●４ 風かぜ精霊せいれいの宿やどり木ぎ亭ていだよ

　宿やどは表通おもてどおりの立派りっぱなところではなく、通とおりを二本にほん入はいった場所ばしょにある、こぢんまりとした『風かぜ精霊せいれいの宿やどり木ぎ亭てい』というお店みせにした。
　王都おうとの相場そうばはよく分わからないけど、今いままで通過つうかした宿やどよりもちょっと高たかい。
　それなのに部屋へやは一人ひとり部屋べやだと、かなり狭せまく感かんじた。
　大おおきな魔獣まじゅうとかだと一緒いっしょに泊とまれないけど、スライムslimeくらいなら一緒いっしょに寝泊ねとまりしても大丈夫だいじょうぶだった。

　パン[bread]とコンソメconsomme風ふうスープsoupだけの質素しっそなお夕飯ゆうはんをいただき、部屋へやで寝ねる。
　ポムはベッドbedの上うえというか、私わたしの上うえに乗のっかって寝ねるのが好すきみたい。

「色々いろいろあって疲つかれたね」
「きゅぅ、きゅ」
「そうだよね。では、おやすみなさい」

　ロウソク代だいがもったいないので、完全かんぜんに空そらが暗くらくなる前まえに寝ねるのがこの国くにでは一般的いっぱんてきだ。
　節約せつやく、節約せつやく。それにロウソクの火ひで火事かじになるのも怖こわいんだ。
　はい、おやすみなさい。

　ポムの重おもさもなんだか、心地ここちいい。昔むかしよりちょっと太ふとった、いや成長せいちょうしたみたいだね。



　朝あさになった。早はやく寝ねるから朝あさは日ひが昇のぼって来くると自然しぜんと目めが覚さめる。もう習慣しゅうかんになっていた。
　お兄にいちゃんは朝あさが弱よわい人ひとで、いつもぐずぐずしてたっけ。今いまとなってはそんなことも懐なつかしい思おもい出でだ。

「おはよう、ポム」
「きゅぅ」

　階段かいだんを下おりて一階いっかいにいく。

「おはようございます」
「あらおはよう。よく眠ねむれたかい？」

　宿屋やどやのおばさんだ。いやいや、お姉ねえさまかな。まだまだすごく若わかく見みえる。

「はい。おかげさまで。枕まくらも布団ふとんも気持きもち良よかったです」
「そうかい。朝あさご飯はんはすぐ用意よういするけど、ちょっとだけ待まっておくれ」
「はーい」

　先さきに井戸いどに行いき、顔かおを洗あらってこよう。井戸いどは実じつは地下ちかで繋つながっていて水道すいどうになっている。高たかさが低ひくいので汲くみ上あげるための井戸いどがついているんだ。
　高度こうどな錬金術れんきんじゅつを使つかえば、水道管すいどうかんと圧力あつりょくで水みずを地上ちじょうまで噴水ふんすいみたいに持もち上あげる技術ぎじゅつもあるけれど、お値段ねだんもそれなりなので、王都おうと全体ぜんたいをそういうふうにするのは無理むりな相談そうだんだろう。

　まだ涼すずしい朝あさの井戸いどで、水みずを汲くみ上あげて顔かおを洗あらった。
　ポムも朝あさの水浴みずあびをして、スッキリ快適かいてきだ。私わたしは部屋へやで夕食ゆうしょく後ごに水みずタオルtowelで全身ぜんしんを拭ふいたから、朝あさから水浴みずあびはしない。
　それに年頃としごろの女おんなの子こが外そとで水浴みずあびなんてはしたないし、第一だいいち恥はずかしいもん。

　ポムはそういえば、男おとこの子こだろうか、それとも女おんなの子こなのだろうか。スライムslimeに性別せいべつってあるのかな。
　どっちでもいいかな、友達ともだちには違ちがいない。ポムのほうがどう思おもっているかは、かなり謎なぞだった。

「ポムって男おとこの子こなの？　女おんなの子こ？」
「きゅぅきゅぅきゅぅ」
「ん？　三回さんかいか。どっちでもないってことかな」
「きゅぅ」
「そっか、どっちでもないんだ、へぇ」

　ポムは雌雄しゆう同体どうたいだ。きっとそうだ。見みたことはないけどウミウシという生物せいぶつとかが雌雄しゆう同体どうたいなんだって。男おとこの子こと女おんなの子こ、どっちでもあるんだよ。不思議ふしぎだね。
　おうちの本ほんに書かいてあったんだ。

　手鏡てかがみを見みながら櫛【くし】で髪かみの毛けを梳【と】かしていく。
　髪かみの色いろは金髪きんぱつ、首元くびもとまでのセミロングsemi-longだろうか。あんまり長過ながすぎると手入ていれも大変たいへんだけど、女おんなの子ことしてはそれなりに伸のばしたいのだ。
　ちょっと癖くせっ毛けで天然てんねんのウェーブwaveが掛かかっている。
　目めは水色みずいろ、いわゆる碧眼へきがんだと思おもう。
　ついでに耳みみを見みると一般的いっぱんてき人族ひとぞくより気持きもち少すこし長ながくて尖とがっている。うちの家系かけいはどうもご先祖せんぞ様さまにエルフelfがいたんだって。

「ちょっとだけエルフelf、なんだよね……」
「きゅっ」

　手鏡てかがみは自作品じさくひん。平面へいめんで反射率はんしゃりつの高たかい綺麗きれいな鏡かがみは錬金術れんきんじゅつ師しの得意とくい分野ぶんやだ。鍛冶屋かじやではこうはいかない。櫛くしももちろん自作品じさくひん。
　どちらもシンプルsimpleで装飾そうしょくとかはないけれど、フリ[fleaマmarket]を見みた感かんじ、王都おうとで買かうとかなりの金額きんがくになりそうだった。
　王都おうとでは手工業しゅこうぎょうが発達はったつしているなら、それを避さけて薬屋くすりやだけど、こういう美容びよう関連かんれん商品しょうひんとかの生産せいさんもしてもいいかもしれない。ただそういうのを作つくるには、それなりの設備せつびや器具きぐが必要ひつようだった。
　櫛くしはヤスリとノコギリみたいなものが必要ひつようだけど、ノコギリは持もっていない。ヤスリは持もってきていた。
　鏡かがみを作つくるには、携帯用けいたいようでもいいけど炉ろがいる。さすがに持もっていない。

　手鏡てかがみは全部ぜんぶで三みっつ持もってきている。全部ぜんぶ自作品じさくひんで売うれ残のこりだ。村むらでは需要じゅようが一巡いちじゅんしてしまうと、もう誰だれも買かってくれない、ということがたびたび起おこる。
　でも作つくるのは好すきだし、一度いちどにいくつも作つくったほうが効率こうりつもいいし、あとのほうが出来できがいいというのもある。

　朝あさご飯はんを食たべよう。
　ポムはテーブルtableの下したでお留守番るすばんだ。

　朝食ちょうしょくはパン[bread]とスープsoup、昨日きのうの夜よると一緒いっしょだった。昨日きのうの余あまりかもしれない。
　パン[bread]もスープsoupも普通ふつうに美味おいしいけど、道中どうちゅうの宿やどでは、ここよりも美味おいしいご飯はんを出だすところもあったので、もしかしたらハズレだったのかな。

　とりあえず、朝あさから今日きょうも露店ろてんを開ひらこう。活動かつどう開始かいしだ。

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