●５７ 名誉めいよ女じょ男爵だんしゃくだよ

　あれから三さんか月げつ。
　錬金術れんきんじゅつ店てんは落おち着つきを取とり戻もどして、なんとか黒字くろじ経営けいえいで運営うんえいもやっている。

　黒くろ塗ぬりの馬車ばしゃが錬金術れんきんじゅつ店てんの前まえに停とまる。
　うちにまた執事しつじみたいな人ひとがやってきた。

「お手紙てがみをお持もちしました」

「はいはーい」

　そこには私わたしを名誉めいよ女男爵じょだんしゃくに認定にんていすると書かかれていた。
　爵位しゃくいの進呈しんていは王家おうけのみがおこなえる。
　騎士きし爵しゃくナイトknightなら各かく領地りょうちの貴族きぞくが与あたえることができるけど、それとは明あきらかな差さがある。

　それから支度したく金きん。少すくなくない金貨きんかが入はいっていた。
　ドレスdressを仕立したてろということだろう。

　前回ぜんかいの三さん等とう市民しみん勲章くんしょうのときはメイドmaid服ふくだったんだっけ。
　さすがに王様おうさまとメイドmaid服ふくというわけにはいかないか。

　こういうの好すきだけど面倒めんどうなんだよね。

　服ふく屋やさんに行いって、ドレスdressを作つくった。
　色いろは勧すすめられるがまま薄うすピンクpink。
　若わかい淑女しゅくじょにぴったりの令嬢れいじょうっぽいやつ。

　当日とうじつにあっという間まになった。
　このドレスdressを着きて、今回こんかいはシャロちゃんとマリーちゃんも連つれて、王宮おうきゅうに向むかう。
　二人ふたりはお付つきなのでメイドmaid服ふくでいいんだって。

　なにそれずるい。

　とにかく認定にんてい式しきが始はじまった。
　赤あかい絨毯【じゅうたん】は標準ひょうじゅん装備そうび。
　王様おうさまも金きんの刺繍【ししゅう】の入はいった豪華ごうかな衣装いしょうだ。

「ミレーユ・バリスタット嬢じょうを、トラスティア王国おうこく名誉めいよ女じょ男爵だんしゃくに認定にんていする」

　拍手はくしゅが沸わき起おこる。
　知しり合あいはみんないる。

　そうそうメホリックのワンoneツーtwoであるゲイドルドさんとバーモントさんは失脚しっきゃくして、引退いんたいを余儀よぎなくされた。
　首くびが飛とばなかっただけでも、王様おうさまは優やさしいんだそうだ。

　今いまはボロランさんが暫定ざんていで事実じじつ上じょうのトップtopをしている。とても忙いそがしいと聞きく。
　メイラさんは相変あいかわらず女性じょせいなのをものともせず敏腕びんわんでブイブイ言いわせている。

　うちはシャロちゃんとマリーちゃんがいるから大丈夫だいじょうぶ。
　彼女かのじょたちにも拍手はくしゅと笑顔えがおをたくさんもらった。

　前回ぜんかいは食事しょくじ会かいだったけど、今回こんかいは晩餐会【ばんさんかい】だ。
　それもダンスdanceのあるタイプtype。

「ミレーユ嬢じょう、お美うつくしい……ぜひダンスdanceを」

　うっひょっひょ。
　貴族きぞくの人ひともたくさん参加さんかしていて、私わたしをダンスdanceに誘さそってくる。
　なるべく回避かいひしつつ、どうしてもという場合ばあいには、へっぽこダンスdanceを踊おどったよ。ちくせう。

　合間あいまに美味おいしい料理りょうりもいただいた。
　お肉にくは美味おいしいし、チーズcheeseもサラダsaladもデザートdessertも、なんでも最上級さいじょうきゅうだ。

　ダンスdanceを回避かいひした分ぶん、めちゃくちゃ食たべた。
　お腹なかはもうぽんぽこぽん。
　コルセットcorsetがなければ倍ばいは食たべられたのに。
　この服ふくは理不尽りふじんだ。

　私わたしが着飾きかざっても、いいことなんかないのに。

　テラスterraceに逃にげてきたら、王様おうさまがいた。
　ワインwineグラスgrassを片手かたてに、庭にわを見みていた。ユグドラシルYggdrasilの木き、世界せかい樹じゅだ。

　グラスgrassを軽かるく上あげて挨拶あいさつしてくる。
　私わたしは頭あたまを下さげて、返礼へんれいをする。

「ミレーユ男爵だんしゃく、どうだね？」
「どうと言いわれましても」
「今いまは名誉めいよ女じょ男爵だんしゃくだが、上うえを目指めざさないか。伯爵はくしゃくくらい」
「はあ？　伯爵はくしゃく？」
「そうだ。ホラを吹ふく趣味しゅみはない。本当ほんとうだ」
「私わたしなんかに」

　王様おうさまはふっと軽かるく笑わらう。

「綺麗きれいな金髪きんぱつ、ちょっと尖とがった耳みみ。ワシには分わかる。最初さいしょ信しんじがたかったが、それは」
「あ、はい」

　私わたしは観念かんねんする。ばれてーら。
　さすがに王族おうぞくなら知しってるか。

「エルフelf様さまの末裔【まつえい】、ですね」
「おそらく」

　王様おうさまが恭うやうやしく右手みぎてを乙おつ字じにして礼れいをしてくる。

「その能力のうりょくも素晴すばらしいが、その血ちも捨すてがたい。見みつけてしまった宝石ほうせきを、野のに放はなったまま、放はなっておくことがワシはできない立場たちばだ」
「そうですか」
「しかし、本人ほんにんの意向いこうは優先ゆうせんしていい。好すきに生いきていい」
「ありがとうございます」

　王様おうさまは分わかっていて、なお、寛容かんようだった。
　大変たいへんありがたい。

「とりあえずは、当分とうぶんは今いまの女おんなの子こ三さん人にん生活せいかつを満喫まんきつします」
「そうしてくれ」

　まだこれから先さき、なにが待まっているか分わからないけど、錬金術れんきんじゅつ店てんは続つづけられそうだ。
　今いまの生活せいかつに不満ふまんはない。
　マリーちゃんとシャロちゃんは、可愛かわいいし、大好だいすきだし。

　ボロランさんとメイラさんにはよくしてもらっている。

「では、先さきに失礼しつれいする」
「はい、では」

　王様おうさまは行いってしまった。顔かおは悪戯いたずら小僧こぞうみたいに笑わらっていた。
　他者たしゃに秘密ひみつを隠かくしていて、それを共有きょうゆうしているのを楽たのしむときの顔かおだ。

　テラスterraceでひとりになる。

「今いまの自分じぶんに、乾杯かんぱい」

　私わたしも一人ひとりで乾杯かんぱいする。
　王都おうとに出でてきて最初さいしょは不安ふあんだったけど、この先さきもこの都市としで生活せいかつできそうだ。


　馬車ばしゃで送おくってもらい、錬金術れんきんじゅつ店てんに戻もどってきて、シャロちゃんとベッドbedで眠ねむる。
　やっぱり女おんなの子こ同士どうしの世界せかいは最高さいこうだなぁ。

　やっと重苦おもくるしいものが終おわり、いい気分きぶんで眠ねむることができた。

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