●６２ 魔道まどう式しき懐炉かいろだよ

　懐炉【かいろ】または湯ゆたんぽというのはご存知ぞんじだろう。
　最近さいきん、特とくに王都おうとは寒さむい。

　雪ゆきが降ふるほどではないにせよ、気温きおんは一ひと桁けただろう。
　あ、ああ、温度計おんどけいはあまり売うっていない。
　体温計たいおんけいが病院びょういんに一応いちおうあるので、温度計おんどけいも存在そんざいはしている。

　夜よるに湯ゆを沸わかして、湯ゆたんぽを作つくるのも、ちょっと面倒めんどうではないだろうか。
　また朝あさや昼間ひるまから使つかいたいとなると、大おおきさも重おもさもけっこうある。

　普通ふつうの懐炉かいろは石いしを温あたためたもので「温石【おんじゃく】」ともいう。
　石いしを火ひで加熱かねつするんだけど、加減かげんが難むずかしい。
　温あたためるのも面倒めんどうだし、朝一番あさいちばんからは使つかえない。

　お店みせには床下ゆかした暖房だんぼうがある。
　ここ王都おうとでは一般的いっぱんてきな装備そうびだ。
　半はん地下ちかに暖炉だんろがあってその煙突えんとつのパイプpipeが床下ゆかしたに埋うめ込こまれて巡めぐっている。
　ただし、燃料ねんりょうの薪たきぎが結構けっこう必要ひつようで朝一番あさいちばんは寒さむい。

「じゃじゃーん、そこで魔道まどう式しき懐炉かいろです」
「「おーお」」

　シャロちゃんのマリーちゃんも感心かんしんしてくれる。

「わたし、冷ひえ性しょうなのでうれしいです」
「そっかあ」

　マリーちゃんも冬ふゆには困こまっているようだ。

「寒さむいのは苦手にがてだから私わたしも懐炉かいろはありがたいです」

　こちらはシャロちゃん。
　やっぱり冬ふゆは女おんなの子この天敵てんてきだ。

　魔道まどう式しき懐炉かいろは簡単かんたんだ。
　人間にんげんの魔力まりょく及および魔石ませきの蓄積ちくせきされた魔力まりょくを使つかって温あたためる。

　火ひ属性ぞくせいの適性てきせいがない人ひとでも、自分じぶんの魔力まりょくを変換へんかんして熱ねつを得えることができるのだ。
　しかし魔力まりょくが少すくない人ひともいる。

　だから二に種類しゅるいの商品しょうひんラインナップline-upがある。
　一ひとつは半分はんぶん程度ていどは自分じぶんの魔力まりょくを使つかい温あたためるタイプtype。
　もう一ひとつは人間にんげんからほんのちょっと魔力まりょくを吸収きゅうしゅうすると、それを呼よび水みずに魔石ませきの魔力まりょくを使つかって温あたためるタイプtype。

　前者ぜんしゃは半分はんぶんの魔石ませきで済すむので、お値段ねだんとランニングrunningコストcostも半分はんぶんで済すむ。
　後者こうしゃは魔石ませきの力ちからに頼たよっているので、燃費ねんぴが悪わるい。

　庶民しょみんでもそこそこの魔力まりょくを持もつのに使つかっていない宝たからの持もち腐ぐされの人ひとがかなりの数かずいる。
　だからどちらの顧客こきゃくも重要じゅうようで、両方りょうほうを売うるのだ。

「いらっしゃいませ」

「懐炉かいろ、懐炉かいろ、魔道まどう懐炉かいろいかがでしょうか」

　売うり込こみも始はじめた。

　最近さいきん、一応いちおうは調薬ちょうやく店てんなんだけど、魔道まどう具ぐのほうに力ちからを入いれ始はじめている。
　魔道まどう具ぐは魔道まどう具ぐ師しという人ひとが本来ほんらいは専門せんもんなのだけど、その素材そざいには錬金術れんきんじゅつが必須ひっすだったりするので、魔道まどう具ぐ師しと錬金術師れんきんじゅつしは親戚しんせきみたいなものなのだ。

