●14. フクベル
迷宮(3)
翌朝。
朝食を
食べた
後神殿に
向かう。
用心を
兼ねて
迷宮装備のまま
来ている。
王都の
神殿はポテポテ
町のものより
立派ではあったが、
王宮ほどではなかった。
石造りの
白い
建物だ。
貴族街の
中にあった。
俺たちはあまり
人がいない
神殿の
中に
入り、
祝福のお
願いをした。
「きっと何か一つくらいは使えると思います」
付き
添い
可だったので、みんなで
個室にお
邪魔した。お
金を
銀貨四枚取られた。
値段は
変わらないようだ。アリスのフードは
不敬にとられかねないので
脱いだのだが、やはり
巫女さんは
少々驚いたようだ。ここの
神殿の
巫女さんはオレンジ
色の
兎人族だった。
ソティの
適性結果だが、
着火、ライト、
清潔は
適性あり。
収納は
適性なしだった。
普通といえば
普通らしい。
馬車を
待たせてあるので、
馬車に
乗り
込み
迷宮に
向かう。
今日の
迷宮は
四階層へと
向かう。と
言っても
四階層へは
一階層から
十階層まで
下りれる
非常階段みたいな
場所があるのでそこを
通っていく。
「なあ、俺たち割合戦闘は楽に進めてるけど、こういうものなの?」
「いいや。普通はコボルト相手でももっと時間もかかるし危なっかしいウサ」
「騎士がコボルトごときに負けはしないウサがサクサク倒せるわけではないウサ」
「大陸ガニいないかにゃ。カニ食べたいにゃ」
四層は
普通の
土の
洞窟だった。いや、
別に
変な
迷宮を
求めてる
訳ではない。
魔物はゴブリンで、
一二〇センチの
背丈に、
茶色が
混ざった
緑色、いわゆるヨモギ
色の
肌だ。
髪の
毛がない。
最初のゴブリンは
三匹だった。どいつもぼろい
錆びた
剣や
盾を
装備している。
鎧は
着ていなくてボロ
布をまとっている。
二匹が
前で
一匹が
後衛のようだ。
俺とソティは
前衛の
二匹と
対峙して
剣を
交える。
俺と
戦っているゴブリンは、
防御に
徹しているようで
俺が
剣を
振ると、
剣と
盾を
使って
防御してくる。
ピーテは
俺の
横から
攻撃しているが、
盾持ちの
防御を
抜けないでいる。
「こいつ、わりと強いぞ。アリス魔法でやっつけてしまおう」
アリスが
杖を
構えて
集中を
始める。アリスの
魔力はかなりあるが
連戦だと
厳しいので、なるべくなら
温存しておきたい。
しかしゴブリン
側が
先に
動いた。
後衛のゴブリンが
謎言語を
発して、アリスに
雷撃魔法を
打ち
込んできた。
アリスは
短く
叫んで、しゃがみこんでしまったのがちらっと
見えた。
「あ、うん。何ともないウサ。何とか防御幕で防いだウサ。ちょっとピリっと来たウサ」
「私反対側に回って、後ろの奴叩きます」
それを
見てピーテが
剣を
構えて
二匹の
間を
突っ
込んでいく。
うまくすり
抜けて
反対側に
出て
後衛ゴブリン、いやゴブリン・メイジとでも
呼ぼう。そいつと
対峙する。
俺は
一対一になったので
少し
不安になった。しかし
相手はまだ
防御主体の
戦略らしく、
向こうからは
斬りかかってこない。
正直助かった。
アリスの
雷が
三匹共に
命中する。
前回の
雷より
音が
大きい。おそらく
威力も
強いのだろう。
ゴブリンは
全員倒れてピクリとも
動かなくなった。
少し
焦げて
煙が
出ている。
倒したようだ。
念のため
首を
切断しておく。
剣士の
三人が
胸の
辺りにある
魔力結晶を
取り
出す
作業をする。
「ゴブリン・メイジなんて初めて見たウサ。さすがの私もびっくりウサ」
俺もアリスがやられたかと
思って
心臓に
悪かった。
念のためピーテがヒールをアリスに
掛けてやる。
髪の
毛が
縮れたりしていたところが
治ったようだ。
「見た目じゃ違いがないから厄介だな。他にもいるのかな」
「ホクトはレア魔物の引きが強過ぎるにゃ」
全会一致で
俺のせいらしい。なんでだ。
「面倒はいやだな。さっさと五層に移動しよう」
五層への
下り
坂は
近くにあるらしい。すぐに
五層へ
着いた。そこはまたしても
草地だが、ちょくちょく
長い
草も
生えていて
見通しが
悪い。ポテポテ
町周辺みたいな
感じだった。
案の
定、まずはスタンダード・グラスホッパー
通称バッタがでてきた。
俺が
正面を
取り、ソティが
右側から
足を
折りにかかる。すぐにバッタは
後ろ
足を
折られてジャンプできなくなった。
