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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります
第22話 考えるな、感じろ
試合直前の会場内では、選手が各々体を動かしている。
「お、おい、あれが噂の……」
「本当に木刀……いや棒切れを持っているぞ」
「やはりあれで戦う気なのか」
ざわめく観客席をよそに、俺は木刀を上段に構え、淡々と素振りを繰り返したのだった。
◇◇◇
「出番です。ハヤト様、御準備よろしくお願いします」
一回戦の他の試合はもう終わったようで、微妙な使用感の残る試合場。どうやら俺は最後の組のようだ。
俺としては、戦う相手や順番などどうでもいい。相手より髪の毛一本でも速く打ち下ろす斬撃のみである。
王国ではありえないくらいの盛り上がりをみせる会場内。
今回の大会はハウスホールド国王ご臨席の下での天覧試合でもある。
戦いぶりによっては、ハウスホールドの騎士団へに登用されるという噂もある。
多くの剣士がこの大会に栄達を賭けて臨んでいる。
そんな選手の気合に呼応するかのように、観客一人ひとりの興奮がそれぞれ周囲に伝播しているようだ。
歓声がこだまする中、俺はゆっくりと歩を進めたのだった。
◇◇◇
「これより、一回戦、最後の試合を行います」
「ごおぉぉぉぉ……!」
「きやーっ! ハヤト様~!」
観客席から降り注ぐ大歓声に包まれながら、俺は木刀をゆったりと構えた。
目の前の俺の相手は、ドレスを着れはどこぞの貴族令嬢かと見まごう程の美しい女性だった。おそらくハウスホールドの騎士なのだろう。青の軽甲冑は確か、騎士団の幹部以上の者が身に付けるものだったと思う。
女性としては魅力的だが、剣士として見るにあの細腕では……。いやいや、待てよ。ひょっとしてセリスのようにドワーフの血が入っているかも知れない。もしくは、非力をカバーする程の精緻な剣の使い手か……。
なにやら口をぱくぱくさせながら、両刃の両手剣を構えている。
上気した顔が汗ばんでおり、ハアハアしているのは、すでに息が上がっているのか。それともブラフか。
さて……。
……いかんいかん! 相手を見た目だけで捉えようとしていた。
(考えるな、感じろ)
俺は小さく頭を振った後、呼吸を整え、改めて自分に向き合ったのだった。
◇◇◇
「チェストー!」
俺は女騎士に走りよると、剣を構える相手に木刀を振り下ろした。
「きゃっ!」
女騎士は防御の姿勢を取ったまま、大きく吹き飛ばされそのまま担架で運ばれていった。観客席に突っ込んだせいで、防具や衣服が破れ、息も絶え絶えに見えるが、大したケガはないだろう。手加減する余裕が俺にはあったのだ。
俺は女騎士が運ばれていくのを見届けると、一礼し会場を後にした。
すると、それまで水を打ったように静まり返っていた観客が、ようやく事態がつかめたように一斉に立ち上がった。
「うおおおおお~っ!」
「ドドドドドドドドド……!」
大歓声に包まれた会場内に観客が床を踏み鳴らす振動が重低音で鳴り響く。
試合が最高にヒートしたときにのみ自然発生的に現れるこの現象は「スタンピード」と呼ばれている。これが現れると、その大会は大成功だとされているそうだ。
「お、おい気のせいか?」
「ああ。まさか木刀であそこまでやるとはな」
「いや、それだけじゃねえ。あの辺境伯様は、試合中……いや、まさかな」
「一体どうしたっていうんだ?」
「俺には辺境伯様は、目をつぶって戦っていたように見えたんだが……」
「まさか……」
◇◇◇
「お疲れ様です」
控室にさがると、笑顔のカールが出迎えてくれた。
「流石はハヤト様。彼女は王からの覚えもめでたく次期騎士団長の最有力候補だったのです。そんな強者をこうもやすやすと打ち破られるとは! お見事というほかありません!」
まさか、そこまでの実力者だったとは。確かにそこそこの風格は感じたのだが……。
どおりで、観客が興奮していたはずだ。
そしてカールは声を潜めて耳打ちしてきた。
「それからハヤト様、実はあの噂は、やはり本当のようでした」
「……」
