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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第21話 いざ、武道会へ
「あっちの露店からいい匂いがするっす~♪」
「おお、そうだな。折角だから、何か買ってみようか」
「お兄様! ひとりで行かないでください」

 貿易交渉の締結し終えた俺たちは、カールの案内でハウスホールドの市場にやって来た。

 他国の領主一行のお忍びということで、カールは俺たちに護衛を付けてくれたようで、周囲から護衛らしきものの気配がする。

「それにしても、賑やかっすね~♪」
「おそらく、ここは市場として大陸でも一番の規模だと思います」

 市場に入るなり、優しいスパイスの香りが鼻腔をくすぐる。大通りの両脇には露店が立ち並び、笑顔の親子連れが行き交う。噴水広場には舞台がしつらえられており、何やら催しが行われているようだ。

「見に行きたいっす~♪」
「おい、待てモルト!」

 人だかりの奥には、楽器を手に舞う踊り子たち。やけに布面積が小さくてひらひらな民族衣装をまとった獣人の女の子たちが、華麗に舞っている。彼女たちが手のひらで打ち鳴らしているのは、南方より伝わった楽器だそうだ。どれもこれも綺麗な装飾が施されている。
 俺は、思わず可憐な少女たちの動きに目を奪われた。しかしあの踊りは、どちらかというと演武のようだ。

「虎人族ですね。我が国ではあまり見かけない種族です」

「お兄様」
「気付いたか?」
「はい。とくにあの真ん中の女の子は、かなりの手練れだと思います」

「俺も武術大会に出る以上、稽古に集中したいんだが、ブラックベリーも気になるな」

「とにかくハヤト様には、武術大会で頑張ってもらわないと困るっす。アウル領のことなら自分らに任せていただいて大丈夫っすよ」
「私もモルト様に同行し、貿易を始める準備をしたく思います」
「私はお兄様をお守りしたいです」

「大丈夫ですよ、セリス様。ハヤト様の身の安全は私か保証いたします」
「そうだぞ。セリスは俺が帰るまで、アウルを守ってくれないか」
「でも、でも……お兄様のことが心配です」

「お任せください。ハヤト様が心置きなく稽古に打ち込まれることができるよう、全力でお支え致します」
「みんなのことを守れるのはセリスだけなんだから頼んだぞ」
「は、はい……」

 セリスは俺が頭をポンポンされて、ようやく頷いてくれたのだった。


◇◇◇


「お兄様、くれぐれもお気を付けくださいね」
「それからカール。武道会も大切ですが、何よりお兄様に悪い虫が付かないよう、見張っててください」
「お任せを」
「そ、そんなこと大丈夫だから心配するな。セリスこそ皆のことを守ってくれよ」

 翌日、ラックベリーへ帰る三人を見送ると、俺はカールに大会会場を見せてもらった。

 王宮の地下通路を通り、両開きの扉を開くと、板敷の試合会場が現れた。観客席はすり鉢状になっており、かなりの人数を収容できそうだ。 

「しかし凄い大きさだな。王都のコロシアム以上だ」
「武術大会のときなどは、一万人くらい入ります」

 もはや、この大会はハウスホールドにすっかり根付いた興行のようだ。人気の秘訣は基本的にオープン参加であることらしい。希望すれば誰でも参加できるが、実績のない者は予選からの参加だという。
 ちなみに予選は他の会場で行われており、すでに本戦の参加者は出そろっているとのこと。

「俺も本来は予選からなんだろうけどな」
「何をおっしゃいます。ハヤト様の武勇は、国中に鳴り響いております。それから、ハヤト様は特別枠としてリューク王にその場で対戦相手を決めていただくことになりました。今や王宮ではその話で持ちきりです」
「何だって!」

「今回の大会は、国を挙げてのものになります。ハヤト様からすれば、腕が鳴るのでは?」
「うん。とにかく稽古に打ち込みたいな」

「組み手の相手を用意しましょうか。ハウスホールド騎士団の手練れがおりますが」
「ありがとう。でも今回はひとりで稽古を重ねたい。練習場所と木の棒を用意して欲しいのだが」

「あと、会場には『剣聖』として名高い、シーク=モンド様もいらっしゃるとか。まさか出場されることはないでしょうが、大会終了後には試し斬りを披露してくださるかもしれないという噂もあります」
「大陸一の武人の太刀筋か。それは楽しみだ」

 こうして俺は、武道会に向けて、久しぶりに一人で稽古に没頭することができたのだった。
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