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裏庭が裏ダンジョンでした

一番てっぺんに! 5
 その質問をするとサズァンはふっと軽く笑ってムツヤから目を逸らして言った。

「むかーし、ちょっとねー。それよりどうするの? 私を倒して最上階まで行くの?」

 ムツヤは腕を組んで考える、外の世界のモンスターは案外大したこと無いんじゃないか。

 しかし、強さの証明の為には最上階へ行かなくてはならず、行くためにはサズァンを倒さなくちゃいけないけど、倒したくない。

 でも、外の世界には行ってみたい。

 ぐるぐると思考を巡らせた結果ムツヤが生み出した結論はこうだ。

「嘘ついちゃうか、じいちゃんに」

 ムツヤはぼそっとそう言った。

 右の人差し指を頬に添え「あら、それで良いの?」とサズァンは聞き返す。

「一番上まで行っだっでじいちゃんに嘘付いて外の世界に行きます。俺はサズァン様と戦いたくないですし」

「ふふっ、そう」 

 笑顔を作った後にサズァンはムツヤの元へ近付いてくる。

 ふわっと香る今まで嗅いだことの無い良い香り。綺麗な花を目の前に散りばめられたような甘い香りだ。

「私はこの塔から外に出ることは出来ないけど、あなたにコレをあげるわ、私も退屈だから外の世界を見てみたいし」

 サズァンはムツヤの手を両手で握り占めるようにして紫色のガラス玉付いたペンダントを渡した。

 邪神とはいえ初めて異性に触れたことで胸の高鳴りが一周して気絶しそうになる。

 頭に残った印象は温かくて柔らかかったという事だけだ。

「コレを付けていれば、困った時に助けてあげられると思うわ。と言っても直接手出しはあまり出来ないからアドバイスしてあげるだけだけど」

 フフッと笑ってサズァンは続ける。

「後はどうしても寂しくなったらこの塔に戻ってくるのよ? いつでも私がたっぷり慰めてあげる」

 恐ろしい邪神様なのだろうが、案外いい人、いや、いい神なのかもしれないとムツヤは思い、決心して言うことにした。

「サズァン様、俺のハーレムに入って貰えませんか?」

 5秒間ぐらい静寂が流れる。

 最初はポカンとした表情をしていたサズァンは次第に笑いを我慢するような表情になり、また両手で顔を隠して後ろを振り返った。

「待って待って待って、本当この子可愛すぎ、どーしよ、年の差なんてまぁうーんいやでもーうー…… やっぱり小さい頃から見てたから情が移っちゃったのかしらね」

 さっきまでの気品と神々しさはどこへ言ったのか、サズァンは小声を言いながらくねくねと悶ている。

 ふと、独り言をピタリとやめて振り返った。

 そのサズァンには気品と妖艶さが戻っている。

 そして、聞き分けのない小さい子供を諭すように言う。

「いいムツヤ? 私は神で、あなたは人間、しかも私にとってあなたは弟とかそんな感じなの」

 そう言われたムツヤはこの世の終わりが来てしまったとそんな顔をしていた。

 その後はもう、わかりやすいぐらいに落ち込んだ。

 おそらく人生初の恋はすぐに幕を閉じたのであった。

「あーそのえーっと、あなたが嫌いってわけじゃ無いわよ? むしろ好きだし、でも私は邪神だしね、それにアナタには外の世界を見て来て欲しいの」

 ムツヤは聞いているのか聞いていないのか、口を開けたままアホっ面をしてピクリとも動かない。

「わかった、もうわかったから! 外の世界を見て成長なさい。それでハーレムでも作って、色んな女の子を知るの、それでも好きな人間の子が出来なかったらその時はまた戻ってらっしゃい。そうしたらまたもう一回考えてあげる」

 ムツヤはその言葉を聞くとコレまたわかりやすくパァッと笑顔を取り戻した。

 この時サズァンはムツヤが尻尾を振る可愛い子犬の様に見え、抱きしめて頭を撫で回したい衝動に駆られたがぐっと堪える。

「わかりました、サズァン様。俺は外の世界を見て、外の世界で成長すてハーレムを作ります!」

「はいはい、わかったわかった。そのペンダントを付けてればたまーにお話もできるから困ったら頼って頂戴ね」

 ムツヤはハッと思い出して頭を下げる。これは感謝の気持ちを表す行為らしい。

 来た道を戻る途中、一度だけサズァンを振り返ると笑顔でひらひらと手を振り返してくれた。





 急いで階段を駆け下りた。

 途中またモンスターと出くわしたが剣を取り出すのも面倒だったので全てぶん殴って片付ける。

「じいちゃん、てっぺんまで登ってぎだからあの結界って奴を壊しでぐれ!」

 ムツヤは家に帰るなり祖父のタカクへと言った。

 タカクはお茶を飲みながら目線だけをムツヤに移して、とうとうこの時が来てしまったかと湯呑を置く。

「そうか、それならば仕方がねー、明日の朝に結界を解いでやっがら」

「いんやダメだじいちゃん、俺は外の世界で成長しでハーレム作んだ! もう今すぐに行く!! 今すぐじゃなぎゃダメだ!」

 ムツヤは鼻息を荒げてそう言うと、やれやれとタカクは重い腰を上げた。

 家から結界の間際まで歩く二人の間に言葉は無い。

 途中また巨大なコウモリが何度も襲撃してきたが、ムツヤが飛び上がって平手打ちで全て叩き落とした。

「ムツヤ、いづがはこの日が来るど俺も思ちょった」

 タカクは家から出て初めて話し出した。その表情は当然だがどこか寂しげだ。

「外の世界を見てこ、ムツヤ」

「じいちゃん……」

 タカクがそう言って結界に手を伸ばすと青白い光に切れ目が現れ、左右に開いた。

 あれほど行きたかった外の世界なのにムツヤは少し足取り重くその裂け目へと歩く。

「じいちゃん、カバンの予備に薬死ぬほど入れでおいだがら死にそんなっだら飲めよ! あどー広げたら竜巻が起こる巻物も入れとったから魔法使うのしんどい時は使えよ、それから」

「俺の心配はすんでねーよ、ムツヤ」

 シワだらけの顔を更にクシャクシャにし、ニッと歯を見せてタカクは笑った。

 ムツヤは黙って頷いて一気に結界の裂け目に走り出す。

 中は一面が真っ白で、急に高い所から落ちたような浮遊感がし、たまらず叫び声を上げる。そのまま気を失い、気付いたら。

「おい人間、こんな時間に何故ここにいる」

 ムツヤは夜の闇に包まれて月明かりに照らされていた。

 気を失っていたはずだがその足はしっかりと大地を踏みしめて立っている。

 そんなムツヤの周りを緑色の肌をした人が囲んでいた。相手は今にも斬り殺さんばかりの殺気を帯びていた。

「あ、え、あーっと、は、はじめましで私はムツヤと言います」

「貴様ふざけているのか」

 あれとムツヤは思う。

 言い方がおかしかったのか、原因は分からないがどうやら相手を怒らせてしまったらしい。

「いいか、質問をしている、何故ここに居る」

 目の前の緑色の人間がそう言った。緑色…… ムツヤは目の前の人間をじっと見る。

 変な形の耳と少し低めの鼻と、下顎から覗く牙。もしかして

「わかった、オーグだろ、オーグ!」
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