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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります
第5話 奴隷の刻印
「こ、これは……」
ドランブイの白磁のような内腿に刻まれていたのは、帝国の紋章。奴隷の刻印は一度押されると一生消えない。
大陸において奴隷制度はとうの昔に廃止されていたはずなのだ。
「ハヤト様。もし許されるのでしたら、私はハヤト様にお仕えしとうございます。私も大陸南部では、少しは名の知れた商人。人を見る目もあると自負しております。そんな私から見て、ハヤト様ほどのお仕えしがいのあるお方はおられませんでした」
「いや、俺にそこまでの力はないぞ」
「これは御謙遜を。ですが、私がお仕えしたくなったのは、ハヤト様のお人柄や地位だけではございません。商人には「利の道」というものがございます」
「利の道?」
「つまり私ども商人は、儲けにつながることしかしないということです」
「それが俺にあるというのか?」
「もちろんでございます」
「ここまで、言い切るなんて、逆にすがすがしいっすね」
「お兄様、ドランブイは信用できると思います」
セリスはそう言ってようやく目隠しを外してくれた。
すると、俺の前には、ドランブイが片膝をついて恭しく臣下の礼をとっていた。
モルトにセリスよ。このドランブイの姿、己≪おの≫が手本としてよくよく目に焼き付けるがよいわ!
……い、いや、参考にしてね。
◇◇◇
「くれぐれも無理はしないようにの。視察が終わり次第、すぐに帰って来られるがよいぞ」
キールは心配しながらも、ブラックベリー行きの船を手配してくれた。おかげで、俺たちは、無事ブラックベリーの港に到着することができたのだった。
桟橋から街を見上げると、ぐるりと張り巡らされた高い城壁が目に入る。城門に刻まれた王家の紋章が、ここが王国領だということを物語っている。
開きっぱなしの城門をくぐると、中央広場に向かって石畳の大通りが延びている。
道の両側に立ち並ぶのは、ほとんどが石造りの建物。見たところ街は無事のように見える。城壁も石畳の道路も傷みは少ない。
「しかし、寂しい所っすね~」
「お兄様、こちらを」
「うん。中はかなり傷んでいるな」
「ですがハヤト様、この街は私が一か月前に訪れたときと、ほぼ同じ状態です。乾燥した気候のせいでしょうか。傷み具合がゆるやかですね」
やがて、俺たちは街の中心近くまでやってきた。目の前のあの噴水がある場所が中央広場なのだろう。
「な、何か、やばくないっすか」
噴水からは煙が立ち上り、かすかに異臭もする。しかも、噴出口付近はかなりの高温のようで、煙が凄まじい勢いで立ち上っている。
「ハヤト様大丈夫です。この泉はブラックベリーの名物でして、そのまま飲めますよ」
そういって、泉のお湯を手ですくって飲むドランブイ。この泉のお湯は、飲料水から生活用水まで、この街の人々の暮らしをずっと支えてくれたものだという。
「これが、病の原因なんじゃないっすか?」
モルトはせわしなく尻尾を振りながら心配顔をしているが、そもそもブラックベリーは、この泉を中心にして出来た街。いくら何でもこのお湯が体に害なんてないだろう。
俺も一口飲んでみたが、やや塩気がある温泉だった。この街を襲った病の原因は恐らく別のものに違いない。
◇◇◇
その後、俺たちは噴水広場と目と鼻の先にある、旧辺境伯邸を訪れた。
「ハヤト様、鍵がかかっているっすね」
錠前は古びてはいるが象嵌が多くあしらわれ、複雑な装飾がなされている。おまけに太い鎖が何重にも巻き付けられており、到底人力では開けられそうにない。
「大丈夫っすよ、ハヤト様。こっちに来る前に王国から頂いたっす。屋敷の管理は執事の仕事っすから」
モルトはそう言って、首からぶら下げた大ぶりの鍵を得意そうに取り出した。ところが中が錆びついているのか、うまく外せないようだ。
「お兄様、お任せを」
セリスはそう言ってレイピアを鎖の隙間に差し込んだ。するとさして力を入れてないようなのに……。
バキッ! ブチブチブチ……。
乾いた音がして、何重にもまかれた頑丈そうな鎖が吹き飛んだ。我が妹ながら恐ろしい怪力である。
「じゃあ、開けるぞ」
ギギギーッ
重い両開きの扉の先には、何十年もの刻をそのまま閉じ込めた空間が広がっていたのだった。
ドランブイの白磁のような内腿に刻まれていたのは、帝国の紋章。奴隷の刻印は一度押されると一生消えない。
大陸において奴隷制度はとうの昔に廃止されていたはずなのだ。
「ハヤト様。もし許されるのでしたら、私はハヤト様にお仕えしとうございます。私も大陸南部では、少しは名の知れた商人。人を見る目もあると自負しております。そんな私から見て、ハヤト様ほどのお仕えしがいのあるお方はおられませんでした」
「いや、俺にそこまでの力はないぞ」
「これは御謙遜を。ですが、私がお仕えしたくなったのは、ハヤト様のお人柄や地位だけではございません。商人には「利の道」というものがございます」
「利の道?」
「つまり私ども商人は、儲けにつながることしかしないということです」
「それが俺にあるというのか?」
「もちろんでございます」
「ここまで、言い切るなんて、逆にすがすがしいっすね」
「お兄様、ドランブイは信用できると思います」
セリスはそう言ってようやく目隠しを外してくれた。
すると、俺の前には、ドランブイが片膝をついて恭しく臣下の礼をとっていた。
モルトにセリスよ。このドランブイの姿、己≪おの≫が手本としてよくよく目に焼き付けるがよいわ!