「この魔道まどう懐炉かいろいいね、軽かるくて小ちいさいね。ひとつください」
「ありがとうございます」

　自己じこ魔力まりょくのほうが銀貨ぎんか四よん枚まい。
　魔石ませきの懐炉かいろのほうが銀貨ぎんか六ろく枚まいのお値段ねだんです。

　湯ゆたんぽはお湯ゆが入はいっているので、大おおきいし重おもい。
　魔道まどう懐炉かいろなら昼間ひるまの携帯性けいたいせいも抜群ばつぐんだ。
　間違まちがって水みずをこぼしたりしないし、長時間ちょうじかん使つかえる。

「はい。温度おんどもそこまで熱あつくならなくて、快適かいてきですよ」
「ほほーん。いいねえ」

　湯ゆたんぽは最初さいしょ熱あつくて布ぬのでくるんだりする必要ひつようがあるけど、魔道まどう懐炉かいろも一応いちおうは布ぬので覆おおうけど、必須ひっすではない。

「こちらはどうでしょうか。エアairコンcon-　ditionerの魔道まどう具ぐです。周囲しゅういに空気くうきのバリアbarrierを張はり寒さむさや暑あつさをはじきます」
「んんん、でも、お値段ねだんがね」
「そ、そうですね」

　えへへ。ついでとばかりに数個すうこだけエアairコンcon-　ditionerの魔道まどう具ぐを作つくった。
　防御ぼうぎょ魔法まほうの応用おうよう品ひんだ。
　正直しょうじきに言いえば、魔力まりょくをかなり消費しょうひするため、燃費ねんぴが悪わるく高たかい。
　まああれだな、お貴族きぞく様さま用ようだ。馬車ばしゃとかに使つかうとよい。
　あとこれは夏なつも使つかえる。

　お値段ねだんは、あ、うん。
　金貨きんか十五じゅうご枚まい。

　装置そうちは十じゅっセンチ[centi-　meter]角かくくらいで、高価こうかな大粒おおつぶの風かぜ属性ぞくせい魔石ませきが六ろっ個こ並ならんでいる。
　これでチャージchargeなしで一いっ週間しゅうかんの連続れんぞく運転うんてんができる。
　人間にんげんが手てを翳【かざ】して魔力まりょくをチャージchargeできるなら、何回なんかいでも使つかえるけれど、魔力まりょく量りょうが多おおい人ひとでないと無理むりだと思おもう。
　ここまで魔力まりょくが多おおい人ひとは十五じゅうご人にんにひとりぐらいかな、たぶん。
　そうでない人ひとは、予備よびの魔石ませきを持もち歩あるく必要ひつようがあるが、大粒おおつぶの魔石ませきは高たかいのだ。

　こっちは完全かんぜんに趣味しゅみだね、あーはーはー。


「ホットhotポーションpotionもはじめました」

　そうそう錬金術れんきんじゅつ店てんであるからして、本業ほんぎょうのポーションpotionもある。
　体内たいないの魔力まりょくを使つかって内側うちがわから温あたためてくれる優すぐれ物ものだ。
　これを飲のむとすぐに中なかからポカポカしてきて五ご時間じかんくらい継続けいぞくする。
　懐炉かいろはその部分ぶぶんしか暖あたたかくないけど、これなら全身ぜんしん温あたたまる。

　冒険者ぼうけんしゃや外そとの仕事しごとの人ひとにおすすめです。
　ただポーションpotionは使つかい切きりだから、コスcostパperfor-　manceはあんまり良よくない。
　それでも寒さむさは狩かりの天敵てんてきで体からだが思おもうように動うごかなくなる。
　背せに腹はらは代かえられないので、需要じゅようは高たかい。
　一ひとつ銀貨ぎんか二に枚まいです。


　話はなしを戻もどして懐炉かいろだ。
　懐炉かいろはそれなりに長時間ちょうじかん使つかえるし、コストcostパフォーperfor-マンスmanceは高たかいので、庶民しょみんには是非ぜひにこの機会きかいにご活用かつようを。

　あったかぽかぽか、携帯けいたい用よう魔道まどう式しき懐炉かいろだよ。

　お値段ねだん銀貨ぎんか六ろく枚まい。
　魔道まどう具ぐとしては安やすいと思おもうよ。おひとつ、どうですか。

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