●５４ 流行はやり病やまいだよ

　そんな順調じゅんちょうだったある日ひ、私わたしのところにヘルプhelpの依頼いらいがきた。
　メホリック商業しょうぎょうギルドguildのボロランさんだ。

　あの紳士しんしが自みずから来くるのは、最近さいきんでは珍めずらしい。

「ミレーユ嬢じょう、すまない。うちの系列けいれつの病院びょういんで謎なぞの高熱こうねつの病気びょうきが出でたのです」

　体温計たいおんけいはこの世界せかいには、病院びょういんとかには一応いちおうある。

「既存きぞんのポーションpotionでは症状しょうじょうを抑おさえる程度ていどで、根本こんぽん的てきには効きかないらしい」
「ふむ」
「すでに三さん人にん、死亡しぼう者しゃが出でた。患者かんじゃ数すうは全部ぜんぶでまだ二に十じゅう人にんぐらいだけど、毎日まいにち増ふえていてな」
「それは不味まずそうですね」
「そうなんですよ。一度いちど、見みてもらえまいか」
「いいですよ」

　私わたしミレーユ、ポム、ボロランさんが連つれ立だって、メホリックの系列けいれつ病院びょういんに到着とうちゃくする。
　そこには患者かんじゃたちが、ベッドbedに寝ねかされていた。

　医師いしが状況じょうきょうを説明せつめいしてくれたが、ボロランさんの説明せつめいとほとんど同おなじだった。

「この病気びょうきはうちが指定してい病院びょういんになったんだ。ババラン病院びょういんから、中ちゅう上級じょうきゅうポーションpotionを回まわしてもらっている。一時いちじ的てきに熱ねつが下さがったり改善かいぜんされたりするが、もたない人ひともいる」

　医師いしが悲痛ひつうな表情ひょうじょうで訴うったえる。

「さらに上うえのポーションpotionがあれば、例たとえば幻まぼろしと言いわれている『特級とっきゅうポーションpotion』とか……」
「ああ、そうですよね」

　特級とっきゅうポーションpotionか、材料ざいりょうはほとんど揃そろっている。
　うちのユグドラシルYggdrasilの木きは、まだ小ちいさい。葉はっぱを採とってもポーションpotion二に本ほんぶんくらいか。
　そうなるとメホリック商業しょうぎょうギルドguildのユグドラシルYggdrasilの木きがついに、必要ひつようになる。

　患者かんじゃの様子ようすも見みてみる。

「う、うう、錬金術れんきんじゅつ師し様さま、ぽ、ポーションpotionを……」
「ええ」

　患者かんじゃには触さわらない。
　腕うでや顔かおなどに、発疹【はっしん】が出でている。赤あかい虫むし刺さされのような跡あとだ。
　そして高熱こうねつが数すう日じつ続つづく病気びょうき。

　医師いしと再ふたたび会話かいわする。

「これは『赤紋病〔せきもんびょう〕』ですね。赤あかい目めみたいな発疹はっしんができるから」
「ミレーユ嬢じょう、なるほど。それで？」
「これは接触せっしょく感染かんせんなんです。普通ふつうの風邪かぜは空気くうき感染かんせんといって空気くうきの中なかに病気びょうきの元もとが飛とんでいたりするんですけど、これは患者かんじゃと触ふれ合あったり、患者かんじゃが触さわった場所ばしょを他ほかの人ひとが触さわると発病はつびょうしやすいんです」
「なんと」
「感染かんせん予防よぼうには、手洗てあらいうがいです。それを徹底てっていさせてください。ボロランさんも。ホーランドと協力きょうりょくして、広ひろめてください。病気びょうきになりたくなかったら、手洗てあらいうがいだと」
「分わかった」
「ワシも分わかりましたぞ」

「ボロランさん、うちで特級とっきゅうポーションpotion、試作しさくしてみます。それでできたら、材料ざいりょうを集あつめてください」
「分わかった」



　病院びょういんをボロランさんと後あとにして、錬金術れんきんじゅつ店てん兼けん家いえに戻もどってくる。

「みんな、今いまから特級とっきゅうポーションpotionを作つくります」
「あ、はい」
「先生せんせい、本当ほんとうですか」
「うん」

　材料ざいりょうはある。以前いぜん夏なつの湖みずうみで採とってきたアル草そう。
　ホーランド商業しょうぎょうギルドguild経由けいゆで買かった、ちょっとお高たかい乾燥かんそう　▼メルド草そう。
　下しも処理しょりには代だい用品ようひんだけどボブベリーも使つかう。
　さらに、魔力まりょくの実み。
　そして、ユグドラシルYggdrasilの葉はっぱ。

　庭にわのまだ小ちいさいユグドラシルYggdrasilの木きから葉はっぱを採とる。

「ごめんね。少すこし葉はっぱをください」

　そうしてなるべく古ふるそうな下したの葉はっぱを中心ちゅうしんに十じゅう枚まいほど収穫しゅうかくした。
　もっと採とったら枯かれてしまうかもしれない。


　これらを秘伝ひでんの手順てじゅん、方法ほうほうで、魔力まりょくを通とおしつつ抽出ちゅうしゅつして混まぜていく。
　もちろん弟子でしであるシャロちゃんと、専属せんぞくメイドmaidのマリーちゃんにも手順てじゅんを見みせる。
　ポムも応援おうえんしてくれる。

「きゅっきゅっ」

　そんなポムを撫なでると、気分きぶんが少すこし落おち着きてきた。これなら集中しゅうちゅうして作業さぎょうをできそうだ。

　全ぜん工程こうていを終おえると、赤あかい色いろの液体えきたいが出来上できあがっていた。

「ふう。これで、完成かんせい」

　普通ふつうのヒーリングhealingポーションpotionが緑みどり、青あお系統けいとうの色いろなのと比くらべて異様いようだ。
　でもこの赤あかいのが特級とっきゅうポーションpotionの特徴とくちょうといえる。

「これが特級とっきゅうポーションpotion」

　みんなそれをじっと見みている。
　含有がんゆう魔力まりょく量りょうはかなりになる。

　問題もんだいはこれが効きくかどうか、まだ不明ふめいということだ。
　完成かんせい品ひんは分わけて、二に本ほん分ぶん。

　メホリック系列けいれつ病院びょういんに行いき、患者かんじゃのうち重症じゅうしょうそうな人ひとに飲のませてみる。

「うっ、ポーションpotion」

　次第しだいに顔色かおいろが良よくなっていき、赤あかい斑点【はんてん】も薄うすくなり、そして消きえた。
　熱ねつも下さがったようで、測はかったら平熱へいねつだった。

「すごい錬金術れんきんじゅつ師し様さま、ありがとうございます」
「ふむ、さすが特級とっきゅうポーションpotionです」

　医師いしもその効果こうかに驚おどろいている。

　とにかくこうして、特級とっきゅうポーションpotionが効きくことが証明しょうめいされた。
　しかし患者かんじゃはまだまだたくさんいる。

トップページに戻る この作品ページに戻る

感想を読む