「シーク様はすでに会場に入られておられるとのこと。しかも、試し斬りではなく、この大会の優勝者と立ち会いたいと自ら志願されているそうです」
「お、おい、あれが噂の……」
「本当に木刀……いや棒切れを持っているぞ」
「やはりあれで戦う気なのか」
ざわめく観客席をよそに、俺は木刀を上段に構え、淡々と素振りを繰り返したのだった。
◇◇◇
「出番です。ハヤト様、御準備よろしくお願いします」
一回戦の他の試合はもう終わったようで、微妙な使用感の残る試合場。どうやら俺は最後の組のようだ。
俺としては、戦う相手や順番などどうでもいい。相手より髪の毛一本でも速く打ち下ろす斬撃のみである。
王国ではありえないくらいの盛り上がりをみせる会場内。
今回の大会はハウスホールド国王ご臨席の下での天覧試合でもある。
戦いぶりによっては、ハウスホールドの騎士団へに登用されるという噂もある。
多くの剣士がこの大会に栄達を賭けて臨んでいる。
そんな選手の気合に呼応するかのように、観客一人ひとりの興奮がそれぞれ周囲に伝播しているようだ。
歓声がこだまする中、俺はゆっくりと歩を進めたのだった。
◇◇◇
「これより、一回戦、最後の試合を行います」
「ごおぉぉぉぉ……!」
「きやーっ! ハヤト様~!」
観客席から降り注ぐ大歓声に包まれながら、俺は木刀をゆったりと構えた。
目の前の俺の相手は、ドレスを着れはどこぞの貴族令嬢かと見まごう程の美しい女性だった。おそらくハウスホールドの騎士なのだろう。青の軽甲冑は確か、騎士団の幹部以上の者が身に付けるものだったと思う。
女性としては魅力的だが、剣士として見るにあの細腕では……。いやいや、待てよ。ひょっとしてセリスのようにドワーフの血が入っているかも知れない。もしくは、非力をカバーする程の精緻な剣の使い手か……。
なにやら口をぱくぱくさせながら、両刃の両手剣を構えている。
上気した顔が汗ばんでおり、ハアハアしているのは、すでに息が上がっているのか。それともブラフか。
さて……。
……いかんいかん! 相手を見た目だけで捉えようとしていた。
(考えるな、感じろ)
俺は小さく頭を振った後、呼吸を整え、改めて自分に向き合ったのだった。
◇◇◇
「チェストー!」
俺は女騎士に走りよると、剣を構える相手に木刀を振り下ろした。
「きゃっ!」
女騎士は防御の姿勢を取ったまま、大きく吹き飛ばされそのまま担架で運ばれていった。観客席に突っ込んだせいで、防具や衣服が破れ、息も絶え絶えに見えるが、大したケガはないだろう。手加減する余裕が俺にはあったのだ。
俺は女騎士が運ばれていくのを見届けると、一礼し会場を後にした。
すると、それまで水を打ったように静まり返っていた観客が、ようやく事態がつかめたように一斉に立ち上がった。
「うおおおおお~っ!」
「ドドドドドドドドド……!」
大歓声に包まれた会場内に観客が床を踏み鳴らす振動が重低音で鳴り響く。
試合が最高にヒートしたときにのみ自然発生的に現れるこの現象は「スタンピード」と呼ばれている。これが現れると、その大会は大成功だとされているそうだ。
「お、おい気のせいか?」
「ああ。まさか木刀であそこまでやるとはな」
「いや、それだけじゃねえ。あの辺境伯様は、試合中……いや、まさかな」
「一体どうしたっていうんだ?」
「俺には辺境伯様は、目をつぶって戦っていたように見えたんだが……」
「まさか……」
◇◇◇
「お疲れ様です」
控室にさがると、笑顔のカールが出迎えてくれた。
「流石はハヤト様。彼女は王からの覚えもめでたく次期騎士団長の最有力候補だったのです。そんな強者をこうもやすやすと打ち破られるとは! お見事というほかありません!」
まさか、そこまでの実力者だったとは。確かにそこそこの風格は感じたのだが……。
どおりで、観客が興奮していたはずだ。
そしてカールは声を潜めて耳打ちしてきた。
「それからハヤト様、実はあの噂は、やはり本当のようでした」
「……」
「シーク様はすでに会場に入られておられるとのこと。しかも、試し斬りではなく、この大会の優勝者と立ち会いたいと自ら志願されているそうです」
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