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ファンタジー冒険部

6.宿屋
 あっさりした城門審査を通過して、ヘルシスタン町に再び入る。
 夕日になりかけの日差しに照らされた白とオレンジの町は、かなり綺麗だ。

 ついでに言えば、美少女三人組も美しい。

 メイン通りを通過して、冒険者ギルドへ到着した。

「あちゃあ、夕方だから混んでるね」

 部長のクレハが自分のおでこをパチンとやる。

 中に入り、受付のお姉さんに番号札をもらい酒場のほうの椅子に座る。
 今の時間は列に意味がなく、番号札順になっているようだった。
 途中でトイレとかに行ってももちろん大丈夫。

 受付は獣人ちゃんが二人増えて六個に増加されているけど、対応はぎりぎりのようだった。

 しばらく待たされる。
 噴水と同じ原理の出っ放し飲み放題のお水を失敬して、一息入れる。

「はぁ水うめえ」

「ぷはぁ」
「ぷはあです」
「ん」

 部長は俺みたいにおじさんっぽく。
 タニアはちょっと恥ずかしそうに「です」をつける。
 リエは通常運転。

 新鮮なお水は美味しい。
 もちろん、冒険中は竹筒のような水筒を持参している。

 他の冒険者みたいに料理を食べたいところだけど、受付があるので今は我慢だ。

 そうこうしているうちに、順番が回ってきた。
 さっきの猫耳獣人の美少女だった。

「買い取りお願いします。はい」
「分かりました。お荷物拝見します」

 買取品を出す。
 スライムの核、フェルクラ草、ベネベネ草。
 それほど多くはない。二十個ずつくらいだろうか。

 奥に引き取られていく。
 このままパクられたら終わりだけど、ギルドは信頼で成り立っているので、そういう心配はないのだろう。
 気にするのは天邪鬼の俺くらいかも。

 MMOPPGとかだと先渡しはタブー視されている。
 だいたいそういう時は詐欺だ。
 しかも多くの運営ではユーザー同士のトラブルは民事不介入の警察のごとしなのだった。
 南無三。

「お待たせしました。全部で5,000トリングの評価額です。よろしいですか?」
「あっと、いいよ」
「では銀貨5枚です」
「ありがとうございました」
「ご利用ありがとうございました」

 マニュアル通りだろうけど、印象はいい。
 なかなか笑顔がチャーミングな猫耳美少女さんだった。

「さて、面倒だしここで食べてく? それとも宿で食べる?」

「どちらでもかまいませんよ」
「ん」

 んっていうのはどっちなんですかね。

「うーん」

 俺も悩むな。

「んじゃあ宿で」

 俺が提案する。

「それならそうしましょ」

 あっさり決まった。
 というか宿? お泊りなんですかってお泊りだよね。
 金土日の二泊三日、異世界冒険ツアーだもん。

■◆■◆■◆■

 とぼとぼと歩いて、宿屋に向かう。
 表通りから一本だけ道に入る。
 「HOTEL」と英語で宿屋の看板が出ていた。
 そうだよな、外国人向けの商売なら、英語とか日本語があってもおかしくはない。
 こちら側にも地球の影響がいろいろあるのだ。
 四階建てでこの辺ではかなりの立派だ。
 外装はシンプルだけど、ちょっとだけ年季の入った色をしていた。

「いらっしゃいませ」
「おばちゃん、部屋ツイン、二つね」
「あいよ。今日は男連れじゃないかい」
「まあね、でもどうせヘタレだから大丈夫よ」
「いひひ」

 どうせ俺はヘタレですよ。

「あの部長、俺、一緒の部屋なんですか?」
「そうよ。部費も無限じゃないから、節約しないと」
「そうですけど」
「なに、私と同じ部屋じゃ不満?」
「いや、部長が俺と同室なんだなって」
「取って食ったりしないわよ」
「あはは、俺が食われる側なんですね」
「そんな目で見ても、シングルにはしてあげないわよ」
「あ、はい」

 まあ俺が襲う側じゃないだけましか。
 四階へと上がっていく。
 四階が一番安い部屋だ。エレベーターがないので。

「おおぉ、いい景色」
「まあね」

 窓からは町の中の屋根と家々が見える。
 夕日に照らされていて、かなり綺麗だった。

「んじゃ、ご飯食べましょ」
「はい」

 さっき横目でスルーした一階の飲食スペースへと戻ってくる。
 座るなり、すぐに水と豚肉と野菜の炒め物、スープ、パンのセットが運ばれてきた。

「ここ、食事は一種類だから。そのかわり激安なのよ」
「なるほど」

「「「いただきます」」」

 豚肉のソース炒めをパクリと食べる。

 うまいっ。

 もう一口。甘辛いタレに旨味のある肉でとても美味しい。
 それからスープをスプーンで掬って飲むと口の中がリセットされる。

 あっという間に食べてしまった。
 異世界だから、食事が遅れているとかいうこともないようだ。
 黒い硬パンに、まずい塩だけスープとか想像していた。

「食事はここ十年ですいぶん、グルメになったらしいわよ」
「そりゃ助かります」
「結構おいしいでしょ」
「はい」

 再び階段を上って四階へ。

 バタン。

 扉を閉めると、クレハ部長と二人っきりになった。
 改めて見ると黒髪ロングに美しい整った顔立ち。
 かなり美少女である。

 ドキンドキンと心臓が高鳴る。
 こんな部長だけれど、俺だって男の端くれである。

「あ、そうそう、その線よりこっち来たら、斬るからね」
「斬る?」
「うん、胴体と首より上がサヨウナラしたくないなら、気を付けてね」
「あ、はい……」

 一応、自分の危険性については認識していたのか。
 それはそれでなんだか、男として認められているんだな、みたいな謎の満足感を感じた。
 俺はいそいそと布団をかぶり、あ、この布団、ふわふわで気持ちいい。

「おやすみなさい」
「おやすみ、ドラ」

 こうして眠りについた。

とりあえず、ここまで!

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