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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります
第26話 剣聖動く
(さすがは王国きっての剣士と云われる辺境伯様。正直言って手ごわいや)
パンデレッタの目の前には、バンダナを外し両目を半眼にしてゆったりと木刀を構えるハヤトの姿。
剣を上段にし、ゆったりと構えているが、ハヤトが中々打ち込めない中、パンデレッタも内面焦っていた。
元々の目標は最低準決勝進出。それが決勝まですすめたのだから、パンデレッタとしては納得なのだが、これまでの試合の内容が良くない。
不戦勝だったり相手がケガを押して試合に臨んでいたりして、満足に戦ってはいないのだ。しかも決勝では、目隠しをした相手にあと半歩踏み込めずにいる。
もしこのまま負けるとしても、せめて全力の相手と互角に戦わなければ、目指す騎士団幹部への登用は叶わないかもしれない。
それにしても、ハヤトがこの大会中、ときおり試合中に目を閉じて剣を振う姿にはびっくりした。よくもまああれで戦えるものだ。
パンデレッタは、辺境伯様の思考を読みながら挑発を試みているのだが、辺境伯様の心は乱れていない。
最初は正直、バンダナで自ら目をふさいでくれて嬉しく思っていたのだ。視覚を閉じた相手になら、聴覚でかき乱せば勝機はあるかも知れない。しかし勝機が見いだせないどころか、自分はじりじりと押されている。
ハヤトの思考は無に近い。自分の一撃をふるう事だけを考えている。邪念と言えば、どうやら自分との試合より、優勝後に控える特別試合のことに意識が流れていることくらいか。
挑発を繰り返してバンダナを取らせることに成功したものの、この後どうするか、途方に暮れているのだ。
(まずい。益々隙が無い……そりゃそうか)
ようやく、万全の相手とまみえることで、負けても言い訳はできるようにはなったものの、大きなケガを負わされては元も子もない。
いくら木刀とはいえ、準決勝で見たような一撃を喰らえばただでは済まないだろう。他の剣士に比べ、自分は動きやすい軽装で試合に臨んでいるのだから。
(チッ!)
パンデレッタは、ステップを踏みつつ、心の中で小さく舌打ちをした。
かなり危険であるが、相手に攻撃させてからのカウンターに賭けるしかない。
そしてパンデレッタが動きを止めて程なく……。
“……ッツ!”
奥歯を噛みしめたハヤトが、ついに間合いを詰めてきた。
「チェストー!」
ここ一番の“猿叫”がコロシアムに響いた。
ハヤトの一撃がパンデレッタを捉えたと思われたが、木刀は空を切った。
パンデレッタは、人族ではおよそ在り得ないやらわかさで上体を捻ると、そのままハヤトの懐にもぐり込むとダガーを一閃。
“ゴフッ”
鈍い金属音を響かせ、交差する二人の剣士。
ハヤトは自分から距離を詰め、ダガーの鍔を自らの鎧に当てて威力を封じていた。
そして両者は互いに飛び退り、再び間合いを取ったのだが……。
「え……? あ? おい!」
「どうなってんだ!?」
観客がざわつく中、ハヤトは相手と距離を取ったままパンデレッタに深々と一礼し、そのまま会場に背を向けた。
「このまま、引き返さないと失格になりますよ!」
焦った立会人が制止しようとしたのだが、その声に立ち止まったハヤトは、今度は立会人に向かってもう一度礼をし、そのまま踵を返すと一言も発せず引き揚げていった。
「今大会の優勝者は、虎人族パンデレッタ!」
「うおおおぉぉぉ……!」
最初は突然の幕切れに戸惑った観客たちだったが、この日一番のスリリングな攻防に、観客は総立ち。
顔を真っ赤にして頭を掻きつつも、四方に向かって手を振るパンデレッタに歓声が降り注いだのだった。
この試合は、名勝負として大陸南部に長く語り継がれることになったのだった。
◇◇◇
(ほう……)
『剣聖』シークモンドは、リューク王の横で、この戦いの行方見守っていた。もう老境に差しかかる年齢になるのだが、筋肉の張りは若々しい。
(試合ですら稽古のひとつか。何とも末恐ろしい奴よ……)
シークの見るところ、両者の力量は五分と五分。剣士としての技量はハヤトの方が高いが、虎人族の若者は、どうやら相手の動きがわかるようだ。異能ともいえる特殊能力の持ち主に違いない。
そしてハヤトの初太刀を躱かわすことが出来るのは、このような能力を持った者くらいかもしれない。
剣士にはそれぞれ相性がある。トーナメントともなれば、格下相手に負けることも日常茶飯事である。自分の場合、虎人族の剣士になら勝てるだろうが、相手がハヤトなら分が悪い。しかし……。
