●９ 商業しょうぎょうギルドguildの勧誘かんゆうだよ

　茶色ちゃいろ髪がみロングlongのお姉ねえさんがポーションpotionと練ねり薬草やくそうを購入こうにゅうしてくれた。

「ねえ、あのさ」
「はい。なんでしょう？」

　改あらたまって言いわれるとなんだろう。

「なんでこんな露店ろてんで錬金術れんきんじゅつ師し様さまが実演じつえん販売はんばいしているか、前まえから疑問ぎもんだったんだけど、なんで？」

　ずばりお姉ねえさんは言いう。

「え、あ、あの。その」
「言いいにくいことかい？　なんなら向むこうのカフェcafeで話はなしをしてもいいよ。もちろん露店ろてんの売うり上あげ減少げんしょうと手間てま賃ちんは出だすけど」
「あいえ、大丈夫だいじょうぶです」

　別べつにそういう事ことではない。ちょっとこういう話はなしをしたことがなくて、慣なれていないから焦あせってしまった。

「あの田舎いなかから出でてきて、ハシユリ村むらっていうんですけど」
「知しらない村むらだな」
「そうですよね。それでまだ出でてきたばかりでお金かねも何なにもないもので、えへへ」
「あーそういうことか。完全かんぜんに理解りかいした」

　お姉ねえさんはなにやら考かんがえるポーズposeを取とっていた。

「じゃあこうしよう。あなたを私わたしは勧誘かんゆうします」
「はあ勧誘かんゆうですか？」
「そう勧誘かんゆう。具体的ぐたいてきには　▼ホーランド商業しょうぎょうギルドguildへ加入かにゅうしてください。もし加入かにゅうしてくれれば、賃貸ちんたい物件ぶっけんをご融資ゆうしします。頭金あたまきんなしでお店みせが手てに入はいります」
「え、ちょ、ちょっと待まってください」
「ええ。悪わるい話はなしではないと思おもいます。じっくり考かんがえてください」

　露店ろてんの前まえで考かんがえる。賃貸ちんたいの物件ぶっけんを頭金あたまきんなしで貸かしてくれる。
　ふむ。悪わるくないよね。何なにか罠【わな】とかないだろうか。

「お嬢じょうさんたち。ちょっと、その話はなし。待まっていただけませんか？」

　今度こんどは紳士しんしが話はなしかけてきた。あ、この人ひとも数日前すうじつまえから来くる常連じょうれんさんだ。

「あ、はい」
「その人ひとの話はなしを聞きいてはいけません。この紳士しんしは変態へんたいなんです」
「何なに勝手かってに人ひとのことを。ワシは変態へんたいなんかじゃないぞ」
「いえ、小ちいさくて若わかい女おんなの子こを何人なんにんもメイドmaidとして雇やとって、そして大おおきくなると他ほかの業者ぎょうしゃに紹介しょうかいして屋敷やしきから出だすという。少女しょうじょに目めがないヤバい人ひとなんですよ」
「そんな、そんなこと、ないに決きまっている。決きめつけだ。そんなこと」

「すみません。よく分わからないので、そういうのは向むこうでやってくれませんか？　営業えいぎょう妨害ぼうがいですよ」
「あいや、すまん」
「すみません」

　老ろう紳士しんしもお姉ねえさんも話はなしは分わかるらしく、一度いちど黙だまる。

「で紳士しんしは誰だれです？　というかお姉ねえさんも誰だれなんでしょうか。ちなみに私わたしはミレーユ・バリスタットです」
「ああ、私わたしは　▼メイラ・ホーランド。ホーランド商業しょうぎょうギルドguildの副会長ふくかいちょうだ」
「ワシは　▼ボロラン・ロッドギン。　▼メホリック商業しょうぎょうギルドguildのナンバーnumberスリーthreeだ」
「なるほど、つまり」

　こうして頭あたまを回転かいてんさせる。

「つまりですよ。ホーランド商業しょうぎょうギルドguildとメホリック商業しょうぎょうギルドguildが私わたしを勧誘かんゆうに来きて、カチ合あったということで、よろしいですか？」
「はい、そうなりますね。遺憾いかんながら」
「その通とおりですじゃ。機会きかいはワシらにも平等びょうどうにあるべきはずです」

　まあ平等びょうどうは確たしかに大切たいせつだよね。

「分わかりました。きっと長ない付つき合あいになりますし、両方りょうほうに加盟かめいするというのは」
「もちろん、なしですよ」
「なしに決きまっておろう」
「ですよね。ふむふむ」

　はあ、と一度いちどため息いきをついて、考かんがえる。

「一週間いっしゅうかんください。両方りょうほうのギルドguildを自分じぶんで調査ちょうさします。その結果けっか、どちらかに加盟かめいするというのでどうでしょう。両者りょうしゃ裏うらで手てを回まわすのはなしです。結果けっかに文句もんく付つけるのもなしです。いかがでしょう」
「若わかいのにしっかりしているな。よいでしょう」
「まったくじゃわい。ぜひうちに欲ほしい。異論いろんはない」

「ではいいですね。一週間いっしゅうかん後ご。また二人ふたりで『なかよく』来きてください」
「分わかりました。では今日きょうのところは失礼しつれいします。ミレーユちゃん」
「では、こちらも失礼しつれいする。ではミレーユ嬢じょう」

　二人ふたりはその後あとも、小突こづきあいをしながら『なかよく』去さっていった。

「はぁ、なんなんあれ」
「きゅきゅ」
「私わたしを癒いやしてくれるのは、ポムだけだねぇ」
「きゅきゅ」

　ポムを抱だき上あげて、両手りょうてで持もってぽんぽんする。
　はあ癒いやされる。この絶妙ぜつみょうな柔やらかい感触かんしょく。何物なにものにも代かえがたい気持きもちよさがある。

　ぽむぽむぅ。

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