■第だい４３話わ　エルフちゃんと桃ももの節句せっく

　桃ももの節句せっくつまり雛祭ひなまつりだ。もうすぐ三月さんがつ三日みっかになる。
　うちには一部屋ひとへやだけ和室わしつがあってそこに出だす予定よていだ。

「えへへ、雛人形ひなにんぎょうもあるですぅ」
「うふふ、私わたしの雛人形ひなにんぎょうなんだ」

　妹いもうとのエリカが入院にゅういんしている間あいだは出だしていなかったんだけど、数すう年ねんぶりに復活ふっかつした。
　五段ごだんの立派りっぱなものだ。
　妹いもうとが小ちいさいころに両親りょうしんとおじいちゃんたち全員ぜんいんが奮発ふんぱつして買かったかなり高価こうかな品しならしい。
　そのころから美少女びしょうじょっぷりを発揮はっきしていたので、全員ぜんいんメロメロだった。

「お内裏様だいりさま、お雛様ひなさま」
「綺麗きれいですぅ」

　ララちゃんが俺おれの言葉ことばに合あわせて検品けんぴんしてくれる。
　正確せいかくには男雛おびな女雛めびな両方りょうほう合あわせてお内裏様だいりさまなので、彼かれはお内裏様だいりさまではない。
　一番いちばん上うえの段だんの左ひだりにお内裏様だいりさまに右みぎにお雛様ひなさま。どうも調しらべたところ逆ぎゃくに飾かざる作法さほうもあるらしいが、うちはたぶん左ひだりがお内裏様だいりさまだと思おもうのでそれに従したがった。

「三人官女さんにんかんじょ、メイドさんのような何なにか」
「はいですぅ」

　女官にょかんが三名さんめい。官女かんじょと逆ぎゃくに書かく謂いわれまではよく知しらない。

「五人ごにん囃子ばやし」
「はいですぅ」

　囃子はやしは囃はやし立たてるとかの「囃はやし」だけど、ようは楽器がっき演奏者えんそうしゃ。
　太鼓たいこ、笛ふえなどを持もつ。

「随身ずいじんの右大臣うだいじんと左大臣さだいじん」
「はいですぅ」

　右大臣うだいじんと左大臣さだいじん。よく弓矢ゆみやを持もっている人ひと。
　ちなみに向むかって左ひだりが右大臣うだいじんで右みぎが左大臣さだいじんだ。逆ぎゃく側がわから見みるので。

「えっと五段ごだん目めは牛車ぎっしゃとか太鼓たいことか」
「はいですぅ」

　それから左右さゆうにぼんぼりを置おく。

「立派りっぱですねぇ」
「だよねえ。みんな親おやバカなんだから……」

　妹いもうとも親おやバカと言いいつつ目元めもとには涙なみだが浮うかんでいる。
　みんなかわいがってくれている自覚じかくはあるのだ。それから入院にゅういんしていて迷惑めいわくをかけていた自覚じかくも。

「はい、完成かんせいですぅ、ぱちぱちぱち」
「「ぱちぱちぱち」」

　俺おれと妹いもうともララちゃんに合あわせて拍手はくしゅをする。
　こうしてみるとずいぶん立派りっぱなものを購入こうにゅうした。
　別べつにうちはいうほど裕福ゆうふくではない。むしろ小こ金持がねもちもいいところでここぞとしたところにお金かねを使つかう。
　だからあまり貯金ちょきんはないと思おもう。もちろんゼロではないけれど。
　家いえのローンはまだ残のこっている。こちらは父親ちちおやが普通ふつうに退官たいかんまで勤つとめれば返済へんさいできる計画けいかくなので、大丈夫だいじょうぶだとは思おもう。

「また飾かざれたね」
「お、おう」
「これって何歳なんさいまで飾かざるものなんだっけ」
「知しらん」
「私わたしもよく知しらない。でも結婚けっこんする前まえまでだよね」
「うん」
「私わたしって結婚けっこんするのかな」
「あ、どうだろう、俺おれに聞きかれても」
「うふふ。ごめんね、お兄にいちゃんと結婚けっこんできないもんね」
「うん、まあ。異世界いせかいなら結婚けっこんできるかもね」
「異世界いせかいっ」

