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シンセティックシューターメインストーリー1 シャーロッテ誕生編

略奪者を、討て
 人為的に切り裂かれた水しぶきが河川上に舞い散る。エンジンに放り込まれた石炭が火と煙を上げながら、一直線に船は走る。

「――おっさん、あれが犯人の船で間違いないんだな?」

 目視で確認できるほどに迫った蒸気船、これが標的だ。

「ああ。やってくれ」

 追いかけているのは異国のならず者、砂漠の虎だ。アグニ公国という砂漠の国出身で、おっさんが愛してやまないこの国の映画産業に土足で踏み込んだ敵。テロリストまがいの手口でフィルムを強奪し、あろうことか自国へ持ち去ろうとしているのだ。

 向こうの船の速力も決して悪くないが、追手に気づくのが遅すぎた。今更速力を上げても最初から全力で追い上げている俺達からは逃げられない。
 刻々と、有効射程まで距離は近づいていく。だが、まだ撃てない。

「――NN!!」

――凄まじい追い上げを前にして、奴らの一人が出てきた。構えた弓は安物だが、かつての襲撃で毒矢の使用が報告されている。油断はできない。

「おっさん、下がってくれ! 毒矢だ!」

 船室の外という狭くて不自由な場所でも、正確な構えで撃ってきた。

「――ッ!」

 風のおかげで狙いがそれてくれたみたいで、立ったままでも当たらずに済んだ。だがぼやぼやしていたら次が来る。一旦隠れよう。

「――NN、NN!!」

 それでも尚相手は、次を構え待つ。他の仲間が出てこない当たり、飛び道具で戦えるのはこいつ一人のようだ。

「おっさん、もっと速力を上げてくれ!」
「わかった」

――船室の扉、それを直角に開き盾にして待つ中、とうとう有効射程に入った。

「――邪魔を、するな!!」

 隠れながら右腕だけ突き出し、引き金を引いた――交差するのは、火薬が弾けた音。そして、風を切る音。

「――!!」

 盾に来た衝撃を前に、目をつぶったその時。聞こえたのは判定を知らせる音だった。人間と思わしきものが、水に落ちた音。目を開けると敵の弓使いが川に落ちていた。撃たれた衝撃で脇腹から血を流し、落下したようだ。

――盾にしていた扉の方にも確かに、奴の矢が刺さっていた。大体俺の喉の高さ……盾がなかったら確実に相打ちの位置だった。

「望み通りありったけ入れたぞ!」
「――そうかっ」
「ぶつける気で行くぞ!!」

――敵の戦闘員を排除した後の決着は、早かった。おっさんは宣言通り船をぶつけて奴らの船を転覆させた。運悪くエンジンに衝撃が集中したらしく、そのまま炎上しならず者達は川に放り出されてしまった。
 負傷者は出たが、幸いにも全員命に別状はなかったようで、最低限の手当てを受けながらも憲兵に捕縛された。もちろん俺が撃った弓使いも含めて。




――だが、ここからがうるさかった。

「……ちくしょう、全部ダメになっちまったか」

 おっさんが意固地になって取り返したかった大本命のフィルムは、全部水に浸かって台無しになった。無惨な姿になったそれを抱きかかえて落胆するおっさんの様子に、憲兵は気を遣って声をかけることすらためらっている。

「ユークリッドさん、大丈夫ですよ。盗まれたフィルムのコピーは既に――」
「うるせええ! これさえ無傷で帰ってきてくれれば、俺は金なんて要らなかったんだよ! これを守れなかったならどんなに謝礼を積まれても嬉しくねえ!!」

――そう、実はおっさんと依頼主は報酬の一部として、取り返したフィルムをプレゼントしてもらうという契約をしていた。つまり大の映画好きであるおっさんは、金よりも大事な思い出の品になるものを失ってしまったということだ。

――だったら最初からぶつけなければよかったのに、と思ってしまうが、それを言ったらご褒美を没収されそうなので黙っておこう。

 それにフィルムのことは残念だが、依頼主の人は確かに喜んでくれていたからな。自分の作ったもので不正な利益を上げられるよりは、例え盗まれたものがダメになっても捕縛して欲しいと言っていたし。それに感謝しているからこそ、わざわざ盗まれたフィルムのコピーをくれるって言っているんだから。

――まあいいや。おっさんは気が済むまで一人にしておこう。さあて、久々に結構いい報酬を貰えたし、遊びにでもいくか。

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