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シンセティックシューターメインストーリー1 シャーロッテ誕生編
旅するジャック
見つからないよォ、見つからないよォ。オラの探し物がァ。
真夜中でしか外に出られない人間界でェ、思いつく限りの場所はどこも探したんだよォ。
汽車が走るのを止めた線路にィ、その途中の駅や売店の中ァ、迷いに迷った末首都にあるデッカイ時計塔までやってきたってえのにィ、見つからないんだよォー……
「さっきから、うるせえぞテメー」
【旅するジャック】
このジャックと俺が出会ったのは、夜更かしのために市街で遊んでいた頃だった。
ガキのいない夜の街で、映画を見たり珍妙なものを売る行商人をからかったりと、中々面白い遊びだった。やめられないに決まっているよな。コイツと出会うまでは。
「なあ、お願いだよオ! オラの探し物が、どうしても見つからねえんだァ!!」
路地裏で憲兵に取り囲まれていたこいつは、なんと悪魔だった。なんせ頭が人間じゃなくて、顔があるカボチャだったのだから。
ちなみにジャックって言うのは、こいつの本名が人間界の言語で発音しにくい上にクソ長かったから今勝手に俺がつけた名前だ。
「だぁーかぁーらぁー、さっきからうるせえって言ってるだろ!」
こいつ、どうやら探し物があって人間界に来たらしい。
「そもそもお前、何をなくしたんだよ?」
ワーワーわめくだけで、何を探したいのかをいつまでもハッキリ言わないこいつは、あちこちの人間にこんな風に話しかけていたらしい。そしてとうとう変質者と間違われて憲兵に囲まれたってワケらしい。
「いっぺん落ち着いてハッキリそれを言ってみろ。それがわかんねえと、こっちも手伝いようがないんだよ。わかるか?」
とはいえ、慣れない人間界に来てどうすればいいのかわからなくて困っているみたいだ。何とかして助けてやりたい。
一応俺は身内に『悪魔とかかわりのある学問』の専門家がいる。俺自身がその技術を使って造られた存在でもあるしな。
「…………」
黙りこくってしまう、ジャック。
「……オラが悪かったよォ。ホムンクルスの姉ちゃァん」
……ハアッ、謝るのはいいけどさあ。
「で、何をなくしたんだ?」
「……青い宝石だよォ」
青い、宝石?
「実はオラ、この間人間と取引したんだ」
――このトリスト共和国は、悪魔と契約し錬金術という学問を発展させた国だ。
悪魔との同盟、それは他国から見れば国家全体が邪悪な存在に見えかねない行為にも見えるだろう。だが悪魔という名はあくまで人間が勝手に彼らを邪悪と決めつけ名付けた存在にすぎず、決して悪魔全てが邪悪な存在ではない。
その中でもトリストが契約した氏族『フライシュッツ』は、一際良心的であった。かつてトリストとの同盟が決まるやいなや、彼らは一族内で『契約違反以外の理由でトリスト人を殺害すること』を全面禁止したという。
悪魔の世界で共通する掟は、契約違反には罰を下すというもの。そしてそのルールは悪魔達自身にも適応されるのだ。
まあ基本的には対価の未納だけに気を付けて接すれば、割と気軽に取引できるらしい。
「……それで?」
「だけどその人間がよォ、トリストで今指名手配されている脱獄犯だって族長様から言われたんだよォ」
――脱獄犯、その罪状には聞き覚えがあった。
「急いで契約を破棄してそいつに与えた青い宝石を取り戻さなきゃいけねえんだァ」
「おい、そいつの名前って」
「?」
「もしかして、ジェファソンって奴じゃないか?」
――奴を退けた際に拾った、青い宝石を手渡す。実を言うと、そのジェファソンとはこの間、戦ったばかりであった。
『俺はユークリッドが憎い。だから一人一人、奴と親しい者達を一人一人殺し、奴を苦しめると誓った』
ジェファソンの脱獄が報じられた朝。奴は早速俺達への復讐に動いた。
『やれ、ヒポグリフ。忌々しいユークリッドへの罰として、その弟が愛する無垢な子供達の腹を一人残さず搔っ捌け! 奴らの罪を血で示すのだ!』
俺を造った錬金術師のおっさん――ユークリッドを奴は逆恨みしていた。投獄に至った理由も、逆恨みでこいつが俺を殺そうとしたからだった。
獄中で更なる逆恨みを増幅させたあいつは、子供達と遊んでいるおっさんの弟にヒポグリフという魔物をけしかけた。
普段はうるさくて大嫌いなガキどもだが、何の罪もない命が理不尽に奪われるなんてのはあってはならないことだ。だから俺は、クラウディオと力を合わせ奴から子供達を守った。
「そうかァ、あんたが持ってたんだなァ」
幸いにも怪我人は出ずに済んだが、戦っている間にジェファソンは遠くに逃げたらしくいまだに発見されていない。
俺はひとまず、その時ぶっ殺したヒポグリフの腹から出てきた宝石を拾って、その場を後にしたが。
「知らない間に、取り返してくれてたんだなァ。アリガトヨォ……」
まさか、これがこいつの探し物だったとは。目の前でバカみたいに感動の涙を流し始めてやがる。
「もうダメだってずっと思っていたけど、これでやっと、族長様に許してもらえるゥ……」
まあいいや。満足したみたいだし、もう帰ろう。さすがにこいつの夜更かしに付き合いすぎた。
「……見つかって、良かったな」
そう言っている間に、ジャックは悪魔の世界に帰るのか少しずつ半透明になって、気が付いたらいなくなっていた。
============
メインストーリー1はここでひとまずおしまいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
