●６１ 魔道まどう式しき懐中かいちゅう時計どけいだよ

　世よの中なかには、教会きょうかいの鐘かねが定刻ていこく通どおりに鳴なることから分わかるように、時計とけいというものが存在そんざいしている。
　時計とけいそのものには、機械式きかいしきと魔石ませき駆動くどうによる魔道具まどうぐのものがある。

「ミレーユさん何なにしてるんですか」
「えっとね、暇ひまな時間じかんに私わたしは、時計とけいを作つくります」
「「時計とけい！！」」
「そう、時計とけい」
「すごいです」

　お店みせには現在げんざい余裕よゆうがあるし、かなりのものをシャロちゃんに任まかせることができようになってきた。
　だから少すこし私わたしの作業さぎょうに空あき時間じかんがあった。
　それから日曜日にちようびはお休やすみなので、まるまる空あいているときもあるのだ。

　そういう時間じかんを使つかって、魔道具まどうぐである魔道式まどうしき懐中かいちゅう時計どけいを作つくろうと思おもう。

　まず魔石ませきは普通ふつうの魔石ませきだ。これは属性ぞくせいとかがない無属性むぞくせいのもの。
　スライムslimeをはじめ、ほとんどの魔物まものの魔石ませきは無む属性ぞくせいが多おおい。
　ファイアfireドレイクdrakeなど、少数しょうすうの魔物まものが最初さいしょから属性ぞくせいのある魔石ませきを産出さんしゅつする。
　あとは魔法陣まほうじんにより属性ぞくせいを与あたえるか、魔力まりょくを浸透しんとうさせることによって、属性ぞくせいの魔石ませきに変換へんかんすることができる。
　こういう魔石ませきの属性ぞくせい変換へんかんの作業さぎょうを専門せんもんにしている業者ぎょうしゃの人ひともいる。
　一度いちど、属性ぞくせいに染そまった魔石ませきを他ほかの属性ぞくせいにするのはかなり難むずかしいので、普通ふつうは無む属性ぞくせいからしか変換へんかんはしない。
　この魔石ませきの属性ぞくせいの染そめ上あげは、私わたしも頑張がんばれば一応いちおうできる。

　とにかく、懐中かいちゅう時計どけいには無む属性ぞくせいの魔力まりょくをそのまま使つかう。
　魔法陣まほうじんに運動うんどうエネルギー[energy]を一定いってい値ちで取とり出だすように指示しじを書かき込こむ。
　こうして心臓しんぞう部分ぶぶんは完成かんせいだ。

　ここで重要じゅうようなのは「一定いってい値ち」というところ。
　寸分すんぷんたがわず、一緒いっしょの量りょうでないといけないので、魔法陣まほうじんを書かくのには気きを使つかった。

　魔石ませきからのエネルギー[energy]を魔法陣まほうじんで第一だいいちの歯車はぐるまに伝つたえる。
　これを歯車はぐるまを何個なんこか組くみ合あわせて、秒針びょうしん、長針ちょうしん、短針たんしんの回転かいてん数すうを作つくる。
　それから、時刻じこく調整ちょうせい用ようの空転くうてんする部分ぶぶんに、一定いってい以上いじょうの力ちからを加くわえると強制的きょうせいてきに回まわる部分ぶぶんを付つける。
　これで時刻じこく調整ちょうせいもできる。

　錬金術れんきんじゅつの賜物たまもの、夜間やかんにうっすらと光ひかるように光ひかり属性ぞくせいの魔石ませきを溶とかし込こんだ溶液ようえきに文字盤もじばんを浸ひたして、文字もじが浮うかび上あがるようにする。

　それから金属きんぞく製せいの外装がいそうをシンプルsimpleに作成さくせいして、最後さいごにガラスglass板いたをはめ込こめば、ほら、完成かんせい。
　ガラスglassは簡単かんたんには割われないように、錬金術れんきんじゅつで強化きょうかガラスglassにしてある。

「魔道まどう式しき、懐中かいちゅう時計どけいの完成かんせいです」
「「おおぉおぉ」」
「できました」

　ぱちぱちぱち。

　組くみ立たて終おわり、拍手はくしゅをもらった。

　ここに来くるまでは、ちょっと長ながかった。
　細こまかなヤスリや、ネジと呼よばれる部品ぶひんを作つくったり、もちろん歯車はぐるまを作つくる作業さぎょうもいる。
　部品ぶひん点数てんすうは完全かんぜん機械きかい式しきにくらべれば半分はんぶん程度ていどぐらいにはシンプルなのだけれど、それでも少すくなくはない。

