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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第30話 王国宮廷
「ピニャ、一体、どうしたんだ!」
「キール様からの伝言です。暗部の報告によりますと、今月、北より我が領を通ってブラックベリーに入った者の中に、かなり帝国兵が混じっている様子です」
「何だって!」
「なお詳細は調査中。今後について相談したいことあり。三日後、迎えの船が到着するまで、ハウスホールドで待機されたしとのことです。そして最後に……」

「ドランブイたちが心配だ。今すぐブラックベリーへ向かうぞ!」
「キール様からは、最後にハヤト様をお止めするようにと申し付かっております」
「お兄様、ご辛抱を」
「そおっす。もし何かあれば危ないっす!」
「とにかくブラックベリーの様子を掴むのが、先決でございましょう」
「くっ……」

 唇をかみしめる俺の前に、ピニャが跪ひざまずいた。

「キール様からは、軽挙は慎まれるようにとくれぐれも念を押されました。北の王国にも動きがあり、全力で状況を探っておられるところです」

「王国か……」

 軽はずみな行動を起こせば、逆にキールに迷惑が掛かりそうだ。そして俺はあくまで王国に仕える辺境伯に過ぎない。

「お兄様」
「ここは、キール様に従うべきっす」
「ハヤト様、明日緊急の軍議が開かれます。リューク王はそこで改めてハヤト様と謁見したいと仰せです。インスぺリアルに向かうのはその後でもよろしいかと」

 俺は自分の気持ちをひとまず押し殺したのだった。


◇◇◇


「貴公は、あの噂をご存じか」
「もちろん。今や街の子供たちさえ、知っておりますぞ」
「もはや我が王国の運命も尽きるのか」

 北の王国と称されるグレンゴイン王国の宮廷は、恐るべき噂に支配されていた。
 大陸北部を完全制圧したカサティーク帝国が、矛をそろえて王国を併呑すべく南下してくるというのだ。

 王都が戦火に巻き込まれるのを恐れ、一部の大貴族は自分たちの家族や家財を秘密裏に自らの所領に避難させる動きまである。

 実際、王国との国境には帝国の大軍が駐屯している。演習という名目ではあるものの、それを信じている者などいない。

 宮廷では、貴族たちが、次々ともたらされる情報に一喜一憂しながら右往左往するばかりである。

「戦になれば、王都陥落など時間の問題ですぞ」
「帝国が北部一帯を制圧した後は、南下してくることなど自明の理。これは外交の失敗というほかありませんな」
「だから、我らはいざというときに備えて王姫様をはじめ、帝国と誼を結んだのではないか」
「ウチなど、長男を婿として帝国に差し出しておるのですぞ」
「それは帝国にそそのかされた貴公が悪いかと」
「何と申される! 表に出られよ!」

 国王は、貴族たちの醜く、それでいてどこか他人事のような非難の嵐に、顔を曇らせ続けている。

 そんな中、急使が恐るべきことを告げた。

「申し上げます! アウル領ブラックベリーにて、ハヤト辺境伯様ご謀反‼」

「何じゃと!」
「詳しく話してみよ!」

「アウル領は独立を宣言。ブラックベリーの城門を閉ざし、帝国へ宣戦を布告したとのことです!」

「それは誠か!」
「だから、あのようなよそ者など信用してはならぬのじゃ」
「だいたい、法衣貴族を辺境伯にするなど」
「たしか、推薦なさったのは公爵様でしたかな」

「皆の者、まだ、辺境伯が謀反したと決まったわけではあるまいに……」

(このような非常時ですら足の引っ張り合いとは。若き伯爵にアウル辺境伯を押し付けたのは、文句を並べているお前たちではないか)

 王が言葉を飲み込んでいると、新たな急使が駆け込んできた。

「申し上げます。帝国は、自国民救出のため明朝より軍を動かします。王国は、インスぺリアルと共に謀反者のアウル辺境伯を成敗するための先駆けをされよとのこと」

「何だと!」
「そのような重要事を我らに諮ることなく、一方的に命令されるとは」
「くっ……これでは、わが国は帝国の属国ではないか」
「なんたること!」
「帝国の狙いは、やはりこれか」

 気高いインスぺリアルが、帝国の脅しに屈するとは思えない。おそらくはハウスホールドと同盟を結び、帝国に反旗を翻すだろう。
亜人たちの領域と呼ばれる大陸南部はひとつに纏まとまって、帝国の侵攻に対抗するに違いない。

「皆の者、よく聞け!」

 いつ果てるとも分からない重臣たちの愚かな議論を遮るように、グレンゴイン王国国王、リチャード=ヘネシーは声を上げた。

「我らはなんとか中立を保つ。今、戦をするようは力など我が国には残っておらん。帝国兵は通すが、大陸を二分するこたびの戦乱、我々は中立を貫くものとする」

「そ、そんなことが許されましょうや」
「帝国を本気で怒らせることになるやも知れません」
「いや、それでうまくいくのなら」
「しかし、大丈夫だろうか」
「かといって王のご意志を無下にするのも……」

 他人の批判をしたり足を引っ張ることには積極的だが、自らが重責を負うのを嫌う王国の貴族たち。その体質は重臣とて同じ。この期におよんでも、相変わらずおろおろするばかりである。

「……仕方あるまい」ため息交じりにそんなひとり言を漏らした王は、声を張って高らかに宣言した。

「余自ら帝国に赴こう。王が人質となるなら、帝国もそれ以上の無理は言うまい」

「王よ!」
「なりませぬ!」
「何も、そこまでせずとも」

 王の突然の宣言に、王国宮廷は、蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

「婚姻政策だけで大陸を安定させることなどはかなき夢であったわ。余の不在の間、王の代理を公爵に命ずる。皆の者、これよりグレン=ヘネシーを国王として仕えるがよい」

「はは~っ!」

 こうして、後に王国史に名君として歴史に名を残すことになるリチャード王は、その生涯を帝国領にて過ごすことになったのである。

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