●18.
東国方面へ
出発
翌日。
俺たちは
十一層を
探検した。
十一層は
魚とクラゲが
出る
魚介類ゾーンだった。
クラゲは
空中に
浮いており
氷魔法で
触手を
凍らせて
斬りつけると
簡単に
倒せた。
魚も
同じように
空中に
浮いていて、
尻尾攻撃がやや
強力だったがすんなり
倒せた。
「もう地上にはあたしたちの怖い物なんてきっとないにゃ」
「ソティちゃん、そんな簡単にはいかないと思いますよ」
新装備は
思った
以上に
俺たちの
体になじんだ。これなら
大丈夫だろう。
あまり
資金はないが、いつまでも
王宮にお
世話になりっぱなしというのも
悪い。
「そろそろ次の目的地に行こうかと思うんだ」
「ああ、今日で問題なければ進もう」
午後にはいつものように
王宮に
戻る。
王様と
話をすることになった。また
謁見室だ。
今日は
王様が
真ん
中に
座り
隣に
王妃様がいる。
王妃様はアリスとそっくりで
背も
低くぺたんこなのも
同じだ。
アリスは
俺たちと
一緒に、
王様たちの
対面に
並んでいる。
「話してあるようにアリスも一緒に行くウサ」
この
国の
東隣りにはデコア
王国がある。デコア
王国は
六十年前にこの
国、セルフィール
王国へ
攻め
込んできて
戦争になった。
今も
両国間には
正式な
国交がない。
セルフィール
王国の
北側は
海になっていて、デコア
王国を
回避してさらに
東のアンダルシア
帝国まで
船でも
行くことができる。しかしこの
船旅はたまに
嵐に
遭い
遭難をする
難所だった。
デコア
王国とセルフィール
王国の
国境には
大河が
流れていて
非公式ながら
船で
短時間で
渡ることができる。
王妃様はデコア
王国経由で
行く
安全な
道を
行ってほしいという。
「しかしデコア王国経由は大変な困難が待っているでしょう。それでもあきらめないなら行ってらっしゃい。無理なら戻ってくればいいわ」
「お母様、分かりましたウサ。行ってくるウサ」
国境警備隊にいるエルリル
第二王女とデコア
国王、そしてアンダルシア
帝国皇帝への
親書を
渡された。どれも
会えなければ
渡さなくていいという。
親書はアリスが
収納にしまった。
「王妃がうるさくてな。少ないが金貨と魔力結晶も持っていくといい」
王様が
金貨五枚と
魔力結晶をくれた。デコア
王国とは
貨幣が
違うので、
魔力結晶を
持っていって
売ってくれば
現地の
貨幣に
交換できる。
大中小の
結晶を
数個ずつ
貰った。
準備をして
明日の
朝に
馬車で
出発になった。アリスの
護衛であるギーナさんがまた
馬車で
乗せて
行ってくれる。
翌朝。とくに
見送りなどはなく
馬車は
出発した。
今度は
商品として
小麦などを
満載しているらしい。
木箱に
入っているから
他はよく
分からない。
俺は
御者台でギーナさんに
馬車の
運転を
指導してもらう。
国境までは
送ってくれるがその
先は
俺たちだけだ。
自分で
馬車の
運転をすることもあるかもしれない。
アリスが
荷台から
顔を
出してポコジャーキーを
差し
入れしてくれる。
「ありがとうアリス。でも大事に食べなよ。この先補給できないかもしれない」
「なに。ポコのじゃなくても何かきっとあるウサ」
四日後、
国境の
町に
到着した。この
町は
貿易と
国境警備隊を
中心に
構成されているそうだ。
俺は
異世界に
来てから
初めて
人族を
見た。
「人族のほとんどはこの町まで来て商品を売るとデコア側に帰っていきます」
ギーナさんが
解説してくれる。
俺たちは
警備隊の
本部に
真っすぐ
向かう。
「アリスとそのお友達、ようこそ警備隊へ。私がエルリルですわ」
アリスと
同じ
赤と
白の
似非制服を
着ている。
背格好もアリスと
同じ
一四〇センチで
王妃さまと
合わせて
三姉妹みたいに
見える。アリスが
親書を
渡すと、エルリルはその
場で
開いて
読んだ。
「了解しましたわ。アリスは川向こうへ行きたいのですね」
「よく聞いて。デコアには獣人たちは普通は入国できないの。でも例外で人族の奴隷になれば入国できるわ」
「そんな。私は王女なのに奴隷なんてウサ!」
「王女でも例外は認められないわ。お父様もお母様も承知よ」
「奴隷商の所で詳しい話を聞いて、それで決めればいいわ」
俺たちは
警備隊を
後にして、ついてきた
警備隊の
人に
奴隷商の
所へ
案内してもらう。
ギーナさんは
奴隷商店の
外で
待機している。
奴隷商店はあまり
広くない
木造の
建物だった。
奴隷商が
一人で
管理しているらしい。でっぷりした
五十歳ぐらいの
人族だった。
「粒ぞろいの可愛い子達ですね。それなりのお値段になりますよ」
