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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります
第3話 山エルフの女王
「ようこそハヤト殿。立派になられましたな!」
城館に着くなり、女王キール=インスぺリアル自ら俺たちを出迎えてくれた。
最小限の衣装に思わず赤面して目を逸らせる俺の前で、褐色のわがままボディが揺れている。
下手に動くと中身がこぼれてしまいそうなのだが、大丈夫なのだろうか。
「お兄様っ!」
「痛っ!」
これがインスぺリアル王家の正装なのだから仕方がないと思うのだが……。
なのにどうして俺がつねられているのだろうか。
「当たり前じゃないっすか、男のチラ見は女のガン見っす」
「いや、俺は何も見てないぞ!」
したり顔のモルトにイラっとして思わず嘘の言い訳をしてしまった。
しかし、こいつはほんと一言多い。
おかげでセリスは虫をみるような目でこっち見ているじゃないか。
「ハヤト殿は心強い護衛もお連れのようじゃ。セリス殿も久しぶりじゃの」
「ご無沙汰しております。キール様」
「うむ。息災で何よりじゃ」
キールは立礼をとるセリスに鷹揚に微笑むと、待ちきれないように俺の腕をとった。
あ、あの柔らかいものがあたるのですが……。
「ささ、こちらへ来てくれい。しかし……それにしても、ハヤト殿はしばらく見ぬ間に随分と逞しくなられたの」
「五年ぶりです。それにしてもキール様のお美しさはあの頃のままですね」
「ハヤト殿、いつの間にそんな女たらしになられたのじゃ。本気にしてもいいかの♡」
「こほん!」
(ぞくり)
咳払いと同時にセリスから鋭い殺気が飛んできたので、俺は慌てて肘をひっこめた。
最近、セリスが妙に怖く感じるときがあるのだが、気のせいだろうか。
「さあさあ、自分の家だと思って存分にくつろいでくれい。ちょうど宴の準備ができたところじゃ」
◇◇◇
「ハヤト殿、杯が空いておるぞ」
「いや、これ以上飲めませんよ」
「そう、遠慮なさるな。わらわとハヤト殿の仲じゃろうが。セリス殿に負けておるぞ。まだまだ夜は長いのじゃ」
歓迎のしるしとしてテーブルの上には所狭しとインスぺリアルの郷土料理が並べられている。それらのほとんどは、かつて祖父がこの地に伝えたものらしい。
気付けばかれこれ三時間以上、キールにすすめられるまま飲み続けている。
モルトはとっくに酔いつぶれて寝室に運ばれているし、俺も酒は強い方だとは思うがそろそろ限界が来そうだ。
変わらぬピッチで飲み続けているセリスとキールの方が異常だと思うのだが。
「それにしても、ハヤト殿はトーゴ家を継がれたばかりじゃというのに、辺境伯とは大した出世だの」
「いや、そんなことはありませんよ」
「謙遜せずともよい。これでもわらわは若い頃、王国に留学したこともあるのじゃぞ。辺境伯への昇爵など、余程の功績でもなければ、認められぬことくらい知っておる。そういえばあの頃は、殿方たちに囲まれて夢のような毎日じゃったのう~♪」
どうやらキールは、本心から俺が出世したと思っているらしい。まあ、そこはおいおい説明していけばいいか。
「それはともかく、ハヤト殿も今をときめく辺境伯。王国でも五指に入る大貴族じゃ。王都でもさぞやご活躍のことじゃろう」
「い、いやそれが……」
「ところで相談なのじゃが……どこぞに、いい殿方はおられんかの。実は陛下に先立たれて、ずいぶん経つのじゃ」
キールはそう言うと、寂しそうにうつむいた。長いまつげが濡れている。
陛下は随分前に亡くなられていたのか。知らなかった。こんな大変なことを今まで知らず、何だか悪いことをしたような気分である。
「それはお労≪いたわ≫しいことでした。何も知らず申し訳ありません。ところで、陛下はいつお亡くなりになられたのですか」
「それが、五日程前に……。国葬を終えてからもう三日。わらわは寂しゅうてならん」
「どこがずいぶんですか! ついこの間のことでしょう!!」
「い、いやそれがの……」
入り婿だった陛下は、涙を流して手を握るキールに「自分の死後は新しい人を見つけて一刻も早く幸せになって欲しい」と告げて息をひきとったという。
「じゃから、わらわが婚活に励むのは、陛下のご意志であり、決してやましい気持ちなどこれっぽっちもない。ところがじゃ!」
キールはそう言うとエールを一気に飲み干した。どうやら、気に入らないことでもあったようだ。
「わらわが陛下のご遺言に従おうとしておるにもかかわらず、殿方は女に対して年齢ばかり気にしよる。若い女ばかりちやほやされおって! これではわらわのようなお姉さんは不利になるばかりではないか。世の殿ごは、もっと女を平等に評価するべきじゃ! ハヤト殿もそうは思わぬかの!」
“ダン!”