　ここでララちゃんも目めを白黒しろくろさせる。

「どうなのララちゃん？」

　食くい気味ぎみな妹いもうとだ。

「エルフィール王国おうこくでは兄妹きょうだいでも結婚けっこんできますねぇ、王族おうぞくからしてそんな感かんじなので」
「おわあああああ」

　妹いもうとがいつになく大おおきな声こえを出だした。
　こんな声こえを出だせると思おもわなくて俺おれもびっくり仰天ぎょうてんだ。
　言いった本人ほんにんもびっくりしてるけど。

「お兄にいちゃん、異世界いせかい行いこう、異世界いせかい」
「今いま、父とうさんたちが研究けんきゅうしてる」
「知しってる。早はやく結婚けっこんしよう、結婚けっこん」
「がっつかなくても十八歳じゅうはっさいまで何年なんねんかあるぞ」
「なるほど、じゃあ待まってるね」

　胸むねはなくても妹いもうともぐいぐいくるようになった。
　なんだか他ほかの二人ふたりよりも甘あまい匂においがしてくらくらする。
　これはシャンプーの違ちがいなのだろうか謎なぞだ。
　でも俺おれが知しってる範囲はんいではララちゃんと同おなじシャンプー使つかっているはず。
　ますますよく分わからない。

　三月さんがつ三日みっか、桃ももの節句せっくの翌日よくじつ。

　ぽりぽり。ぽりぽり。

「おいち」
「ああ」
「ですぅ」

　近所きんじょの人ひとに貰もらった雛ひなあられを食たべている。
　甘あまいのや甘あまじょっぱいのがあって美味おいしい。
　醤油味しょうゆあじのもいい。
　なんでかよく知しらないけど雛ひなあられあるよね。

「さて食くったしそろそろやるぞ」
「はーい」

　今日きょうは天気てんきもいいから雛人形ひなにんぎょうを片付かたづけていく。

「もうしまっちゃうですかぁ。こんなに豪華ごうかですごいですぅ」
「ああこれね、しまうの遅おそくなると婚期こんきが遅おくれるって言いい伝つたえがあるんだ」

　たぶん全国的ぜんこくてきなものだと思おもう。

「ガーン」

　これにはさすがにエルフのララちゃんと言いえどもショックのようだ。

「早はやく、しまうですぅ」

　やる気きを見みせて手伝てつだってくれた。
　あはは、やっぱり婚期こんきの遅おくれは怖こわいよね。
　ただでさえ目めの前まえに俺おれがいるってのに、それで結婚けっこんできないとか地獄じごくだもんね。
　妹いもうとがどうするつもりなのかはちょっと気きになるところではあるが、ララちゃんは少すくなくとも結婚けっこんしたいらしい。

　みんなで協力きょうりょくして素早すばやくしまうことができた。
　家いえの角かどには和室わしつがあるんだけど、こういうことがないとあまり出番でばんがない。
　あとは一応いちおう、ひいおじいちゃんとおばあちゃんや祖先そせんが祭まつられてる仏壇ぶつだんがある。
　これは分身ぶんしんで本体ほんたいはおじいちゃんの家いえの仏壇ぶつだんということらしい。
　よくは分わからない。

「異世界いせかいには雛人形ひなにんぎょうないんだっけ」
「ないですぅ、でも呪のろい人形にんぎょうならありますよぉ」
「おおぉお、怖こわっ、呪のろい人形にんぎょう怖こわっ」
「うふふ」
「ララちゃん使つかったことないよね」
「あるわけないじゃないですかぁ、そんな物騒ぶっそうな物もの」
「だよねぇ」
「うふふふ」

　なんか笑わらってるのが無垢むくな笑わらいなのか、実じつはヤバイ子こなのかちょっと分わかりにくい。
　考かんがえようによっては怖こわい。
　天然てんねんララちゃんだから大丈夫だいじょうぶだとは思おもう。

「あのですね、呪のろい人形にんぎょうって返かえってくるって言いわれているので、悪わるいことをすると自分じぶんも呪のろわれちゃうから普通ふつうはそんなことしないんですよ」
「あぁ、そうなんだ」
「そうですよ。そんな怖こわいことしませんよぉ」
「だよね」

　そっか。純真じゅんしんなほうみたいでよかった。
　自分じぶんが呪のろわれていい覚悟かくごで相手あいてを呪のろうってそれはそれで怖こわいけどね。
　異世界いせかいも善よし悪あしだな、こういうのあると。
　麒麟きりんとかドラゴンは見みてみたいな、うん。

トップページに戻る この作品ページに戻る

感想を読む