奴隷商にデコアに
連れて
行きたいことを
伝える。
「でしたら、ホクト様の奴隷にすればいいのです」
奴隷商は
奴隷の
説明をしてくれた。
一般奴隷と
忠誠奴隷がある。
奴隷は
命令には
絶対服従である。
隷属の
首輪の
魔法により
命令違反をすると
痛みなどのペナルティを
受ける。
一般奴隷は
黒い
首輪をしており、
強制的に
奴隷にされる。
主人が
死亡しても
次の
主人により
継承される。
忠誠奴隷は
赤い
首輪で、
主人に
忠誠を
誓ったものだけが
契約魔法でなれる。
契約時に
命令に
主従が
同意した
制約を
設けることができる。また
主人が
死ぬと
一緒に
死亡する。
主人を
変更することはできない。
「忠誠奴隷のほうが主人に大切にされている事が分かっているため、デコアでもひどい扱いは受けないでしょう。奴隷をいじめたら主人に復讐されてしまいますから」
「一般奴隷には誰でもなれます。忠誠奴隷は魔法で認められる必要があるので、必ずなれるとは限りません」
「分かりました。私はホクトの忠誠奴隷になります」
「私もホクトの忠誠奴隷になるウサ」
「ホクト様、忠誠奴隷のほうが首輪代と手数料が高いですが構いませんかな」
「では一人ずつ契約の儀式をお願いします」
後ろで
三人並んでいた
中からアリスが
一歩前に
出る。
「それでは、まずそのローブを脱いでください。奴隷は服装や顔それと特に首輪を隠すことは禁止されているのです」
アリスがローブを
脱いで
魔法で
収納する。
奴隷商が
目を
見開いて
驚いたがすぐに
顔を
元に
戻す。
「これはこれは王家の方のようですが、よろしいですかな。デコアだけでなくセルフィールでも奴隷からは戻れないですぞ」
「よい。もう決心はついたウサ。奴隷になってやるウサ」
奴隷商は
赤い
銀色の
金属製の
首輪を
持ってきた。この
首輪を
無理に
外すと
死んでしまうそうだ。
俺は
料金である
金貨三枚を
先払いする。
俺はアリスと
制約について
確認する。
「何もなしでよいウサ。しかし優しくしてほしい。これはお願いウサ」
儀式にのっとり
俺はアリスに
首輪を
着ける。
隙間がなく
鍵もない。
真ん
中に
鎖を
着けるためのリングが
付いている。その
左右には
小さな
魔力結晶が
装着されている。
「では、奴隷の正式な挨拶の口づけをお願いします」
アリスは
目をつぶって
俺のほうに
上向きで
顔を
向けた。アリスの
顔がはっきりと
赤くなっていた。
「すみません違います。主人の靴の足の甲にお願いします」
アリスは
一度目を
開けて
気まずそうにする。
「始めては普通にしたいウサ。ホクト、キスしてくださいウサ」
アリスは
再び
俺の
方を
向いて
目をつぶる。
俺と
唇を
合わせるだけのキスをする。
二十秒ほどキスを
堪能する。
アリスは
今度は
俺の
前に
両手を
地面につけて
足にキスをした。
キスをした
瞬間にアリスがうめいた。
先に
奴隷商が
説明していたが、
奴隷契約の
魔法は
契約時に
苦痛を
与え
対象者を
試す
術式が
含まれているそうだ。
アリスが
立ちあがった。
無事に
契約を
終えたようだ。
ピーテとソティも
制約について
何もなしでいいと
主張した。
二人ともやはり
先に
口にキスしてきた。そして
無事に
契約を
済ませた。
俺は
契約を
済ますとトイレを
借りた。
戻ってくるなり
三人が
順番に
言う。
「ご主人様これからもよろしくなのウサ」
俺の
呼称がご
主人様になっていた。どうやら
奴隷商の
入れ
知恵のようだ。
「ご主人様はやめてくれ。今まで通りでいいよ」
俺は
奴隷商を
一瞥してから
店を
出た。
三人とも
奴隷になったのに
妙にうれしそうだった。
俺はなぜうれしいのか
全然分からないので
悩んだが
聞いてみた。
「忠誠奴隷は、けっ、結婚と同じような物だとっ、奴隷商に言われましたっ」
ピーテがテンパり
気味に
言ってくる。
確かに
一生面倒見るって
契約だ。
俺、これだと
日本に
帰るの
無理かもしれないな。じゃあなんで
旅してるんだろう。
なんか
本末転倒というかよく
分からない
事態になっている。
ピーテは
顔を
赤くして
恥ずかしがっている。
「奴隷とは主人の質問にしっかり答えるべきなのです」
忠誠心が
高いのが
良く
分かった。いつの
間にこんなに
俺は
好感度上げていたのだろうか。
この
日はこのまま
国境の
町で
泊まることになった。
俺は
一人、ピーテとソティが
二人部屋、ギーナとアリスで
二人部屋だ。
俺はなんだか、
気持ちとか
決意とかが
追い
付かないまま、
複雑な
気持ちで
眠った。