キールはそうまくしたてると、一気飲みしたエールのジョッキをテーブルに叩きつけた。
おっしゃっることはもっともなのだが、キールが言うと何故か説得力がないように聞こえるのは、気のせいだろうか。
「だいたい、領内に殿方がおらぬのがいけないのじゃ!」
ただでさえ極端に女性の割合が多いエルフ族。
その中でもインスぺリアル領のエルフは特に偏りが顕著らしい。昨日も近隣の独身貴族の令息令嬢を招いて盛大なパーティーを開いてみたものの、キールは見事に売れ残ったそうだ。
「それは、たまたまキール様に釣り合う男性がいなかっただけのこと。キール様の魅力とは関係ないことだと思いますが……」
「うむ。やはりそうかの! わらわもそんな気がしておったわ! 一夜の相手ならともかく、伴侶とするには少々頼りないと思っていたのじゃ。ところで、わらわは逞しい年上が好みじゃったが、最近は年下も捨てがたく思っておる。まあ王都なぞは殿方だらけじゃから、すぐにでも見つかるじゃろうが、しいて言えば……」
「実はキール様、今回の辺境伯就任には事情があるのです」
「ふむ?」
「………………という訳で、自分はこうして辺境伯として赴任したのです」
俺はアウル辺境伯就任についての実情をキールに説明することにしたのだが。
ん? あれ?
“ガタガタガタ……”
テーブルが細かく揺れているかと思うと、グラスが倒れてテーブルクロスが濡れた。
「そ、そんな仕打ちを……許せぬ!」
歯噛みしながら、体を震わせて怒るキール。
ここまで怒らなくてもいいと思うのだが。
「大丈夫ですって。俺は恨みになんか思っていませんよ」
「しかし、許せぬ」
「いいんですよ。俺は宰相をはじめ王都の貴族社会そのものが嫌いでしたから、辺境に行けてせいせいしているくらいなんですから」
そう言う俺をキールはじっと見据えると静かに口を開いた。
「ハヤト殿はアウル領が今、どんな風になっておるのかご存じかの」
「えっ?」
怪訝な顔で、顔を見合わせる俺とセリス。
「実はの。アウル領は消滅しておるぞ」
城館に着くなり、女王キール=インスぺリアル自ら俺たちを出迎えてくれた。
最小限の衣装に思わず赤面して目を逸らせる俺の前で、褐色のわがままボディが揺れている。
下手に動くと中身がこぼれてしまいそうなのだが、大丈夫なのだろうか。
「お兄様っ!」
「痛っ!」
これがインスぺリアル王家の正装なのだから仕方がないと思うのだが……。
なのにどうして俺がつねられているのだろうか。
「当たり前じゃないっすか、男のチラ見は女のガン見っす」
「いや、俺は何も見てないぞ!」
したり顔のモルトにイラっとして思わず嘘の言い訳をしてしまった。
しかし、こいつはほんと一言多い。
おかげでセリスは虫をみるような目でこっち見ているじゃないか。
「ハヤト殿は心強い護衛もお連れのようじゃ。セリス殿も久しぶりじゃの」
「ご無沙汰しております。キール様」
「うむ。息災で何よりじゃ」
キールは立礼をとるセリスに鷹揚に微笑むと、待ちきれないように俺の腕をとった。
あ、あの柔らかいものがあたるのですが……。
「ささ、こちらへ来てくれい。しかし……それにしても、ハヤト殿はしばらく見ぬ間に随分と逞しくなられたの」
「五年ぶりです。それにしてもキール様のお美しさはあの頃のままですね」
「ハヤト殿、いつの間にそんな女たらしになられたのじゃ。本気にしてもいいかの♡」
「こほん!」
(ぞくり)
咳払いと同時にセリスから鋭い殺気が飛んできたので、俺は慌てて肘をひっこめた。
最近、セリスが妙に怖く感じるときがあるのだが、気のせいだろうか。
「さあさあ、自分の家だと思って存分にくつろいでくれい。ちょうど宴の準備ができたところじゃ」
◇◇◇
「ハヤト殿、杯が空いておるぞ」
「いや、これ以上飲めませんよ」
「そう、遠慮なさるな。わらわとハヤト殿の仲じゃろうが。セリス殿に負けておるぞ。まだまだ夜は長いのじゃ」
歓迎のしるしとしてテーブルの上には所狭しとインスぺリアルの郷土料理が並べられている。それらのほとんどは、かつて祖父がこの地に伝えたものらしい。
気付けばかれこれ三時間以上、キールにすすめられるまま飲み続けている。
モルトはとっくに酔いつぶれて寝室に運ばれているし、俺も酒は強い方だとは思うがそろそろ限界が来そうだ。
変わらぬピッチで飲み続けているセリスとキールの方が異常だと思うのだが。
