●20. デコア
王国王都へ
朝。
宿の
少し
固い
白パンをまた
食べる。そして
乗合馬車の
集合場所の
商人ギルド
前に
行く。
俺たちの
他に
客はおじさんが
一人いるだけだった。
「人数が少ないけど大丈夫でしょうか」
「なに、王都へ行く途中で拾っていくから問題ないのさ」
俺たちは
馬車で
出発した。
穀倉地帯を
駆け
足の
馬車で
進む。
「若いの。あんた良くそこの悪魔を奴隷にしたのう」
「そうじゃ。怖い怖い。すごい甲斐性なのか。命知らずのあほうなのか」
おじさんは『セルフィールの
白い
悪魔』について
語ってくれた。
デコア
王国はたびたび、
獣人族から
土地を
奪い
返そうと
戦争を
仕掛けてきた。
しかしセルフィール
王家の
白いウサギの
悪魔の
前にことごとく
惨敗し、
兵を
引くしかなかった。
六十年前の
前回の
戦争でも
川を
渡ろうとした
船のうち
十数隻を、
一人の
白いウサギの
魔術師によって
一瞬で
燃やされ、
多くの
犠牲を
出した。
獣人族のウサギの
王家は
悪魔に
魂を
売り
自らも
悪魔になった
魔女の
末裔だと
噂されている。
「私は悪魔じゃないウサ。こんなに可愛いウサ」
「確かに顔は可愛いのう。娘にしたいくらいじゃ。しかしその体には人族を焼き殺した残虐な魔術師の血が流れておるのじゃ」
「この国の者なら知らない人はいない。皆笑顔でもその裏では怖がっているだろうさ」
俺たちは
適当な
話をしたり、いっせのーせとか
指スマと
呼ばれる、
出す
指の
数で
勝ち
負けが
決まるゲームなどをして
過ごす。
次の
村々を
経由して
四日で
次の
町まで
来た。
新たに
馬車に
乗ろうとした
若い
夫婦がいたが、アリスを
見てやっぱりやめると
言い
出した。
俺が
奴隷なので
命令できるから
安心だと
説明してやると、
渋い
顔をしたが
結局その
夫婦は
一緒に
乗っていくことにした。
最初は
怖がってほとんど
黙って
離れて
座っていた
夫婦も、
俺たちがジャーキーをかじったり、
皆で
遊んだり
喋って
笑ったりしているのを
見ている
内に、
恐怖心はなくなっていったようだった。
「おとぎ話通りの格好をした魔術師がいれば、話は本当だったと信じるほかありません」
「でも無邪気に笑う所を見れば、血の通った私たち人間とさほど変わらないと、思うようになりました」
夫婦の
女性が
気を
緩めて
言った。
麦やジャガイモの
畑を
延々眺めながら
進む。
さらに
二日、
王都アルバーン
方面へ
進んだ
所まで
来た。
馬がいななき、
馬車が
急に
止まった。
俺たちは
心配になって
御者台の
隙間から
前を
確認する。
そこには
騎兵隊が
道をふさぎ、その
後ろに
別の
幌馬車が
止まっている。
どうやら
盗賊ではないようだ。
全員降りて
様子を
見る。
御者が
騎兵隊の
人の
所へ
行って
声をかける。
「白いウサギと獣人、黒髪の人族はいるか?」
俺たちの
事だ。
見ればすぐ
分かるはずだ。
自分で
名乗り
出る。
「うむ。お前たちを拘束する。王命だ。従わないならどうなるか分からんと思え」
俺たちは
相談する。
今の
力ならここは
突破可能だ。しかし
今いる
位置が
悪い。
国の
中ほどで、ここで
倒しても
追っ
手を
振りきれない。
鳥人族などの
伝令が
先回りすれば、
挟み
撃ちに
遭う。なにより
川を
渡れない。
「従います。手荒な真似はしないでください。うちの魔法使いは荒っぽいんです」
俺が
若干嘘を
交えつつ
脅しにならない
程度にプレッシャーをかける。
四人とも
手に
魔法手錠を
着けられてしまった。これは
手を
拘束するだけでなく
魔法の
発動を
阻害するらしい。
幌馬車の
荷台の
中の
檻に
入れられて
幕を
下ろされた。
そのまま
連行される。
途中、トイレ
以外は
檻の
中だった。
夜も
馬車の
中だ。
幸いなことに
寒くないのがありがたい。
そのまま
三日間過ごして、
