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チェストー‼ 追放された貴族剣士は、辺境で最強国家を作ります

第16話 特産品
 俺は、ここのところ稽古の時間を返上して湖畔を一日中歩き回っている。
カルア海の沿岸を歩くのは、砂浜を歩いたり岩肌を登ったりと結構過酷だ。

「お兄様、そろそろ、視察の目的を教えていただいてもいいでしょうか」
「そ……そおっす。ぜい……はぁ。は、ハヤト様は、そ、そんなのだから、いつまでたってもボッチなんすよ~」
「お前たち、文句があるなら、別に付いてこなくてもいいんだぞ」
「ダメです、お兄様! もし、エルフや獣人の女が出たら、どうなさるおつもりなのですか!」
「俺たち以外、誰もいないぞ」
「いいえ、油断はなりません」
「自分はそろそろ限界っす!」
「だめです! しっかりとお兄様にお仕えなさい!」

「ちょっと待て。……よし、ここだ!」

 視察を始めて一か月。俺はようやくお目当ての場所を見つけることが出来た。

 カルア海は、塩分濃度が一定ではない。二つの大河が流れ込む河口から遠ければ遠いほど、塩分濃度が濃くなる。 
 崖の上から湖面を見下ろすと、色鮮やかな魚影に、底には美しいサンゴ礁。それほど深くないとはいえ、砂地の底まで見通せる透明度である。

 俺は、手桶にロープを付け水をすくうと、一口味わってから手桶を黙ってモルトにまわした。

「うっ……。ぺっ、ぺっ! しょっぱいっす~! ひょっとして、レオン様は、新たな特産品を考えておられたんすか」
「お兄様、さすがです!」
「いや~てっきり、ハヤト様の道楽に付き合わされただけかと思ったっす」
「お、お前って奴は……」

 この日、俺たちは、このカルア海で一番塩分濃度が濃く水質も美しいとされる地点を見つけた。この塩湖から塩を作ることが出来れば我が国の特産になるのではないか。そう思って調査を続けてきたのだった。

「ここに、大規模な塩田を造るぞ!」
「お兄様、さすがです!」
「マジっすか~。これ以上こき使われるのは勘弁っす~!」

 将来は、山エルフたちを呼んで、この地を開発してもらうつもりである。ブラックベリーからもほど近いので、開発もスムーズに進むだろう。


◇◇◇


 俺たちが行っている塩づくりは、モルトが王都で見つけてきた資料を参考にしている。
 布でこした塩水を煮詰めた後、もう一度布でこして塩を取り出し、薄く広げて更にもう一日放置すると、余計な水分をとばされて、美味しい塩が出来上がるはずなのだが。

「よ~し、今度こそ、成功したんじゃないかな」
「本当っすか~?」
「とにかく、舐めてみてくれ」
「うへっ! 苦いっす」

「じゃあ、これは?」
「……ぺっぺっ! 砂が入っているっす~!」

 そんなこんなで、あっという間に半月が経過したのだが。

「ハヤト様、これなんかどおっすか?」
「……?」
「どおっすか? かなりいけてるっしょ!」

 モルトの前には、これまでの試作品の塩がずらり。その中でもさっき出来上がったばかりのものを、強く推しているようだ。
嬉しそうにもふもふ尻尾を振りながらすすめてくるので、俺も口にしたのだが、何だかイマイチの様な気がする。

「セリスはどう思う?」
「正直、王国産の岩塩の方がましかと思います」

「ええっ~。マジっすか……。レオン様~。もう諦めましょうよ~」
「お前、ここまできて、それはないだろう」
「街の様子が心配っす!」
「あっちは、ドランブイに任せておけば大丈夫だ」
「そうですよモルト。何しろお兄様は、剣術の稽古を返上してまで塩づくりに取り組まれておられるのですよ!」


◇◇◇


「ふう……ようやくできたんじゃないか?」
「お兄様、綺麗な塩ですね」
「きらきらしてるっす!」

 作業と試食に明け暮れること一か月。試行錯誤を繰り返し、俺たちはようやく納得できるものを作ることが出来た。急いでブラックベリーから駆けつけてくれたドランブイも、白く輝く塩に目を輝かせて喜んでくれた。

「大陸で流通している岩塩より、うま味があります。しかもこの純度。これを大量生産出来れば、我が領の特産品になります!」

 その後、水車で水をくみ上げる大規模な施設を山エルフたちに作ってもらい、カルア海の塩『ドラゴンソルト』の大量生産が始まったのだった。


◇◇◇


 この日、俺は執務室でキールからの報告書を読んでいた。
現在アウル領が輸出しているのは、『ドラゴンミート』と『ドラゴンソルト』の二品目。北はインスぺリアル、南はドランブイの商会を通して独占販売しているのだが、市場に出したばかりの『ドラゴンソルト』の人気が上々らしい。まだ流通量は少ないながらも高い評価を得ているという。
 しかも、この塩は『ドラゴンミート』との相性も抜群にいい。相乗効果で売り上げが急上昇しているという。

「ハヤト様ぁ~! 大変っす! 大変っす~!」

“バァ~ン!”

 廊下から何やらうるさい声が聞こえてきたかと思うやいなや、俺の執務室のドアが擬音付きのような勢いで開けられた。

「ちょっと、ハヤト様! 大変っす!」
「何だモルト! まったく、騒々しい!」

 俺は少しイラつき気味で言葉を投げかけたのだが、モルトは意も介していない様子で、もふもふ尻尾をゆったりと揺らしている。

「ドランブイが至急、話したいことがあるとかで、大慌てでこちらに向かっているそうっす!」

「……で? お前がそこまで慌てるような理由でもあるのか?」
「それが、何でも塩のことらしいっすよ!」
「塩?」
「ドランブイは、塩の出荷を中止したいそうっす!」
「な、何だってー!」
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