「それにしても、ハヤト殿はトーゴ家を継がれたばかりじゃというのに、辺境伯とは大した出世だの」
「いや、そんなことはありませんよ」
「謙遜せずともよい。これでもわらわは若い頃、王国に留学したこともあるのじゃぞ。辺境伯への昇爵など、余程の功績でもなければ、認められぬことくらい知っておる。そういえばあの頃は、殿方たちに囲まれて夢のような毎日じゃったのう~♪」
どうやらキールは、本心から俺が出世したと思っているらしい。まあ、そこはおいおい説明していけばいいか。
「それはともかく、ハヤト殿も今をときめく辺境伯。王国でも五指に入る大貴族じゃ。王都でもさぞやご活躍のことじゃろう」
「い、いやそれが……」
「ところで相談なのじゃが……どこぞに、いい殿方はおられんかの。実は陛下に先立たれて、ずいぶん経つのじゃ」
キールはそう言うと、寂しそうにうつむいた。長いまつげが濡れている。
陛下は随分前に亡くなられていたのか。知らなかった。こんな大変なことを今まで知らず、何だか悪いことをしたような気分である。
「それはお労≪いたわ≫しいことでした。何も知らず申し訳ありません。ところで、陛下はいつお亡くなりになられたのですか」
「それが、五日程前に……。国葬を終えてからもう三日。わらわは寂しゅうてならん」
「どこがずいぶんですか! ついこの間のことでしょう!!」
「い、いやそれがの……」
入り婿だった陛下は、涙を流して手を握るキールに「自分の死後は新しい人を見つけて一刻も早く幸せになって欲しい」と告げて息をひきとったという。
「じゃから、わらわが婚活に励むのは、陛下のご意志であり、決してやましい気持ちなどこれっぽっちもない。ところがじゃ!」
キールはそう言うとエールを一気に飲み干した。どうやら、気に入らないことでもあったようだ。
「わらわが陛下のご遺言に従おうとしておるにもかかわらず、殿方は女に対して年齢ばかり気にしよる。若い女ばかりちやほやされおって! これではわらわのようなお姉さんは不利になるばかりではないか。世の殿ごは、もっと女を平等に評価するべきじゃ! ハヤト殿もそうは思わぬかの!」
“ダン!”
キールはそうまくしたてると、一気飲みしたエールのジョッキをテーブルに叩きつけた。
おっしゃっることはもっともなのだが、キールが言うと何故か説得力がないように聞こえるのは、気のせいだろうか。
「だいたい、領内に殿方がおらぬのがいけないのじゃ!」
ただでさえ極端に女性の割合が多いエルフ族。
その中でもインスぺリアル領のエルフは特に偏りが顕著らしい。昨日も近隣の独身貴族の令息令嬢を招いて盛大なパーティーを開いてみたものの、キールは見事に売れ残ったそうだ。
「それは、たまたまキール様に釣り合う男性がいなかっただけのこと。キール様の魅力とは関係ないことだと思いますが……」
「うむ。やはりそうかの! わらわもそんな気がしておったわ! 一夜の相手ならともかく、伴侶とするには少々頼りないと思っていたのじゃ。ところで、わらわは逞しい年上が好みじゃったが、最近は年下も捨てがたく思っておる。まあ王都なぞは殿方だらけじゃから、すぐにでも見つかるじゃろうが、しいて言えば……」
「実はキール様、今回の辺境伯就任には事情があるのです」
「ふむ?」
「………………という訳で、自分はこうして辺境伯として赴任したのです」
俺はアウル辺境伯就任についての実情をキールに説明することにしたのだが。
ん? あれ?
“ガタガタガタ……”
テーブルが細かく揺れているかと思うと、グラスが倒れてテーブルクロスが濡れた。
「そ、そんな仕打ちを……許せぬ!」
歯噛みしながら、体を震わせて怒るキール。
ここまで怒らなくてもいいと思うのだが。
「大丈夫ですって。俺は恨みになんか思っていませんよ」
「しかし、許せぬ」
「いいんですよ。俺は宰相をはじめ王都の貴族社会そのものが嫌いでしたから、辺境に行けてせいせいしているくらいなんですから」
そう言う俺をキールはじっと見据えると静かに口を開いた。
「ハヤト殿はアウル領が今、どんな風になっておるのかご存じかの」
「えっ?」
怪訝な顔で、顔を見合わせる俺とセリス。
「実はの。アウル領は消滅しておるぞ」
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