王都アルバーンに
到着した。
連行先はよく
分からないが
王城の
地下牢のようだ。
牢のご
飯はオートミールのようなものだった。
翌日。
牢番が
来て
牢から
出され
手錠を
外された。
「王様がお会いになる。くれぐれも粗相のないように」
牢番に
代わりメイドに
案内されて
俺たちは
城の
中を
進んだ。
アリスのお
城より
大きい
謁見室に
通された。
左右には
剣や
槍を
持った
近衛兵が
並んでいる。
中央の
道の
先に
椅子から
立ち
上がっている
王様がいた。
一八〇センチぐらいで
中肉。
緑ベースで
金刺を
施した
派手な
服を
着ている。
赤で
軽くウェーブのかかった
少し
長めの
髪だ。
顔は
四角い
感じの
顔だ。
俺的にはフツメンだ。
腰にはサーベルを
下げている。
「いやあ、すまんすまん。手違いがあって、迎えに行かせたのだが捕まえてしまった」
「それにしてもアリス王女様だそうだが。高貴な魔女が愉快な格好をしておるな」
「貴国の制度のおかげで忠誠を誓えたウサ。お目にかかれて光栄ウサ」
アリスがスカートの
袖を
広げて
頭を
再び
下げる。
「それとお父様から親書を預かってきているウサ」
アリスが
前に
出て
王様に
親書を
直接渡して
列に
戻ってくる。
王様は
内容をその
場で
読んだ。
「なかなか興味深い親書だったぞ。ホクトは異世界から来たとか。あとこれに便乗して正式な国交を樹立して、奴隷以外の獣人も入国を認めてほしいと書いてあったぞ」
「親書の内容については私は知らされてないウサ。好きにすると良いウサ」
王様から
情報提供を
受ける。
異世界召喚について
伝説では
人族ではなく
神による
召喚が
神話の
時代にあった。
召喚は
勇者を
呼び
出すものである。
勇者は
魔王討伐の
鍵になる。などと
王様は
語った。
勇者についてはさらに
東隣の
帝国が
詳しいはずだという。どれも
王家の
秘伝だそうだ。
「忠誠奴隷にしたのは正解であったな。もし一般奴隷であったのなら、わしはホクトをここで殺し、アリスたち獣人を己の奴隷にしたであろう」
「なに彼女らの忠誠を引き出せるだけの力がおぬしにあったということだ」
「わしもあと十年若ければ、可愛い子を侍らせてハーレムにしたのだがな。ここだけの話、王妃が怖いのでできんのだ」
最後には
情けないことを
言い
出した。ただのおやじである。
俺たちはこの
日は
王城にお
世話になることになった。
夕ご
飯は
王城で
頂き
泊まる。それまで
自由時間だ。
メイドに
街の
情報を
教えてもらい、
街を
見て
回る。
王城からほど
近い
公園のような
場所の
所に
露店街があった。
道の
左右にフリーマーケットのようにゴザを
敷いて
商品を
並べている。
服、
野菜、
装備品、アクセサリーなどが
多い。
「一袋いかがですか、ミルク飴です。甘くて美味しいですよ」
十五歳ぐらいの
緑髪の
少女が
売り
子をしていた。
後ろには
売れていないミルク
飴の
袋がたくさん
残っている。
俺は
一つ
貰って
食べた。
見た
目は
一センチほどの
丸くて
乳白色の
飴だ。
日本で
食べたものとほぼ
変わらない。ミルクの
濃厚さとほどよい
甘さが
美味しい。
おれは
硬貨を
一枚渡して
五〇ポルンを
支払う。さっそく
女子三人に
一つずつ
配る。
「かんだらダメだぞ。口の中で転がすんだ」
三人とも
美味しそうに
飴をなめる。
「ホクト、旅の間いつでも食べたいにゃ。あと二袋は買うべきにゃ」
「そうか? そんなに高くないしじゃあ買おうか」
俺は
追加で
二袋を
購入した。ピーテが
三袋まとめて
持ってくれる。
女子三人は
二つ
目の
飴を
美味しそうになめている。
周りの
人たちも
試食を
貰いはじめ、
次々に
購入していく。
いつしか
人だかりができて、
人が
人を
呼び、
次々に
飴が
売れていく。
そう、
俺たちはこんな
場所でも
目立つのだ。
俺たちはそっと
飴屋さんを
後にした。