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いつかエモい小説が書きたい

本文1000文字
 俺はこういってはなんだが小説家だ。
 そうはいっても小説で食べているわけではない。
 ただちょっと書籍化しちゃったりなんかして、小説家の末席にちょこんと座っている。
 そんな俺にも夢はいくつかある。
 一つ目は俗物的だけど、アニメ化して億万長者になりたい。
 家を建て替えて、賞とかフリーソフトウェア支援とかしたい。
 そして、もっとスピリチュアルな領域として「エモい小説を書きたい」。

 エモいとはなんだろうか。
 感動的だろうか。青い空、青い海。白い雲。SUMMER。
 そういうのだろうか。
 なんていうか感動的なら自分なら「感動的」って書くと思う。
 それと厳密にはエモいは違う気がする。
 そう、もっと直感的に心で感じちゃうようなやつ。

 男女の恋愛でもいい。
 女の子同士の百合でもいい。
 とにかく、エモい小説とは何か、本当に暇なときにちょっとだけ考える。
 でも考えるだけ。
 筆をとるにはまだ早い気がする。
 経験値が足りない。
 俺に書けるだろうか、エモい小説。
 倒置法まで使ってしまった。

 エモいのか分からないけれど、それは一つの青春の味で、黒歴史であり、甘酸っぱくて、とってもいい匂いがして。
 水出しのアイスコーヒーを飲んじゃったりして。
 空はサンサンと輝き、向日葵が咲いちゃったりして。
 なんだかセカイが自分たちを中心に回っているみたいな気分で。
 そういう、よくわからない緊張感と責任感があって、それでも主人公たちがバカ話をしながら、わちゃわちゃしているうちに、問題が発生して一生懸命頑張って、問題が解決して。
 最後、主人公と女の子が二人で、「ふふふ、大変だったね」て懐かしむように笑ったり。
 なんかそういう、どこにでもある幸せだけど、どこにもそんなものはない。
 儚い幻想世界の自分たちだけの本当の思い出。
 そんな感じだろうか。

 もう分からない妄想までしてしまったが、内容は全く考えていない。
 ちょっと二万文字くらい書ければ、賞に出せるが難しい。
 いつか……いつかきっと。
 その時が来たら「エモい小説」書いて御覧に入れたい。

 今日も冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出して、ぐびぐび飲む。
 夏はまだ先、今は五月。
 暑い日差しは早くも今年も暑くなるぞ、と力いっぱい太陽の仕事をしている。
 俺たちはそれに負けずにクーラーで涼しむ。

 でも、向日葵の横で、太陽の光を浴びた麦わら帽子の少女がふふって笑うところも見たいのだ。
(了)

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