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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第23話 剣聖
「これより準決勝を行います!」

「うおおおおぉぉぉぉ……」

 闘いを告げるアナウンスが告げられるや否や、場内はたちまち熱を帯びる。観客は足を踏み鳴らし、いわゆる「スタンピード」が自然発生していた。
 どうやら二回戦を終えたばかりだというのに、すぐに出番が来そうだ。

「1回戦に続き2回戦も鮮やかなご勝利、おめでとうございます。この大歓声はハヤト様へ向けられたものでしょう」

 カールはそう言って喜んでくれるが、ここで気を緩めるわけにはいかない。

「特別観覧席では、王や側近たちだけでなく、ハウスホールド騎士団の幹部たちが勢ぞろいしているらしいです。もちろんシーク様も」
「そうなのか! できることなら是非戦いたいな」

「ハヤト様、そろそろ出番です」
「よ、よし、行ってくる」

 今にして思えば、このとき俺は、自分が剣聖と相対する姿を思い浮かべながら試合に臨んでいたのだった。


◇◇◇


 試合場に立った俺は、静かに目を閉じた。完全に視界を閉じたのではなく半眼。

 視覚に頼らず肌で相手を捉える。
 この負荷が自分にとっての何よりの実戦練習になっている。


「はじめ!」

 試合が始まると同時に、俺はいつものように距離を詰める。

 相手は「ふふふ……」と不気味な笑みを浮かべつつ、諸刃剣を両手で構えて動かない。
まるで、すでに自分の勝利を確信しているかのようである。

(ん?)

 試合開始と共にこのわずかの間で、俺が一方的に距離を詰めているのだが、相手は剣を最初に構えた状態で少しも動かない。こちらの出方をうかがっているのだろうか。

 準決勝まですすんでいる剣士である以上、俺の動きに対応できていないことはないはず。となると、何か策があるに違いないのだが。

 俺の間合いに近づいてきても、相手は動きを止めたまま微動だにしない。

「チェストー!」

 俺は木刀を上段から思い切り振り下ろしたのだが…………。


 ――――――ん?


 次の瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、相手の持つ諸刃剣。その刃が俺の前髪に少し触れて何本が前髪が散った。

 そして、俺の木刀は相手の剣に触れた瞬間、綺麗に真っ二つに。まるで野菜みたいに切れてしまったのだった。


◇◇◇


「うおおおお……っ」
「キャーッ、ハヤト様~!」

 試合が終わっても、鳴りやまぬ大声援を聞きながら、俺は控室で冷や汗をぬぐっていた。

 この試合。相手が動かないでくれたおかげもあって剣圧をまともに叩きつけることができた。おかげで、何とか相手を吹き飛ばして勝ったものの、紙一重の試合だった。
 どうやら俺は武器を含めた相手の強さを見誤っていたらしい。

「ハヤト様、お見事でした」
「いや、実はな…………」

「そこを踏まえましても、完勝でまちがいないかと」

 確かに剣圧で飛ばされた相手は、フェンスに激突してピクピクしているのだから、はた目には俺の圧勝だと映るのだろう。

 俺は自分の未熟さをかみしめながら、小さく首を振ったのだった。


◇◇◇


 特別観覧席では、リューク王が大会に酔いしれていた。

 もっとも王は、口元を緩くほころばせているだけで、騒いでいるのは王の側近たち。騎士団の幹部は一様に青ざめ微動だにしていない。

「近衛騎士団に内定しているリンダ卿に加え、第一騎士団のレグサス卿まで」
「しかも、レグサス卿は王家に伝わる伝説の宝剣を使われていたらしい」
「木刀、いや木の棒に見えるが……。聞きしに勝る強さだな」
「それに見ろ、この会場の盛り上がりを」
「それもこれもハヤト様のおかげだな」
「しっ……後ろを見てみろよ」
「あわわ……」

 周囲の口さがない会話に、眉間をひくつかせている騎士団の幹部たち。
 そんな雰囲気を制するように、一人の男が王の前にひざまずいた。

 これまで一言も発せず、静かに王を守るように佇んでいた『剣聖』シーク=モンドが静かに口を開いた。

「リューク王様。私のわがままを聞き入れてはもらえませんでしょうか」

「……」

「ありがとうございます」

 思わぬ奏上に側近たちはざわめき、騎士団の面々は顔を紅潮させた。

 そしてリューク王は、顔をほころばせて右手を小さく上げたのだった。
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