動きが
鈍ったところでそのままソティがロングソードの
長さを
生かして
首を
上段斬りで
斬り
落とした。
「バッタの後ろ足って魔物の剣とかにできないの?」
「できるウサ。地方では買い取っていないみたいウサ、でも王都では買い取り対象ウサ」
ちょうどショートソードにいい
長さだ。ピーテに
持ってってもらおう。
「あと下の階層のほうが敵が強いとは限らない?」
「多少は前後するウサ。相性もあるウサ」
その
後無事に
巨大陸カニもでてきた。
巨大だし
爪攻撃も
強い。
俺は
途中で
擦り
剥いてしまった。
ソティがまたロングソードのリーチを
生かして
口のあたりを
突き
破っていた。
ソティが
勝利の
歌を
歌っていた。
即興だったろうに、
以前のをよく
覚えているな。そういう
俺もなぜか
覚えてしまっていた。
擦り
傷はアリスのヒールで
治してもらった。
回復魔法は
自分で
使うより、
他人に
掛けたほうが
良いとされているそうだ。なぜなのかは
分からない。
この
後はバッタとカニと
十回ほど
戦闘した。アイアンマイマイとも
再会した。
また
帰りに
中央広場でエイマンがジャグリングをしていた。
「エイマンさん、どんな噂集めているの?」
エイマンは
秘密だという。というか「まだ」って
言った。そのうち
教えてくれるだろう。
秘密とか
言われると
気になってしまうな。ありがちなのは
国家転覆を
狙ったクーデターとかか。でもその
噂を
公園で
集めるとは
思えない。
俺たちは
夕方になるまでの
残り
時間で
今日も
魔法の
練習をする。
今日はアイス・アロー、ウォーター・アローを
覚えた。
水矢は
当たっても
痛いだけかと
思ったが
違うらしい。
物質としての
水よりも
魔力的な
拘束がかかっていることが
重要なようだ。
「それにしても、ホクトの魔法適性は本当に驚異的だウサ。どっか頭がおかしいのかもしれないウサ」
褒められているのか、けなされているのか。それが
問題だ。アリスの
顔を
見るとうれしそうなので
褒めているんだろう。
「ところでホクトは収納をいつ覚えるにゃ?」
「ああ、うん。それは適性がないみたいだ。あきらめる」
なぜか
収納魔法はうまくできない。ピーテ、アリスがピンチの
時に
荷物が
全部なくて
俺が
動けないと
困るので、
俺はいまだに
分割した
物資を
荷物袋に
入れて
背負っている。
二人もいるので
大丈夫そうだが、
俺は
心配性なのだろうか。
今日の
晩御飯は、
五日ぶりのカニパスタに
茹でカニ、サラダなどだ。
カニのおかげで
特にソティがご
機嫌である。
「こんな美味しい食事ばかりだと、もうお家へ帰れないにゃ」
そういえば、ソティは
王都まではついてくるとは
言っていたけど、その
後の
予定を
聞いていない。
王都なら
仲間になってくれる
人も
見つかりそうだし、
無理に
東国へ
連れて
行かなくてもいいと
思う。
「ずっとアリスとピーテと一緒に行くにゃ。ご飯美味しいにゃ」
あれ、
俺ではなくてアリス
達と
一緒にいたいのかな。
俺はそれでもいいけど、ポテチをご
馳走したし、ピーテもどこまでついてくるか
不明だった。
「私はホクトが東国へ行くなら一緒についていきたいです」
「もっともっと色々なこと色々な料理を見たいんです」
「それに……ホクトが一人だと可哀想です」
そっか、
俺、
異国から
一人で
飛ばされてきたんだっけな。ずっとピーテたちがいたから、むしろ
日本にいた
時より
寂しくないくらいだった。
アリスがむくれて、
頬っぺたを
膨らませて
怒ったぞのポーズをする。アリスは
城に
帰ってきたので、
俺はそのまま
城に
留まるのかと
思っていた。
俺は
指先でアリスの
頬っぺたをつついた。アリスは
俺がつついたので
口から
空気を
吐き
出しながらアヒル
口を
作って
見せる。
「あれ、アリスも二人と一緒に行きたいの?」
「私だって、『ホクト』の仲間の一人のつもりウサ」
「私はいつも城にいなくてフラフラしてるから平気なはずウサ。それにパーティーには火力が必要ウサ」
「それじゃあ、よろしく頼むよ、アリス王女様」
アリスは
今度は
得意げな
感じの
笑顔になって
小声でいう。
まだ
少し
先だが
何故か
三人とも
東国へついてくることになりそうだ。
俺は
風呂に
入りながら、
今頃になって
嬉しいやら
恥ずかしい
気持ちになってきた。