●３５ エールale腹ばらをジンジャーgingerエールaleでだよ

　中級ちゅうきゅうポーションpotionも売うり出だしてやや混乱こんらんしたものの、一いち週間しゅうかんほどで落おち着ついてきた。

　そんなときお医者いしゃさんからある相談そうだんを受うけた。

「いやあね、エールaleばっかり飲のんで太ふとってしまう裕福ゆうふくな人ひとも多おおくてね。禁酒きんしゅをすすめてるんだけど何なにかいいものはないかなと」
「あぁそうですね……うむうむ」
「どうだい」
「そうだ。炭酸たんさん飲料いんりょうなんてどうです」
「なんですかそれ」
「ビールbeerみたいに空気くうきが水みずに溶とけていてそれがしゅわしゅわするんです」
「なるほど」

　ということで炭酸たんさん飲料いんりょうを開発かいはつすることになった。
　ハシユリ村むらでは主おもに子供こども向むけの飲のみ物ものとして実家じっかで錬金術れんきんじゅつを使つかって炭酸たんさん飲料いんりょうを作つくっていた。
　いろいろなフレーバーflavorを試ためしてみたんだけど、ジンジャーginger、生姜【しょうが】がそれなりによかった。
　命名めいめい「ジンジャーgingerエールale」だ。
　見みた感かんじも薄うすい黄色きいろでエールaleに似にている。エールaleの代かわりに、どうぞ、ジンジャーgingerエールale。

　炭酸たんさん生成せいせいには錬金術れんきんじゅつが必要ひつようだ。色々いろいろ頑張がんばってみたけど、これは我々われわれの領域りょういきだった。錬金術れんきんじゅつが不要ふようならアウトout-ソーシングsourcingして、もっと安やすく大量たいりょうに作つくれるけど、ちょっと無理むりっぽかった。
　とりあえず王都おうとの消費しょうひ量りょうくらいは自分じぶんたちで作つくれる。

「ジンジャーgingerエールale、ジンジャーgingerエールaleはいかがですか」

　うちは喫茶店きっさてんを半分はんぶん兼かねているようなものだった。試飲しいん用ようのスペースspaceでお金かねを払はらって毎回まいかい飲のんでいく人ひともいる。お姉ねえさまたちにたまに紳士しんしもついてくるけど彼かれらにはジンジャーgingerエールaleが人気にんきになった。

「昼間ひるまから付添つきそいなのにエールaleというわけにもいくまい」
「その点てん、このジンジャーgingerエールaleなら問題もんだいない、素晴すばらしい」
「ジンジャーgingerエールaleもなかなか美味うまいぞ」

　こうしてジンジャーgingerエールaleはそこそこ売うれた。

　冷蔵れいぞうケースcase、錬金術れんきんじゅつで出だした氷こおりで冷ひやすものは、ちょっとだけ珍めずらしい。そこそこの贅沢【ぜいたく】品ひんだ。ここには元もとからあったんだけど、元々もともとなんの店みせだったんだろう。
　まぁ氷こおり専門せんもんの錬金術れんきんじゅつ師し、魔術まじゅつ師しさんたちが氷こおり屋やをやっているから、氷こおりは夏なつでも買かうことができる。ただしあまり安やすくはない。
　ジンジャーgingerエールaleはこの冷蔵れいぞうケースcaseで冷ひやして飲のむと最高さいこうなのだ。
　うちはこの氷こおりも自家製じかせいなので、費用ひようは私わたしの魔力まりょくだけで済すんでいる。実質じっしつタダだ。

「いやあ冷ひえたジンジャーgingerエールale最高さいこうだよ」

　まぁ好評こうひょうならなによりだ。作つくった甲斐かいがあるね。

　ただ、最近さいきん同業どうぎょう者しゃや飲のみ屋やからの視線しせんが痛いたい。
　私わたしはジンジャーgingerエールaleの作つくり方かたをホーランド、メホリック両りょう商業しょうぎょうギルドguildを通つうじて公開こうかいした。
　別べつに独占どくせんしたいとも思おもっていないし、最近さいきんポーションpotionのほうが独占どくせんまでいかないけど、他ほかの店みせより効果こうかが高たかいことが、知しっている人ひとは知しっているので、他ほかの店みせの売うり上あげが下さがってきていると聞きいている。
　いいポーションpotionを作つくれない錬金術れんきんじゅつ師しさんには是非ぜひに、ジンジャーgingerエールaleの生産せいさんに乗のり出だして、一緒いっしょに盛もり上あげていただきたい所存しょぞんですよ。
　ジンジャーgingerエールaleの製造せいぞうは錬金術れんきんじゅつ師しでないと炭酸たんさんを込こめることができない。でも別べつにポーションpotionのように癒いやしの魔力まりょくを込こめる必要ひつようはないので、魔力まりょくが少すくない劣化れっかポーションpotionしか作つくれないような錬金術れんきんじゅつ師しさんでも大丈夫だいじょうぶ。

　こうして王都おうとの低級ていきゅう錬金術れんきんじゅつ師したちによるジンジャーgingerエールaleフィーバーfeverが始はじまった。
　同時どうじに冷蔵れいぞうケースcaseと氷こおり販売はんばいも増ふえていてうれしい悲鳴ひめいを上あげているそうだ。

　相変あいかわらず本物ほんもののエールaleを飲のんでいる人ひとも多おおいけど、富裕ふゆう層そうは最近さいきん、各かく錬金術れんきんじゅつ師しのジンジャーgingerエールaleの飲のみ比くらべとかが流行はやっている。
　昼間ひるまからエールaleは不味まずいときに大変たいへん重宝ちょうほうされるようになった。

　ちょっとボロランさんのところへ行いったとき。

「最近さいきん、紅茶こうちゃの売うり上あげに、陰かげりが見みえてきたよ」
「そ、そうですか」
「ミレーユ嬢じょうが開発かいはつしたジンジャーgingerエールaleだったかね」
「あ、はいっ」
「紳士しんしには紅茶こうちゃよりもジンジャーgingerエールaleだ、という人ひとが最近さいきん多おおいんだ」
「なるほど」
「まぁジンジャーgingerエールaleも我々われわれが製造せいぞうしているから、むしろご婦人ふじん方がたは紅茶こうちゃの会かい、紳士しんしはジンジャーgingerエールaleと、両方りょうほうを足たした売うり上あげは右肩みぎかたあがりではある」
「じゃあいいじゃないですか」
「まあね。でも遠とおくから運はこんでくる紅茶こうちゃが、その辺へんで取とれた生姜しょうが飲料いんりょうに負まけていると思おもうと、思おもうところはある」
「あはは……」

　まあボロランさんの気持きもちも分わからなくはない。
　商人しょうにんが大陸たいりくの向むこう側がわから一生懸命いっしょうけんめい運はこんできて、やっとの思おもいで商売しょうばいしている飲のみ物ものが、その辺へんの生姜しょうがに負まけそうとか、そりゃあ商人しょうにんとしては面白おもしろくないだろう。

「いや、ジンジャーgingerエールaleはすごい。身近みぢかなものでも加工かこうすることで、大おおきな利益りえきを生うむ存在そんざいになり得えると、身みをもって示しめしてくれたんだ」
「あーなるほど」
「そうだろう。また何なにかあったら教おしえてほしい。期待きたいしている。ホーランドだけでなく我われらメホリックにも公開こうかいしてくれたことは、感謝かんしゃしているよ」
「ありがとうございます」
「礼れいを言いうのは我々われわれだ。ありがとう」

　こうしてジンジャーgingerエールaleという飲のみ物ものが王都おうと名物めいぶつのひとつになりましたとさ。

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