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厄災の骸

厄災の骸 前編
 出発した先で落ち合った冒険者達。一人は壮年の筋肉質な剣士。もう一組は異邦のドレスを着た女と粗末な奴隷服を着せられた少女だ。

「あんたらが今回の任務の同行者か」
「ナカゲ商会の代表チャン・リンファよ。よろしく」

 青く妖艶なドレスは高貴な印象を思わせる。となりの少女がみすぼらしい身なりだから余計映えた。

となりの子供は?」
「この子は私の飼っている奴隷よ」

 嫌な顔をする男。奴隷を連れていること自体見ていて気分のいいことではないのだが、それ以上に重大な懸念点があった。それは彼女らが戦力になるかどうか。
 商人の長とそれが飼っている奴隷。どちらも戦いとは縁のない立場の者達だ。今回の任務はゴブリンの討伐。対象自体はそこまで危険ではない。それでも役に立たない同行者と組むこと自体、失敗する可能性を跳ね上げてしまう。

足を引っ張るなよ」
「大丈夫、むしろこの子の前ではあなたが足を引っ張る側よ」

 やけに自信のある女。この少女がそんなにも強いのか。

「む?」

 思案している中、男があることに気が付いた。

「それはなんだ?」

 それはクロスボウのような武器。だがどこの市場でも見たことのない形状をしていた。
 持ち手の手前にはドラム状の物体が取り付けてあり、銃身は骨のようなもので作られている。

「これはこの子の使う武器よ」

 見たことがない武器を持たされた少女。彼女の実力は未知数である。この武器によってベテランの彼にも負けない戦いができるとでも言うのだろうか。

まあいい、そこまで言うなら見せてみろ」



 三人は注意深く森の中を探り進む。標的を見つけるまで、長くかからなかった。

見つけたぞ」

 樹々の奥に三匹が密集している。こちらに気づいていない。自由に奇襲できるだろう。

「よし、俺が行く」

 男が最初に動いた。自慢の剣を抜き、二人に危険が及ぶ前に仕留めにかかるようだ。

「待ちなさい。ここはこの子に任せるのよ」

 そこに入った制止。指示と共に少女が武器を構えた。

なに?」
「撃て」

 命令と共に降ろされた引き金。共に無数の弾丸が飛び出した。
 それらの一発一発がゴブリンを正確に打ち抜き、絶命させる。気づかせる間もなく。三匹をまとめて仕留めた。

!!」

 あっという間のことだった。年端の行かぬ少女がたった一人でゴブリンを全て仕留めた。武器自体の攻撃力もさることながら、狙いも恐ろしいほどに正確。

「この武器は一体?」
「これは竜骨弩。竜の骨で作った弾丸を連続発射する武器。後に私達の主力商品になるものよ」

――この女はどうやら新製品の実験をしたくてこの依頼を受けたようだ。ベテランと同行したのはこの武器を見せつけ有用性を示すためだろう。

子供でも魔物を殺せるのか?」
「ええ。それも短い訓練で。これを見てみなさい」

 女が紙切れを取り出す。この少女を市場で買った時の領収書だ。なんと取引当日の日付はたった二週間前。今日までずっと訓練を続けていたとみても、あまりにも早すぎる。

「これは革命的だ」

 絶句する男。この武器が流通すれば人類の進出圏は劇的に拡大するだろう。少なくとも民間人を魔物の雑兵から守るのは圧倒的に有利になるはずだ。

「それじゃあまた市場で会いましょう。その時は宣伝よろしくね」



 それから彼女らはこの竜骨弩のすばらしさを見せびらかすため、同じようにベテラン冒険者との任務に同行した。

 無論皆が同じように驚愕し、その力を評価した。彼らの証言のおかげで竜骨弩の売り上げは劇的に伸び、近郊の魔物は次々掃討されていく。ナカゲ商会は文字通り戦場に革命を起こしたのだ。

