●５２ 三さん等とう市民しみん勲章くんしょうだよ

　午後ごごのお店みせをのんべんだらりとして、開ひらいていたら、黒くろ塗ぬりの立派りっぱな馬車ばしゃがお店みせの前まえに停とまった。

「何なにあれ」
「さあ」

　シャロちゃんにも分わからないのかな。
　じっと見みていたら中なかから紳士しんし帽ぼうを被かぶった人ひとが杖つえをついて出でてきた。

　そのまま中なかに入はいってくる。思考しこうを切きり替かえだ。モードmodeチェンジchange、接客せっきゃくスタイルstyle。

「いらっしゃいませ。ようこそ、ミレーユ錬金術れんきんじゅつ調薬ちょうやく店てんへ」
「ふむ」
「何なにをお求もとめですか」
「収納しゅうのうのリュックサックrucksackというのが便利べんりらしいな」
「す、すみません。ただいま材料ざいりょう切ぎれで在庫ざいこなしとなっていまして」

　この前まえから在庫ざいこは一切いっさいない。自分じぶんたちのぶんはあるけど、あれは売うり物ものではない。貴族きぞく様さまでどうしてもで、圧力あつりょくかけてくるなら自分じぶんの予備よびを出だそう。悔くやしいけどね。
　何なにを言いわれるのか、冷ひや汗あせものだ。

「やはりそうか、なにただの確認かくにんだよ。そう構かまえなくても大丈夫だいじょうぶ」
「そうですか」

　ふう、よかった。

「君きみがミレーユかね？　それともそっちかな？」
「あ、私わたしです」

　同おなじメイドmaid服ふく着きてるからよく間違まちがえられるんだよね。マリーちゃんにとばっちりが行いく前まえに自分じぶんで名乗なのる。

「市長しちょうからの招待しょうたい状じょうを預あずかっている。一いっ週間しゅうかん後ご、市庁舎しちょうしゃへ来きなさい」
「え、どういう？」
「三さん等とう市民しみん勲章くんしょうだ。おめでとう」
「あ、ありがとうございます？」

　ごめんなさい。よく意味いみが分わからないです。
　おじさんは招待しょうたい状じょうを手渡てわたして帰かえっていった。

　招待しょうたい状じょうによれば、私わたしには三さん等とう市民しみん勲章くんしょうという勲章くんしょうが貰もらえるらしい。
　一般いっぱん市民しみんが貰もらえる勲章くんしょうは一等いっとうが一番いちばん上じょうで三さん等とうが一番いちばん低ひくいみたい。
　どうやら今いままでの医療いりょうへの貢献こうけん、この前まえの火事かじ現場げんばでの無償むしょう奉仕ほうしなどが決きめ手てになったようだ。
　そもそも十じゅう三さん歳さいですぐに貰もらえる事こと自体じたいが異例いれいなんだと、ホーランドのメイラさんが言いっていた。

　普通ふつうはドレスdressで行いくのが通例つうれいなんだけど、私わたしはメイドmaid服ふくでいいんだって。
　ドレスdressがよかったけど、一いち週間しゅうかんで仕立したててもらう特急とっきゅう料金りょうきんなんか当然とうぜん払はらえないので、渋々しぶしぶメイドmaid服ふくで行いこう。
　とほほ。すっかりメイドmaid服ふくが制服せいふくになっちゃったな。
　お金かねが掛かからないのはいいけど、本当ほんとうにそれだけだよね。

　授与じゅよ式しき当日とうじつの午前ごぜん中ちゅう。お店みせで待まっていたらこの前まえの黒くろ塗ぬりの馬車ばしゃが横付よこづけされてきた。
　御者ぎょしゃが降おりてきて、お店みせに入はいってきたので、その案内あんないに従したがって馬車ばしゃに乗のる。
　私わたし、シャロちゃん、マリーちゃんと乗のせてくれたら出発しゅっぱつした。

　王都おうとの道みちを豪華ごうかな馬車ばしゃに乗のって走はしる日ひが来くるとはね。
　車窓しゃそうを眺ながめながら、進すすんでいく。
　そして中央ちゅうおうの例れいの噴水ふんすい広場ひろばまでくると、その正面しょうめんにある建物たてものの前まえで停とまった。
　ここが市庁舎しちょうしゃだった。

　御者ぎょしゃの人ひとはそのままで、市庁舎しちょうしゃから担当たんとうの人ひとが出でてきて降おりるのを補助ほじょしてくれる。
　そのまま中なかに案内あんないされた。

　手前てまえの事務じむスペースspaceを無視むしして奥おくに進すすんでいく。
　床ゆかが赤あかい絨毯【じゅうたん】敷しきになった。
　廊下ろうかを折おれて左ひだりの部屋へやに入はいっていく。