真夜中でしか外に出られない人間界でェ、思いつく限りの場所はどこも探したんだよォ。
汽車が走るのを止めた線路にィ、その途中の駅や売店の中ァ、迷いに迷った末首都にあるデッカイ時計塔までやってきたってえのにィ、見つからないんだよォー……
「さっきから、うるせえぞテメー」
【旅するジャック】
このジャックと俺が出会ったのは、夜更かしのために市街で遊んでいた頃だった。
ガキのいない夜の街で、映画を見たり珍妙なものを売る行商人をからかったりと、中々面白い遊びだった。やめられないに決まっているよな。コイツと出会うまでは。
「なあ、お願いだよオ! オラの探し物が、どうしても見つからねえんだァ!!」
路地裏で憲兵に取り囲まれていたこいつは、なんと悪魔だった。なんせ頭が人間じゃなくて、顔があるカボチャだったのだから。
ちなみにジャックって言うのは、こいつの本名が人間界の言語で発音しにくい上にクソ長かったから今勝手に俺がつけた名前だ。
「だぁーかぁーらぁー、さっきからうるせえって言ってるだろ!」
こいつ、どうやら探し物があって人間界に来たらしい。
「そもそもお前、何をなくしたんだよ?」
ワーワーわめくだけで、何を探したいのかをいつまでもハッキリ言わないこいつは、あちこちの人間にこんな風に話しかけていたらしい。そしてとうとう変質者と間違われて憲兵に囲まれたってワケらしい。
「いっぺん落ち着いてハッキリそれを言ってみろ。それがわかんねえと、こっちも手伝いようがないんだよ。わかるか?」
とはいえ、慣れない人間界に来てどうすればいいのかわからなくて困っているみたいだ。何とかして助けてやりたい。
一応俺は身内に『悪魔とかかわりのある学問』の専門家がいる。俺自身がその技術を使って造られた存在でもあるしな。
「…………」
黙りこくってしまう、ジャック。
「……オラが悪かったよォ。ホムンクルスの姉ちゃァん」
……ハアッ、謝るのはいいけどさあ。
「で、何をなくしたんだ?」
「……青い宝石だよォ」
青い、宝石?
「実はオラ、この間人間と取引したんだ」
――このトリスト共和国は、悪魔と契約し錬金術という学問を発展させた国だ。
悪魔との同盟、それは他国から見れば国家全体が邪悪な存在に見えかねない行為にも見えるだろう。だが悪魔という名はあくまで人間が勝手に彼らを邪悪と決めつけ名付けた存在にすぎず、決して悪魔全てが邪悪な存在ではない。
その中でもトリストが契約した氏族『フライシュッツ』は、一際良心的であった。かつてトリストとの同盟が決まるやいなや、彼らは一族内で『契約違反以外の理由でトリスト人を殺害すること』を全面禁止したという。
悪魔の世界で共通する掟は、契約違反には罰を下すというもの。そしてそのルールは悪魔達自身にも適応されるのだ。
まあ基本的には対価の未納だけに気を付けて接すれば、割と気軽に取引できるらしい。
「……それで?」
「だけどその人間がよォ、トリストで今指名手配されている脱獄犯だって族長様から言われたんだよォ」
――脱獄犯、その罪状には聞き覚えがあった。
「急いで契約を破棄してそいつに与えた青い宝石を取り戻さなきゃいけねえんだァ」
「おい、そいつの名前って」
「?」
「もしかして、ジェファソンって奴じゃないか?」
――奴を退けた際に拾った、青い宝石を手渡す。実を言うと、そのジェファソンとはこの間、戦ったばかりであった。
『俺はユークリッドが憎い。だから一人一人、奴と親しい者達を一人一人殺し、奴を苦しめると誓った』
ジェファソンの脱獄が報じられた朝。奴は早速俺達への復讐に動いた。
『やれ、ヒポグリフ。忌々しいユークリッドへの罰として、その弟が愛する無垢な子供達の腹を一人残さず搔っ捌け! 奴らの罪を血で示すのだ!』
俺を造った錬金術師のおっさん――ユークリッドを奴は逆恨みしていた。投獄に至った理由も、逆恨みでこいつが俺を殺そうとしたからだった。
獄中で更なる逆恨みを増幅させたあいつは、子供達と遊んでいるおっさんの弟にヒポグリフという魔物をけしかけた。
普段はうるさくて大嫌いなガキどもだが、何の罪もない命が理不尽に奪われるなんてのはあってはならないことだ。だから俺は、クラウディオと力を合わせ奴から子供達を守った。
「そうかァ、あんたが持ってたんだなァ」
幸いにも怪我人は出ずに済んだが、戦っている間にジェファソンは遠くに逃げたらしくいまだに発見されていない。
俺はひとまず、その時ぶっ殺したヒポグリフの腹から出てきた宝石を拾って、その場を後にしたが。
「知らない間に、取り返してくれてたんだなァ。アリガトヨォ……」
まさか、これがこいつの探し物だったとは。目の前でバカみたいに感動の涙を流し始めてやがる。
「もうダメだってずっと思っていたけど、これでやっと、族長様に許してもらえるゥ……」
まあいいや。満足したみたいだし、もう帰ろう。さすがにこいつの夜更かしに付き合いすぎた。
「……見つかって、良かったな」
そう言っている間に、ジャックは悪魔の世界に帰るのか少しずつ半透明になって、気が付いたらいなくなっていた。
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メインストーリー1はここでひとまずおしまいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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