「フフ、アッハハハ!」

 売上金を前に大喜びするリンファ。自らが戦場にでることなく、大金がどっと入ってきたのだから。

「これで一生遊んでくらせるわ!」
「あの

 物欲しげに見る奴隷の少女。

「あら、なに?」
「わ、わたし
「あ、そろそろ出発の時間じゃないの? さっさと行って来なさい」

 行けと言われても動かない少女。

本当にどうしたのよ」
「が、頑張って宣伝したからもっとお金ください


 そのお願いに対して、あろうことか張り手が飛んだ。

!!」
「奴隷ごときが私に対して下品な指図をするな。あなたが私のために働くのは当然のことなのよ」


 無言の泣き顔。失敗したら命に係わるような戦いを乗り越えて宣伝に協力したのだ。少しくらい分け前があってもいいだろうに。
 だが目の前の女は己の私腹を肥やすこと以外に何一つ目を向けていない。

「さあ、さっさと片付けて来なさい。必要な水と食料は自分で買うのよ」

 あろうことか、必要経費すら出してやらないとは。



 泣きながら出ていく少女。逆らえば生きていけない。あの女は仮に死んでも新しいものを買えばいいとしか思っていないから。



「ふーう、今日の仕事は終わり!」

 日付が変わる手前。デスクワークと帰り支度を片付けたリンファ。奴隷の少女はまだ帰ってきていない。

「さーて、帰りましょう」

 そこで彼女が触るよりも先に扉が開かれた。少女が戻ってきたところであった。

「あら、遅かったじゃない。これから帰るところよ」

 黙って主人をにらむ少女。今までと違い明らかに反抗的だ。

どうしたのよ」
「リンファ様、お給料のこと考え直してもらえませんですか?」
「なーに言っているのよ。冗談はよしなさい。あなたの命は私のものよ。毎日ご飯を貰えるだけ感謝しなさい」
そうですか」

 話しても無駄、そう思ったのかは知らない。だが彼女は衝撃の行動を執る。

「ちょ、ちょっと」

 主人であるリンファに竜骨弩を向ける少女。銃口は正確に頭の方に向けてある。

「何のつもり? あなた本当に気が狂ったの?」

 説得する間もなく飛び出す、反旗の凶弾。一気に頭を撃ち抜き、弾き飛ばした。

本当に気が狂っているのは、あなただ」

 物言わぬ亡骸に吐き捨てる少女。

「ギャッギャ! コレガ人間ノ新シイ武器!!」

 そこに突入してくる魔物達。手にしたナイフやこん棒は血に染まっている。戦えない従業員すら一人残さず殺したのだ。そして協力して工房の中にある竜骨弩とその弾を運び出していた。

「作リ方モ書イテアルゼ!!」

 このゴブリン達は本来なら彼女が始末するべき討伐対象であった。だがこれまでの戦いで竜骨弩の強さは魔物達にも知れ渡っている。抵抗しても無駄死にすると判断した彼らは戦うことなく彼女に降伏した。

「オマエ、イイヤツ! コレカラモ守ッテクレヨ!!」

――そう、彼女はその降伏を受け入れると共に、彼らの仲間に入れてもらったのだ。彼らを守ることと引き換えに、彼らを利用して食料と自由を得る。その選択肢が今、凶弾を放ったのである。
 人を裏切り魔物側についた少女。だが彼女にとって、手を取り合った彼らはもう魔物ではない。これまでに自分を虐げた者達こそが本当に殺すべき魔物なのだ。

 それからしばらく、工房とその人員を失った竜骨弩は人間の市場から姿を消した。そして今では使い方と作り方を覚えた魔物達が侵略のために用いている。全ては彼女の反逆のもたらした結果である。
 幸いにも既に市場に出回った竜骨弩を解体し、コピー品の作り方を研究している技術者は多くいる。人間達がこの武器を再び自らのものにする日は決して遠くない。
 だが今は正規品の工房が失われた混乱の最中。かつての需要を満たすほどの工房を再建することは、すぐにはできない。当面は勢いを伸ばした魔物達の快進撃が続くであろう。
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