シークはハヤトの退場を見届けると、試合に向けて準備に取り掛かったのだった。
パンデレッタの目の前には、バンダナを外し両目を半眼にしてゆったりと木刀を構えるハヤトの姿。
剣を上段にし、ゆったりと構えているが、ハヤトが中々打ち込めない中、パンデレッタも内面焦っていた。
元々の目標は最低準決勝進出。それが決勝まですすめたのだから、パンデレッタとしては納得なのだが、これまでの試合の内容が良くない。
不戦勝だったり相手がケガを押して試合に臨んでいたりして、満足に戦ってはいないのだ。しかも決勝では、目隠しをした相手にあと半歩踏み込めずにいる。
もしこのまま負けるとしても、せめて全力の相手と互角に戦わなければ、目指す騎士団幹部への登用は叶わないかもしれない。
それにしても、ハヤトがこの大会中、ときおり試合中に目を閉じて剣を振う姿にはびっくりした。よくもまああれで戦えるものだ。
パンデレッタは、辺境伯様の思考を読みながら挑発を試みているのだが、辺境伯様の心は乱れていない。
最初は正直、バンダナで自ら目をふさいでくれて嬉しく思っていたのだ。視覚を閉じた相手になら、聴覚でかき乱せば勝機はあるかも知れない。しかし勝機が見いだせないどころか、自分はじりじりと押されている。
ハヤトの思考は無に近い。自分の一撃をふるう事だけを考えている。邪念と言えば、どうやら自分との試合より、優勝後に控える特別試合のことに意識が流れていることくらいか。
挑発を繰り返してバンダナを取らせることに成功したものの、この後どうするか、途方に暮れているのだ。
(まずい。益々隙が無い……そりゃそうか)
ようやく、万全の相手とまみえることで、負けても言い訳はできるようにはなったものの、大きなケガを負わされては元も子もない。
いくら木刀とはいえ、準決勝で見たような一撃を喰らえばただでは済まないだろう。他の剣士に比べ、自分は動きやすい軽装で試合に臨んでいるのだから。
(チッ!)
パンデレッタは、ステップを踏みつつ、心の中で小さく舌打ちをした。
かなり危険であるが、相手に攻撃させてからのカウンターに賭けるしかない。
そしてパンデレッタが動きを止めて程なく……。
“……ッツ!”
奥歯を噛みしめたハヤトが、ついに間合いを詰めてきた。
「チェストー!」
ここ一番の“猿叫”がコロシアムに響いた。
ハヤトの一撃がパンデレッタを捉えたと思われたが、木刀は空を切った。
パンデレッタは、人族ではおよそ在り得ないやらわかさで上体を捻ると、そのままハヤトの懐にもぐり込むとダガーを一閃。
“ゴフッ”
鈍い金属音を響かせ、交差する二人の剣士。
ハヤトは自分から距離を詰め、ダガーの鍔を自らの鎧に当てて威力を封じていた。
そして両者は互いに飛び退り、再び間合いを取ったのだが……。
「え……? あ? おい!」
「どうなってんだ!?」
観客がざわつく中、ハヤトは相手と距離を取ったままパンデレッタに深々と一礼し、そのまま会場に背を向けた。
「このまま、引き返さないと失格になりますよ!」
焦った立会人が制止しようとしたのだが、その声に立ち止まったハヤトは、今度は立会人に向かってもう一度礼をし、そのまま踵を返すと一言も発せず引き揚げていった。
「今大会の優勝者は、虎人族パンデレッタ!」
「うおおおぉぉぉ……!」
最初は突然の幕切れに戸惑った観客たちだったが、この日一番のスリリングな攻防に、観客は総立ち。
顔を真っ赤にして頭を掻きつつも、四方に向かって手を振るパンデレッタに歓声が降り注いだのだった。
この試合は、名勝負として大陸南部に長く語り継がれることになったのだった。
◇◇◇
(ほう……)
『剣聖』シークモンドは、リューク王の横で、この戦いの行方見守っていた。もう老境に差しかかる年齢になるのだが、筋肉の張りは若々しい。
(試合ですら稽古のひとつか。何とも末恐ろしい奴よ……)
シークの見るところ、両者の力量は五分と五分。剣士としての技量はハヤトの方が高いが、虎人族の若者は、どうやら相手の動きがわかるようだ。異能ともいえる特殊能力の持ち主に違いない。
そしてハヤトの初太刀を躱かわすことが出来るのは、このような能力を持った者くらいかもしれない。
剣士にはそれぞれ相性がある。トーナメントともなれば、格下相手に負けることも日常茶飯事である。自分の場合、虎人族の剣士になら勝てるだろうが、相手がハヤトなら分が悪い。しかし……。
シークはハヤトの退場を見届けると、試合に向けて準備に取り掛かったのだった。
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