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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります
第6話 領主館の室内竜
館の中は、傷みが一切ないように見える。中の調度品も、不思議なことに当時のままだ。まるでさっきまで人が住んでいたかのようである。
ドランブイによれば、この屋敷全体に魔法がかけられていたのだろうとのことだ。
「ドランブイ、本当なのか」
「はい。おそらく、状態をそのまま保つような高位の魔法でしょうか」
その昔、この地を治めた辺境伯は、自分が引き上げるときにこの屋敷を封印し、鍵を王国に預けたという。
その後アウル辺境伯は王国貴族の中で名誉職といった扱いになり、鍵は王宮の宝物庫に保管されていたそうだ。
「私は、しがない商人ですが、そうとでも考えなければ説明がつきません」
ドランブイはそう言って、花瓶に飾られた大ぶりの花を手に取った。
まるで活けられたばかりのように、花びらの一枚一枚までがみずみずしく、ほのかな香りも漂ってくる。
「おそらく、古の魔道具が使われているのでしょう。ただ……」
セリスが無理やり鎖を引きちぎったせいで、魔法が破られたのだとか。
錠前を正しく解錠することで、何度でも繰り返し中のものをそのままに留めておけるような高度な技術らしい。
「ご、ごめんなさい。お兄様。私ったら……」
「気にするな。屋敷の管理は執事の仕事だそうだからな」
「何なんすかその言い方は、いくら何でもひどいっす! 自分も皆の見ていない所で頑張っているんすよ!」
ぷりぷりしながら、一人で屋敷の奥に向かうモルト。
もふもふ尻尾を逆立てているので、相当機嫌が悪いのだろう。こんなときは、そっとしておくに限る。
◇◇◇
「お兄様、この剣なんて素敵です」
「こっちの盾と甲冑も良さそうだぞ」
「さすがは、セリス様にハヤト様。お目が高いです」
ドランブイによると、セリスが気に入った剣は金貨にして100枚ほどの値打ちがあるらしい。
絵画や彫刻をはじめ、屋敷内には至る所に装飾物が飾られているが、多くは美術工芸品に見える。このあたりには大きな戦乱があった記録もないことから、極めて平和な生活だったことがうかがえる。
「しかし、それにしても、見事な品々ですね。是非ウチの商会で扱わせてください」
「もちろんだ。よろしく頼むよ」
これらの品はすべてオークションに出せば高値が付きそうだという。俺たちは、美術館のようなリビングをひとしきり眺めていたのだが……。
「ぎゃーっ!」
屋敷中にモルトの悲鳴が鳴り響いた。玄関からまっすぐに伸びる廊下の突き当りの部屋からだ。
慌てて到着した俺たちが入ると、そこは他の部屋とは違い四方に窓がない石造りの部屋。
暗闇の奥には何物かの気配がする。
「モルト、大丈夫か!」
「も、もうダメかも知れないっす~っ!」
涙目のモルトの目の前にいたの小型のドラゴン。
そいつは真っ赤な舌を出しすと、ゆっくりと俺たちの方へ顔を向けて鋭い牙の並んだ口を開いた。
「ぎりゃりゃりゃりゃ!」
「ひいっ」
あまりの恐怖で腰を抜かしたモルトを抱き起こす。ズボンの前が濡れていることには気付かないふりをしてやることにした。
「ぎりゃりゃりゃ……!」
ドラゴンは口を大きく開けて盛んに手足や尻尾を動かしてはいるものの、俺たちの方には来ることが出来ないようだ。
よく見ると首輪がはめられており、太い鎖でつながれている。
室内犬ならぬ室内竜だろうか。こいつも屋敷の中で時を封じられていたのだろう。距離さえ取れれば危険はなさそうだ。
◇◇◇
この日、一日がかりで屋敷を隈なく捜索した結果、金貨や宝石類などが少しと、地下の食糧庫には食料も発見することが出来たが、やはり一番の収穫は室内竜だろう。
俺たちは一通り領主館を見たあと、城壁や農地を確認して、ひとまずキールの館に引き上げることにした。
「ハヤト様。このドラゴンはどうなされますか」
「自分としては、早く処分して欲しいっす~」
「お兄様、私がさばいてみせましょうか」
セリスは不穏なことを口走っているが、ドラゴンの肉はかなりの高級品らしい。骨や牙、皮もそれぞれ使い道があるという。商人の間では『ドラゴンに捨てるところなし』なんていう言葉まであるそうだ。
お土産にすればキールも喜んでくれることだろう。
「復興のための資材や職人は、キール様を頼ればよろしいでしょう。まずは、内装に長けた職人に屋敷で働く者。あとは農地を耕す者ですが……」
「何だ?」
「短期の労働者ならいざ知らず、実際にこの街の住人になってくれる者がいるかどうか」
「そこは大丈夫だと思うぞ」
「ハヤト様は、勝算がおありなのですね」
この地を襲った『風土病』さえ抑えることが出来れば、ブラックベリーも元の賑わいを取り戻せるかもしれない。
「俺に考えがある。いざとなったらよろしく頼む」