　機械きかい式しきは毎日まいにち板いたバネを巻まかなければいけないし、時間じかんが狂くるいやすい。
　それに対たいして、魔道まどう式しきは作つくれる人ひとが極端きょくたんに少すくないこともあって、非常ひじょうに高価こうかだ。
　その代かわり魔道まどう式しきは魔法陣まほうじんさえ狂くるっていなければ、すごく正確せいかくに時ときを刻きざむ。
　また携帯けいたいしている人物じんぶつから魔法陣まほうじんと魔石ませきが魔力まりょくを吸すい出だして充填じゅうてんするため、携帯けいたいさえしていれば、半永久的はんえいきゅうてきに時ときを刻きざむ。
　ずっと放置ほうちするとその限かぎりではないけれど、内部ないぶの魔石ませきの交換こうかんも不要ふようだ。
　魔力まりょくスイッチswitch式しきではないので、魔力まりょくを注そそげない人ひとも使つかえる。

　私わたしも自分じぶん用ように一ひとつ持もち歩あるいている以外いがい、予備よびもなかった。
　今回こんかいは頑張がんばって一度いちどに十じゅっ個こ、生産せいさんしました。

　日ひごろお世話せわになっているマリーちゃん、シャロちゃん、メイラさん、ボロランさんにあげるとしたら、残のこり売うれるのは六ろっ個こだけだね。

　お値段ねだん、びっくり。
　金貨きんか十じゅう枚まい。

　日曜日にちようびを何回なんかいも使つかったし、他ほかの休憩きゅうけい時間じかんもかなり作業さぎょうしたので、これくらいはする。
　村むらではもっと安やすくて、便利べんりなのでほとんどの人ひとが一いっ個こくらいは持もっていた。
　丈夫じょうぶなので、代々だいだい受うけ継つがれている家いえもあった。
　王都おうとでは他ほかのお店みせでも金貨きんか十五じゅうご枚まいぐらいらしいので、これでも安やすいんだそうだ。

　マリーちゃんとシャロちゃんにあげたら、よろこんでくれた。

「ミレーユさん、時計とけい、ありがとうございます。感動かんどうです」
「ミレーユさん、ありがとうございます。うれしいです」

　メホリック商業しょうぎょうギルドguildのボロランさんには、偶たまに来くる御用聞ごようききの人ひとに渡わたしておいた。
　気きに入いってくれるだろうか。

　メイラさんに会あいに行いく。

「おお、ミレーユさん」
「メイラさん、数かずは少すくないですけど、魔道まどう式しき懐中かいちゅう時計どけいです」
「おお、これはすごい。王都おうとでも、高級こうきゅうな専門店せんもんてんが一ひとつあるくらいで、あとはほとんどオーダーorderメイドmaidとかそういうレベルlevelだな。ホーランドにはいないね」
「そうなんですか」
「ああ」
「メイラさんにも一ひとつあげますね」
「すまない。つつしんで、ちょうだいします。ありがとうございます」
「いえいえ、それで十じゅっ個こ生産せいさんしたんですけど、残のこりが六ろっ個こなんですよね」
「わかった。こちらで三みっつ売うってみよう。そちらでも三みっつでいいかな？」
「はい」

　ということで、お店みせの隅すみのショーケースshowcaseに三みっつ置おかれている。
　この入いれ物ものは、文字盤もじばんのカバーcoverでも使つかった錬金術れんきんじゅつの強化きょうかケースglassのケースcaseにしまってある。
　こそ泥どろはいかんぜよ。

　とにかくまあ、まだ売うれていないけれど、売うり切きれるのは時間じかんの問題もんだいだろう。

　だって紳士しんしが五ご人にん、すでにケースcaseの前まえにいて、必死ひっしにジャンケンをしている。
　五人にんのうち三さん人にんが勝かてば、その人ひとが買かえるということに、いつの間まにかなっていた。

　頑張がんばって勝かって、買かってくださいね。

　ちなみに追加ついか生産せいさんは時間じかんも掛かかることもあり、予定よていされていないので、限定げんてい販売はんばいです。

　ごめんね。
　また時間じかんがあったら作つくるね。

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