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やせっぽっちのサンタ

本当のプレゼント
 儂はイルク。女神様に仕えるサンタクロースの一人。心正しきものが天に召されたとき、精霊として神の手伝いを命ぜられる。
 儂たちは、子供のために木材や布でおもちゃを作り配るのが仕事だ。でも、配るのはおもちゃではないんだよ。そこに女神様が込めた「あい」や「いつくしみ」を配るんだ。子供たちはそのおもちゃを手にして遊びながら、「愛」や「慈しみ」を感じ取り育てていくんだ。

 やがて、おもちゃが壊れ、捨てられても、「愛」と「慈しみ」は心の中に残り育っていく。

 そうやって、幸せな人生を送ってもらう。それが我々サンタの願いであり、誇るべき仕事なのだよ。

 この国の冬は雪に閉ざされる。子供たちの冬は半分以上うちの中で閉じこもるんだ。だから、みんなおもちゃを待ち望んでいるんだよ。

 儂らは雪の結晶を刺しゅうした真っ白い服と帽子を身に着け、相棒のトナカイと一緒にプレゼントを配るんだ。
 子供たちの笑顔がなによりも嬉しい報酬。みんな貧しくやせっぽちだが幸せに暮らしていたんだ。



 …………………………そんな中、彼らがやってきた。


◆◆◆



 砂漠の国から来た神の使途は、何もかにもが飢えていた。樹も草もない砂の世界。わずかにあるオアシスで暮らす彼らは、戦い奪うことで豊かになっていった。

 儂らには戦いという事が理解できなかった。しかし、武器を持った使徒と呼ばれる者たちがこの国の人々を殺していったんだよ。

「皆、我々の神を崇めよ。我々の神の信者になれ。さすれば我々は仲間だ。この戦いも終えよう」

 人々は女神さまへの信仰を捨てようとはしなかった。しかし、女神さまは儂らにこう言ったのだ。

「わたくしは、この国の人々を守るためにいます。これ以上戦いを続けることはできません。あなたたちはあちらの神に仕えなさい。そうして、愛と慈しみの心をあの神に伝えてください。世界が愛と慈しみで満たされるように」

 そうして女神さまは投降した。人々が見守る中、女神さまは首をはねられた。
 赤い血がどくどくと流れる中、むこうの使徒は勝鬨かちどきを上げていたよ。


◆◆◆


 女神さまの神殿はことごとく破壊された。新しく教会所なるものが出来た。砂漠の神が雪の国に祀られたんだ。
 儂らはもくもくと儂らの仕事をするしかなかった。プレゼントを作り配ること。

 何年もたつうちに、砂漠の神の使徒たちは気がついた。戦い奪うだけでは上手くいかないことに。彼らは儂らのやり方を取り入れようとしたんだ。

「これから、この国の冬のプレゼント配りは我々の祭りとする。冬中などとぼんやりした祭りではいけない。12月25日をクリスマスと名付け24日を前夜祭とする。プレゼントを配るのはその2日間だけだ。いいな。我々の国全ての子供に配るのだ。我々の神の名をそえてな」

 名を変えられ、日を狭められ、数が増えた。しかし、儂たちは働いた。これで女神さまの願い、「愛」と「慈しみ」を多くの子供に伝えられる。儂らの思いが、かの神の心をも変えられるかもしれないからな。

 そうして、世界に「愛」と「慈しみ」が広まったのだよ。


◆◆◆


 砂漠の神はやがて、「愛の神」と呼ばれるようになった。人々は幸せそうに砂漠の神を拝んでいた。
 クリスマスには、家々に温かなごちそうがならんだ。幸せそうな家族の風景。


 だがな、戦争は無くならなかった。


 神の使徒は異教徒を探し出すと戦争を仕掛けた。たくさんの神々が首をはねられ、胸を刺され、神殿は破壊された。

 殺される子供。親を無くす子供。売られる子供。武器を持つ子供。

 儂らはそんな子供たちに、おもちゃを配った。せめてものなぐさみになればと。


◆◆◆


「何を勝手に異教徒にプレゼントをあげているのですか」

 使徒たちが儂らに詰め寄る。

「まあいいでしょう。これからあなたたちに提案があります。ぜひ受け入れて頂きたい」

 提案? いつも命令しかしないのに。 儂らは耳を疑った。

「では、こちからからプレゼンテーションを行います」

 使徒はそう言うと、スーツを着た一人の男を呼んだんだよ。

「初めまして。私は○✕商事のウイルソンと申します。これから先、皆様には我々が取り扱う商品をプレゼントとして配って頂きたいと思っております。皆様のおもちゃを作る手間も減り、お互いウインウインな関係になるかと思うのですよ」

 聞くとどうやら、彼らのおもちゃを配って代金を親から請求するらしい。お金持ちの子には高い商品を。貧乏人には安い商品を……。

「では、支払いが出来ない親の子や、そもそも親のない孤児たちには?」

「残念ながら贈り物は無しになりますね。自己責任です」

「「「ふざけるな!」」」

 儂らは怒ったよ。そんな愛も慈しみも無いただの商品。贈った所で何も伝わらない。

「困りましたね〜」

 使徒はにやついて言った。

「神の命に背く異教徒は排除せねばいけませんね〜」

 使徒の背後から、ライフルを持った兵達が現れた。


 パンパンパンパンパンパンパンパン


 乾いた音が鳴り響く。次々と銃弾に倒れる仲間たち。逃げ惑う背中に、更に銃弾が襲う。


 パンパンパンパンパンパンパンパン

 白い服も帽子も、流れ出る赤い血で染まる。断末魔を上げながら、1人、また1人と息絶えていった。

 儂らは、愛と慈しみを……女神様の教えを広めたかっただけなの……に…………



「そうだ、これからはサンタの服はこんな感じの赤い服にしよう。サンタの格好をさせて売り子にすればいい。こんなやせっほちじゃなくて、体格のいい丸々ふとった奴らに服を着せてな……ははははははは…………」

 使徒の笑い声が、儂のこの世で聞いた最後だったよ。


◆◆◆


 あの日、サンタとして死んだ儂は女女神様の国に召された。女神様が亡くなってから千年以上経ったはずだ。

 久しぶりに見た女神様は、何も変わらずに優しいままだった。

「よく耐えました。あなた達の行いは間違っていませんでした。私の教えは少しづつですが、確かに人々に浸透しています。これからは人々の目には見えなくとも、おもちゃは配れなくても、愛と愛しみを配って下さい」

◆◆◆

 儂はイルク。女神様に仕えるサンタクロースの一人。心正しきものが天に召されたとき、精霊として神の手伝いを命ぜられた。

 遠く女神様の国から、悲しい子供たちに愛と慈しみの心をプレゼントしている。

 戦争に巻き込まれている子。
 親のない子。
 虐待されている子。
 …………
 …………
 …………

 たくさんの子どもたち。
 君は幸せになる権利があるんだ。
 愛を……慈しみを……
 忘れないでおくれ

 メリークリスマス















(この物語はフィクションです。如何なる個人・団体・企業とも関係はありません)

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