●１９ ついにお店みせ開店かいてんだよ

　この国くにでは十三歳じゅうさんさいを迎むかえると年中式〔ねんちゅうしき〕を行おこなう。
　それ以前いぜんは年少者〔ねんしょうしゃ〕、以降いこうは年中者〔ねんちゅうしゃ〕、そして二十歳はたちになり成人式せいじんしきをすると年長者〔ねんちょうしゃ〕と呼よばれるようになる。

　年中者ねんちゅうしゃはいわゆる半人前はんにんまえなのだった。そしてまだまだ子供こども扱あつかいされる。

　集あつまっている関係者かんけいしゃの中なかから、子供こども店長てんちょうがとか声こえが少すこし聞きこえた。

　午後ごご一番いちばん。六月ろくがつの今日きょうの天気てんきは快晴かいせい。

「おはようございます。それでは『ミレーユ錬金術れんきんじゅつ調薬店ちょうやくてん』開店かいてんです」

　ぱちぱち、ぱちぱちぱち……。

　開店かいてん祝いわいに集あつまってくれたホーランド商業しょうぎょうギルドguildの関係者かんけいしゃ、それからライバルrivalだけど来きてくれたメホリックのボロランさん、あとはうーん特とくにいないかな。
　合計ごうけいで二十人にじゅうにんくらいがお店みせの前まえで、拍手はくしゅをしてくれる。

　扉とびらの前まえの「クローズclosed」の表示ひょうじをひっくり返かえして「オープンopen」にする。
　この表示ひょうじがないと、開店かいてんしているというふうには見みえないので、どこの店みせにも似にたような表示板ひょうじばんがあった。

　お店みせの中なかに関係者かんけいしゃ一同いちどうが入はいってくる。
　さすがにこの人数にんずうが入はいるとちょっと狭せまい。

「お、さすが錬金術れんきんじゅつ店てん。綺麗きれいな色いろのポーションpotionがありますな」

　棚たなにはポーションpotion、それから練ねり薬草やくそうが、かなりの量りょう並ならべてある。
　でも後うしろには何なにもなくて平積ひらづみで見みた目めを誤魔化ごまかしてある。

　他ほかの棚たなには、ホーランドから仕入しいれた、紅茶こうちゃ、コーヒーcoffee、麦茶むぎちゃ。
　自作じさくの雑草茶ざっそうちゃ、クッキーcookie。
　冷蔵れいぞうケースcaseには、牛乳ぎゅうにゅうが瓶びんで入はいっている。
　あとは、ホーランドから卸売おろしうり価格かかくで仕入しいれた、塩しおそれから砂糖さとう、胡椒こしょう。

　棚たなや冷蔵れいぞうケースcaseはここに元もとからあったものをそのまま使つかっている。
　前まえの持もち主ぬしは商売しょうばいを辞やめて、息子むすこの家いえにお世話せわになるとかで、在庫ざいこなど小ちいさいものは全部ぜんぶ売うったみたいだけど、大おおきくて動うごかすのが大変たいへんなものはそのまま置おいていってくれたらしい。
　そしてお店みせそのものは棚たなとかごとホーランドに売却ばいきゃくしたという。棚たなやテーブルtableなどの家具かぐももちろん査定額しんさがくに入はいっていたらしい。
　半年はんとしくらい前まえの話はなしだった。

　錬金術れんきんじゅつ店てんなのに、さながら喫茶店きっさてんみたいなラインlineナップup。

　塩しおも砂糖さとうも真まっ白しろな上質じょうしつのちょっと高たかいやつだ。
　その代かわり雑草茶ざっそうちゃなんかは破格はかくの安やすさを実現じつげんしている。まあ元値もとねはタダだったわけだし。
　なお雑草茶ざっそうちゃは全部ぜんぶで三さん種類しゅるい。名前なまえとかよく知しらないので、そのいち、そのに、そのさん、と名前なまえをつけた。

「お飲のみ物ものは何なににしますか？」
「ワシはじゃあコーヒーcoffeeを」
「私わたしはお紅茶こうちゃいただけますか」
「私わたしはえっと珍めずらしい雑草茶ざっそうちゃそのいちをお願ねがいします」

　ここにある飲のみ物ものは試飲しいんができるようにしてあった。
　ちいさな木きのカップcupで、次々つぎつぎと飲のみ物ものを出だしていく。
　コーヒーcoffeeも紅茶こうちゃも、先さきにポットpotで作つくってあって注そそぐだけだ。
　それでも忙いそがしい。マリーちゃんだけでなく、私わたしも手伝てつだった。

　もちろんお茶ちゃ請うけのクッキーcookieも一緒いっしょに出だすのを忘わすれない。

　練ねり薬草やくそうが一番いちばん人気にんき、そしてクッキーcookieもけっこう売うれている。

「ミレーユちゃん、開店かいてんおめでとう」
「ありがとうございます」

　メイラさんだ。今日きょうはいつもよりおめかししてドレスdressを着きている。
　対たいして私わたしはというと、ベージュbeigeの地味じみな普段ふだんのワン{oneピースpiece}だった。
　ちょっと恥はずかしくなってくる。服ふくがばば臭くさくてダサい。
　恥はずかしいけどメイドmaid服ふくを借かりたほうがまだマシかもしれない。

「ミレーユ嬢じょう、開店かいてんおめでとうございまする」
「ありがとうございます」

　返事へんじがハンコなのはこの際さい目めをつぶってもらおう。
　今度こんどはボロランさんだった。

「弟子でしの件けん。ちょっと内紛ないふんいえ、調整ちょうせいが難航なんこうしていてね。もう少すこし待まってほしい」
「はい、いつでも構かまいませんよ。まだそこまで忙いそがしくないですし」
「そういってもらえると助たすかる」

　そう。マリーちゃんが活躍かつやくしているけど、本当ほんとうだったらとっくに弟子でしが来きているはずだった。
　でもどうも誰だれを出だすかで揉もめていると、教おしえてくれた。

　挨拶あいさつも終おわり、こうして関係者かんけいしゃ一同いちどうは帰かえっていった。

　周まわりで通とおり掛がかった人ひとなども、人ひとだかりを見みてか来きてくれた。

　その後ごも、継続けいぞくして寄よってくれる人ひとがいる。

　表おもてから一本いっぽん入はいった通とおりだけど、ここも商業しょうぎょう区くで人ひと通どおりはそれなりにあった。

　ひっそりしたお店みせも悪わるくないけど、こういうそこそこなぐらいが丁度ちょうどいいかもしれない。

　それなりに繁盛はんじょうしている。まぁ成功せいこうと言いえるのではないかと。

　ポムもぴょんぴょん跳はねて、お客きゃくさんにアピールappealして撫なでてもらったりして接客せっきゃくをしていた。えらいえらい。

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