びてくれるんだよ」
「アウル領は、今、入植者を募集中っす!」
「入植者?」
「早い者勝ちで、家と農地を与えるっす。しかも、最初の収穫までは、生活費をクラーチ家が面倒みる気っす」

「いくら何でも、そんなうまい話なんてあるかよ」

 からかわれたと思った男は、モルトの胸倉をつかんだのだが……。

「あのね。いくらいきがっても、そんなやせぎすじゃ、話にならないっす」
「あん、何だと!」
「自分に手を出すと、ハヤト様が黙っていないっすよ」
「……」
「まあ、その前に、セリス様が黙っちゃいないと思うっすけど……」

「せ、セリスだと!」

 モルトがその名前を口にすると、それまでがやがやしていた店内が、一瞬にして水を打ったかのように静まり返った。

 そして、次の瞬間、男は逃げるように店を出て行ってしまったのだった……。


◇◇◇


「よう、元気にしてたか、モルト」
「ウーゾ、久しぶりっす」

 ウーゾは人懐っこそうな笑みを浮かべながら分厚い右手を出してきた。

「まさか、王都きっての凄腕執事様が、直接来てくれるとはな」
「今となっては、元っすよ~♪」

 王都総督として、亜人たちの後ろ盾だったトーゴ家で執事を務めるモルトは、こう見えて王都の亜人社会ではちょっとした“顔”なのである。
 

 慢性的な人手不足に悩む王都には、仕事を求めて大陸中から多くの人が集まってくる。もちろん人族だけでなく亜人も多い。
 そして、この店の裏の顔は、亜人たちの職業案内所兼よろず相談所。通称、裏ギルドといわれている。

 王都には、表のギルドには出せないような仕事もあるのだ。ここは、そんな非合法に近い仕事を、依頼したり斡旋したりする場所でもある。
 当然、そんな仕事ほど、危険な上に命の保証もないのだが、獣人をはじめとする亜人たちは、人族以上に切羽詰まった者が多いのだ。
 いかに、王国が各種族の平等を唱えたからといって、獣人やエルフといった亜人たちに対する差別感情は根強く、不当な扱いをされることも多い。
 王都における亜人たちの盟主ともいわれるトーゴ家“追放”後は、この裏ギルドこそが亜人たちが頼るべき最後の砦なのだ。

「アウル辺境伯のことで、今日は相談があるんすよ」

「成る程な。で、報酬は?」
「無いっす」
「は? お前、正気か?」
「もちろん、衣食住は、クラーチ家が保障するっす。でも今は給料を払う余裕までは無いっす」

「……それで、どんな奴が欲しいんだ」
「そりゃ、使用人とはいえ辺境の地っすからね。筋骨たくましい男の獣人なんてぴったりっす」

 明らかに渋い顔をするウーゾに、慌てるモルト。

「特典も付けるっす! クラーチ家で住み込みで働いてくれる者には個室を確約するっす。屋敷近くの一戸建てからの通いも認めるっす」

「そりゃあ、難しいな。王都でも十分稼いでいけるのに、わざわざ、無報酬で辺境まで来るようなもの好きはいないだろうが……で、入植者の待遇はどうなんだ」
「早い者勝ちで、家と農地を与えるっす。しかも、収穫までは生活費をクラーチ家が面倒みるっす」

「ほう。そっちの条件はまずまずだな」
「希望者は、身一つで来てくれればいいっす。自分、これから色々と用事があるので今日はこの辺で失礼するっす」

 そう言って、モルトは足早に店を後にしたのだった。


◇◇◇


 それから一週間後。
 ウーゾの店の前には、アウル領へ向かう者たちが集合していた。

「皆さん、よろしく頼むっす」

 一人ひとりに言葉を交わし、満足そうにうなずくモルト。
 クラーチ家の就職希望者は、元の使用人に加えて入植希望者が五家族。中にはいつかの痩せた犬人族の男もいる。

「モルトさん、その節はどうも……」
「気にすることないっすよ。入植者の募集に応じてくれて助かったっす」
「それより、この前のことはどうかご内密に」
「大丈夫っす。ハヤト様にもセリス様にも秘密にしておくっす」
「恩に着ます」

 申し訳なさそうに頭を下げる男に笑顔で応えるモルト。満足そうにもふもふ尻尾を揺らしている。
そうこうするうちに、ウーゾとバドがやって来た。

「あまり集まらなくて、すまんな」
「アウル領に風土病が蔓延してるって噂が流れているんだ。本当の所どうなってるんだ?」
「その病はもう大丈夫って、ハヤト様が言ってるんで、心配することないんっすけどね。それじゃあ、出発するっす~」

 大型の馬車に、全員が乗り込んだのを確認してモルトが声を上げたのだった。


◇◇◇


 ブラックベリーでは、建物の内装の補修工事と、農地の整備が一区切りついた。後は入植者に任せてもよさそうだ。

 この日、視察を終えた俺は、屋敷に帰ってくるなりドランブイに呼び止められた。

「レオン様、ウチの商会の船が着いたようです」

 ドランブイと共に見に行くと、港には巨大なガレオン船が十隻。それぞれに品物が山のように積まれている。エルフの船員たちも積み荷の運搬作業を手伝ってくれていた。

「傷モノや、古い在庫ばかりです。本来なら処分品なのですが、その中でも使えたり食べたりできるものは、全て持ってくるよう指示を出しておきました」

 積み荷は、日用品・家具・衣類・生活雑貨・穀物など多岐にわたっている。何しろドランブイの商会は大陸南部では指折りの大店。特にキールの御用商人となってからは、業績もうなぎ上りだという。
 街で内装作業中の山エルフを除いて、総出で運搬作業を行った。領主館の倉庫に収まり切れない分は、領主屋敷の近くの民家を倉庫代わりに使うことにした。

「こんなにも……。本当にいいのか?」
「お役に立てて何よりです。それよりレオン様、キール様から書簡が届いているのですが」

 内容は、ラプトル肉のお礼とモルトたち一行が無事キールの館に到着したという知らせだった。翌日ブラックベリーに向かうそうだ。
 それと、俺が贈ったラプトル肉を使って、バーベキュー大会をしたらしい。手紙の末尾には、美味しくて大好評だったので、また欲しいという言葉が添えられていた。

「そういえば、ここから西へ船で半日もあれば、ドラゴンの一大生息地である『大森林』に着くよな。ここの入り口に罠を設置するのはどうだろう」
「試される価値はあるかと」

 ドランブイはそう言って目を輝かせたのだった。
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