　部屋へやの中なかにはすでに、ホーランド商業しょうぎょうギルドguildのホーランド親子おやこ、それから知しらない人ひと。
　メホリック商業しょうぎょうギルドguildもボロランさんと他ほか二人ふたり。どちらかがバーモントさんだろう。おそらくあまりうれしくなさそうな顔かおをしているほうだろうか。
　それから恐おそらく冒険ぼうけん者しゃギルドguildの偉えらそうな人ひとが三さん人にん。
　あ、あとはですね。背せの高たかい魔術まじゅつ師し部隊ぶたいの隊長たいちょうとお伴ともが二人ふたり。
　なるほど、なるほど。

「ミレーユさんたちがご到着とうちゃくだね」

　ホーランドのおじさんだ。会あうのは初はじめてだけど知しっているらしい。

「こんにちは」
「はい、こんにちは」

　他ほかの人ひととも挨拶あいさつを交かわす。
　あとは自分じぶんたちとホーランドのメイラさんとかと話はなしを少すこししていたら、時間じかんのようだ。

　入口いりぐちから恰幅かっぷくのいいおじさんが入はいってきた。
　胸むねのところには勲章くんしょうがついている偉えらそうな感かんじの人ひとだ。

　そして、ホーランドと冒険ぼうけん者しゃギルドguildは左側ひだりがわ、メホリックと魔術まじゅつ師し部隊ぶたいは右側みぎがわに整列せいれつした。
　マリーちゃんと、シャロちゃんも左右さゆうに分わかれて末席まっせきに並ならぶ。

　そして私わたしが指示しじされたのは一番いちばん通路つうろ側がわの真まん中なか真正面まっしょうめん。
　恰幅かっぷくのいいおじさんが正面しょうめんの奥おくにこちらを向むいて、向むかい合あった。

「私わたしは市長しちょうの　▼アルデバランだ。よろしく頼たのむ」
「はいっ」
「うむ、いい返事へんじだ。では、今いまから授与じゅよ式しきを始はじめる」

　お、始はじまっちゃった。さすがに緊張きんちょうする。

「ミレーユ・バリスタット嬢じょう。前まえへ」
「はいっ」

　市長しちょうとの間あいだはちょっと空あいているので、歩あるいて正面しょうめんまで移動いどうする。

「貴女きじょは、名誉めいよある市民しみんとして、医療いりょうの発展はってんに尽力じんりょくし、またこのたびの火事かじに置おいて、迅速じんそくなポーションpotionの配布はいふを無償むしょうで行おこない、死亡しぼう者しゃを出ださずに治療ちりょうを行おこなった功績こうせきをここに称たたえ、三さん等とう市民しみん勲章くんしょうを授与じゅよするものである。市長しちょうアルデバラン・ミッケンロッテ伯爵はくしゃく。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」

　市長しちょうから勲章くんしょうをいただく。
　二に重じゅう丸まるに八はち方向ほうこうに光ひかりが広ひろがっているような意匠いしょうの勲章くんしょうだった。それを首くびに掛かけてもらう。

　ぱちぱちぱちぱち。

　参加さんか者しゃ、そして市庁舎しちょうしゃの職員しょくいんのうち後うしろで見みている人ひとが一緒いっしょに拍手はくしゅをしてくれる。

「あーごほん。なお、副賞ふくしょうとして金貨きんか十じゅう五ご枚まいを進呈しんていします」
「こちらも、ありがとうございます」

　ぺこぺこして、金貨きんかの袋ふくろを受うけ取とる。
　ちょろっと中なかを確認かくにんすると、金貨きんかは収納しゅうのうのリュックruckを売うるときにも受うけ取とったけど、金色きんいろに光ひかっていて、とても綺麗きれいだ。

　ぱちぱちぱちぱち。

　再度さいど拍手はくしゅを受うけた。

「さて、式しきそのものはこれで終おわりだが、食事しょくじを用意よういしてある。是非ぜひご一緒いっしょください」
「あ、はい」

　これは招待しょうたい状じょうにも書かいてあったので、すんなりみんなで食事しょくじをする。
　でもすぐ近ちかくに伯爵はくしゃくとかいう貴族きぞく様さまと一緒いっしょに食事しょくじなんて、緊張きんちょうしちゃう。

　内容ないようはコースcourse料理りょうりだった。
　白しろパン[bread]は一緒いっしょに出でてきていた。いつ食たべてもいいみたい。
　お通とおしみたいなもの、野菜やさいの前菜ぜんさい、スープsoup、お魚さかな、サラダsalad、お肉にく、それからデザートdessertだ。
　透すき通とおったコンソメconsommeスープsoup。お魚さかなはイカリナのフライfry。お肉にくはおおぅ、牛肉ぎゅうにくのフィレfilletステーキsteak。
　デザートdessertはオレンジorange果汁かじゅうを氷こおり魔法まほうで固かためた、オレンジorangeシャーベットsherbetだった。
　なるほどそれなりに豪華ごうかだ。

　美味おいしいご飯はんを頂いただいて、ほくほく顔かおで帰かえりましたとさ。
　お店みせはちょっとお休やすみをいただきました。みなさんごめんなさい。

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