……い、いや、参考にしてね。
◇◇◇
「くれぐれも無理はしないようにの。視察が終わり次第、すぐに帰って来られるがよいぞ」
キールは心配しながらも、ブラックベリー行きの船を手配してくれた。おかげで、俺たちは、無事ブラックベリーの港に到着することができたのだった。
桟橋から街を見上げると、ぐるりと張り巡らされた高い城壁が目に入る。城門に刻まれた王家の紋章が、ここが王国領だということを物語っている。
開きっぱなしの城門をくぐると、中央広場に向かって石畳の大通りが延びている。
道の両側に立ち並ぶのは、ほとんどが石造りの建物。見たところ街は無事のように見える。城壁も石畳の道路も傷みは少ない。
「しかし、寂しい所っすね~」
「お兄様、こちらを」
「うん。中はかなり傷んでいるな」
「ですがハヤト様、この街は私が一か月前に訪れたときと、ほぼ同じ状態です。乾燥した気候のせいでしょうか。傷み具合がゆるやかですね」
やがて、俺たちは街の中心近くまでやってきた。目の前のあの噴水がある場所が中央広場なのだろう。
「な、何か、やばくないっすか」
噴水からは煙が立ち上り、かすかに異臭もする。しかも、噴出口付近はかなりの高温のようで、煙が凄まじい勢いで立ち上っている。
「ハヤト様大丈夫です。この泉はブラックベリーの名物でして、そのまま飲めますよ」
そういって、泉のお湯を手ですくって飲むドランブイ。この泉のお湯は、飲料水から生活用水まで、この街の人々の暮らしをずっと支えてくれたものだという。
「これが、病の原因なんじゃないっすか?」
モルトはせわしなく尻尾を振りながら心配顔をしているが、そもそもブラックベリーは、この泉を中心にして出来た街。いくら何でもこのお湯が体に害なんてないだろう。
俺も一口飲んでみたが、やや塩気がある温泉だった。この街を襲った病の原因は恐らく別のものに違いない。
◇◇◇
その後、俺たちは噴水広場と目と鼻の先にある、旧辺境伯邸を訪れた。
「ハヤト様、鍵がかかっているっすね」
錠前は古びてはいるが象嵌が多くあしらわれ、複雑な装飾がなされている。おまけに太い鎖が何重にも巻き付けられており、到底人力では開けられそうにない。
「大丈夫っすよ、ハヤト様。こっちに来る前に王国から頂いたっす。屋敷の管理は執事の仕事っすから」
モルトはそう言って、首からぶら下げた大ぶりの鍵を得意そうに取り出した。ところが中が錆びついているのか、うまく外せないようだ。
「お兄様、お任せを」
セリスはそう言ってレイピアを鎖の隙間に差し込んだ。するとさして力を入れてないようなのに……。
バキッ! ブチブチブチ……。
乾いた音がして、何重にもまかれた頑丈そうな鎖が吹き飛んだ。我が妹ながら恐ろしい怪力である。
「じゃあ、開けるぞ」
ギギギーッ
重い両開きの扉の先には、何十年もの刻をそのまま閉じ込めた空間が広がっていたのだった。
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