「はい。ハヤト様」
「お兄様」
眩しそうな視線をよこすドランブイ。
それはともかく、腕組みをしながら殺気を放つセリスが怖すぎるのですが……。
ドランブイによれば、この屋敷全体に魔法がかけられていたのだろうとのことだ。
「ドランブイ、本当なのか」
「はい。おそらく、状態をそのまま保つような高位の魔法でしょうか」
その昔、この地を治めた辺境伯は、自分が引き上げるときにこの屋敷を封印し、鍵を王国に預けたという。
その後アウル辺境伯は王国貴族の中で名誉職といった扱いになり、鍵は王宮の宝物庫に保管されていたそうだ。
「私は、しがない商人ですが、そうとでも考えなければ説明がつきません」
ドランブイはそう言って、花瓶に飾られた大ぶりの花を手に取った。
まるで活けられたばかりのように、花びらの一枚一枚までがみずみずしく、ほのかな香りも漂ってくる。
「おそらく、古の魔道具が使われているのでしょう。ただ……」
セリスが無理やり鎖を引きちぎったせいで、魔法が破られたのだとか。
錠前を正しく解錠することで、何度でも繰り返し中のものをそのままに留めておけるような高度な技術らしい。
「ご、ごめんなさい。お兄様。私ったら……」
「気にするな。屋敷の管理は執事の仕事だそうだからな」
「何なんすかその言い方は、いくら何でもひどいっす! 自分も皆の見ていない所で頑張っているんすよ!」
ぷりぷりしながら、一人で屋敷の奥に向かうモルト。
もふもふ尻尾を逆立てているので、相当機嫌が悪いのだろう。こんなときは、そっとしておくに限る。
◇◇◇
「お兄様、この剣なんて素敵です」
「こっちの盾と甲冑も良さそうだぞ」
「さすがは、セリス様にハヤト様。お目が高いです」
ドランブイによると、セリスが気に入った剣は金貨にして100枚ほどの値打ちがあるらしい。
絵画や彫刻をはじめ、屋敷内には至る所に装飾物が飾られているが、多くは美術工芸品に見える。このあたりには大きな戦乱があった記録もないことから、極めて平和な生活だったことがうかがえる。
「しかし、それにしても、見事な品々ですね。是非ウチの商会で扱わせてください」
「もちろんだ。よろしく頼むよ」
これらの品はすべてオークションに出せば高値が付きそうだという。俺たちは、美術館のようなリビングをひとしきり眺めていたのだが……。
「ぎゃーっ!」
屋敷中にモルトの悲鳴が鳴り響いた。玄関からまっすぐに伸びる廊下の突き当りの部屋からだ。
慌てて到着した俺たちが入ると、そこは他の部屋とは違い四方に窓がない石造りの部屋。
暗闇の奥には何物かの気配がする。
「モルト、大丈夫か!」
「も、もうダメかも知れないっす~っ!」
涙目のモルトの目の前にいたの小型のドラゴン。
そいつは真っ赤な舌を出しすと、ゆっくりと俺たちの方へ顔を向けて鋭い牙の並んだ口を開いた。
「ぎりゃりゃりゃりゃ!」
「ひいっ」
あまりの恐怖で腰を抜かしたモルトを抱き起こす。ズボンの前が濡れていることには気付かないふりをしてやることにした。
「ぎりゃりゃりゃ……!」
ドラゴンは口を大きく開けて盛んに手足や尻尾を動かしてはいるものの、俺たちの方には来ることが出来ないようだ。
よく見ると首輪がはめられており、太い鎖でつながれている。
室内犬ならぬ室内竜だろうか。こいつも屋敷の中で時を封じられていたのだろう。距離さえ取れれば危険はなさそうだ。
◇◇◇
この日、一日がかりで屋敷を隈なく捜索した結果、金貨や宝石類などが少しと、地下の食糧庫には食料も発見することが出来たが、やはり一番の収穫は室内竜だろう。
俺たちは一通り領主館を見たあと、城壁や農地を確認して、ひとまずキールの館に引き上げることにした。
「ハヤト様。このドラゴンはどうなされますか」
「自分としては、早く処分して欲しいっす~」
「お兄様、私がさばいてみせましょうか」
セリスは不穏なことを口走っているが、ドラゴンの肉はかなりの高級品らしい。骨や牙、皮もそれぞれ使い道があるという。商人の間では『ドラゴンに捨てるところなし』なんていう言葉まであるそうだ。
お土産にすればキールも喜んでくれることだろう。
「復興のための資材や職人は、キール様を頼ればよろしいでしょう。まずは、内装に長けた職人に屋敷で働く者。あとは農地を耕す者ですが……」
「何だ?」
「短期の労働者ならいざ知らず、実際にこの街の住人になってくれる者がいるかどうか」
「そこは大丈夫だと思うぞ」
「ハヤト様は、勝算がおありなのですね」
この地を襲った『風土病』さえ抑えることが出来れば、ブラックベリーも元の賑わいを取り戻せるかもしれない。
「俺に考えがある。いざとなったらよろしく頼む」
「はい。ハヤト様」
「お兄様」
眩しそうな視線をよこすドランブイ。
それはともかく、腕組みをしながら殺気を放つセリスが怖すぎるのですが……。
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