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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第18話 エルフの王国
「…2998、2999、3000……」
「お兄様、はい」
「ありがとうセリス」

 俺は甲板で素振りを終えるとセリスから渡された布で汗をぬぐった。

 キラキラした光を反射した湖面には、俺たちの他にも大小さまざまな船がのどかに行き交っている。これらの船の多くはカルア海周辺の街や村から各地を結ぶ航路の定期船だ。

 こんな平和なカルア海も、かつては略奪を目的とした海賊船が暴れまわってたそうだ。
今から十年ほど前にインスぺリアルが本格的に海運業に乗り出してから、治安は格段に良くなったという。
 何しろ、キールたちは海賊船を拿捕しては、捕まえた乗組員の額に“山”の焼き印を刻んで、船べりから湖に放り投げていたらしい。

 俺はまだ小さい頃、キールにガレオン船に乗せてもらったときのことを思い出していた。


◇◇◇


 あの日、初めて船に乗せてもらった俺は、舳先で腕組みをするキールを、目を細めて見上げていた。

 美しい髪を風になびかせ、船べりに立つキール。しばらくして俺の視線に気付いたのか、シミターをすらりと引き抜抜いた。

(かっこいい……)そのときのキールの勇姿は、幼かった俺の瞳に鮮明に焼き付いた。

「なんだか、お姉ちゃんは、海賊みたいだね!」

 ところがキールは、夢中で話しかける俺に、どこかあたふたし出した。

「ち、違うわ! お姉ちゃんたちは物を運ぶ仕事をしているだけじゃ!」
「ええっ……海賊じゃないの?」
「お礼をもらうことはあるが、こちらからは、ねだったりはしないからの」

 そして俺は、スパーンと頭を叩かれた。
 子供だった俺は、海賊のことをかっこいいと思っていたから、褒めているのにどうして怒られるのかわからなかったのである。


◇◇◇


 ブラックベリーを出航してから三日。
 ようやくハウスホールドの城壁が見えてきた。

「それにしてもなんか、でっかい銅像っすね~」
「誰なんだ?」
「ハヤト様、この銅像はエルビン宰相です」
「あ、聞いたことがあります」

 港の入口、モルトが見上げる先には、大きな銅像が建っていた。ハウスホールド建国の忠臣らしい。

「それじゃ自分は、先に行って話をつけてくるっす」
「頼んだぞ」
「任せてくださいっす~」

 港には多くの船が停泊しており、石畳の広い道の両側には倉庫が立ち並んでいる。
 積み荷を運んでいるのは、獣人の労働者が多いが、エルフやドワーフもいる。意外なことに人族も多い。屋台からは香辛料や肉を焼くいい匂いが漂い、活気に満ちている。

「ハヤト様、こっちっす~」

 城門の前で若い男性エルフが出迎えてくれた。

「この度は、我がハウスホールドへようこそお越しくださいました。私はレオン様の案内を仰せつかりましたカール=エルビンと申します。以後お見知りおきを」

 カールはそういって礼儀正しくお辞儀した。
 スマートで落ち着いた物腰にさわやかな笑顔。いかにも育ちが良さそうだ。将来有望な若手官僚といったところだろう。

「エルビンとは、もしや……」
「この街に来られた方からよく言われます。あの銅像は私の先祖でして。不詳の子孫として、お恥ずかしい限りです」

 そう言って謙遜する姿も嫌みがない。おそらく男女を問わず人気者のタイプだろう。口下手ぼっちな俺とは正反対のタイプに見える。

「こちらこそ、丁寧なお出迎えに感謝します」
「何を仰います。アウル辺境伯様といえば、領主というより独立した一国の王に近いお方。副大臣の私など本来親しく口をきくのもはばかられます」

(聞いたかモルトにセリス!) ……い、いや。何でもないです。


「あの、もしや……」

 俺が、のどまで出かかった言葉を飲み込んでいると後ろから声をかけられた。振り返ると王都で総督府に勤めていたエルフの職員たち。三人とも帰省中らしい。

「ハヤト様、王都には戻られるのですか」
「聞いてください。公爵様なんて私たちを家来みたいに扱うんです。もう辞めて、ハヤト様のところで雇ってもらえないかって話していたところなんです」
「私なんて、公爵様から毎日、胸やお尻を触られるんですよ。ハヤト様はいつも見てくださるだけで、触ってはいただけませんでしたが」

「お兄様!」
「いや待て! 要するに公爵様は触ってるが、俺は触ってない……って、そんなことより、ウチで働きたいってありがたいことじゃないか……おい、モルト」

 女の子に取り囲まれた俺に何故か背を向けるモルト。

「そうそう。大森林からの凱旋パレード、かっこよかったです!」
「次の大会、頑張ってください!」
「チケット取るの大変だったんですよ。ほかの子も誘って応援に行きますね」

「え? 次の試合……? だと?」


「お、おいモルト! お前勝手に何してるんだ!」
「だってハヤト様こそ、ブラックベリーの開発資金はどうされるおつもりだったんすか!」
「だから、こうして貿易交渉に来てるんじゃないか。大体、大会の賞金くらいじゃ、何の足しにもならんだろうが!」

「それが、ハヤト様がエントリーされるだけで、ハウスホールド王家から資金援助を受けられる約束なんす!」
「そういう話は、絶対裏があるからな! お前まさか……」

「もう登録は済んだんで、資金援助は受けてるっす。チケットも完売してるそうっすよ」
「お、お前という奴は……」

 どうやら、俺は今度行われる武道会に勝手にエントリーされたようだ。場所はハウスホールド王立コロシアム。しかも、今から二週間後らしい。

「だってハヤト様に言ったって、稽古が忙しいとか言って断られるかもしれないじゃないっすか。素振りと立木打ちをひたすらするのもいいでしょうが、たまには対人戦も必要だと思うんすよね~」
「くっ……」
「それに、これは我が領の財政を救い、エルフ王からの覚えもめでたくなれるチャンスっす」

 俺に内緒で勝手に申し込んだことは許せないが、そう言われると納得してしまいそうになるから不思議だ。

「まあ、今回は自分のおかげっすね~♪」

(ぐぬぬ……)

 得意そうにもふもふ尻尾を揺らすモルトに、俺はまたもや、のどまで出かかった言葉を飲み込んだのだった。
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